甲越同盟
「今川勢次々と城を落としており北条は劣勢となっております」
今川は駿河を取り返し更にという勢いで攻撃をしており関東では河越城で北条綱成が大軍に包囲されていると言うことで兵を率いて駿河との国境にはいる。
「武田殿、いかような兵を出してくるとは」
今川の武将岡部が私たちの前に現れる。
「いやなに、見物に来ただけだ今はな」
そう言うと青い顔をして下がっていき私はここで陣をると氏康から調停依頼がきたので氏康と会うことにした。
「信義殿か、お初にお目にかかる北条氏康と申す」
「武田信義です。早速ですがよろしいですか」
今川との和睦は河東を渡すことで義元と話をすると伝え、
「一つだけお願いが」
私が言うと何かと警戒するので、
「我が国は港が無いので出来れば使用料を支払うので30年ほどお借りしたい」
「確かに」
「これをもって不戦としてもらっても良いと考えているが」
武田がいま兵を投入すれば北条は滅亡になりかねないので氏康も慎重になっている。
「伊豆の土肥をその周辺を整備して商業港として、警備用に小早川5隻の使用を許可願えれば」
「何か裏があるとは思うが、いまはそれどころではないからな了承した」
「税は使用料と言うことで」
念を押して最後に、
「援軍になるかわからぬが八王子と上野に兵を出す。早く河越に」
そう言って会談を終わらせそのまま義元の元へ向かう、
「氏康が根をあげたか、ならば攻め続けた方がと言いたいが」
私は静かに見つめていると、
「まあよい河東を押さえられれば言うことはあるまい」
そう言って和睦を成立させそのまま甲斐へと戻る。
河越城を包囲しているのは8万で北条勢は1万程でしかなくここで負ければ関東の支配権は霧散してしまうので氏康は和平を申し出たりと色々している様子で、内政を行っていると氏康から援軍の依頼が来たので信春と昌景に援軍に向かうように命令をした。
「河越を落とせると聞いて気を抜きすぎだな」
援軍を出すと信濃勢は上野へと進軍し、こちらは甲斐の兵だけで甲州路を東へ向かい八王子城近くまで来ると小太郎の報告を受け呆れる。
味方が優勢なので楽観的にしているのか門は開け放たれていると、
「こちらを察知していないと言うことか」
勘助が先鋒で城へ奇襲をかけると、城兵は逃げ出し呆気なく占領され城へと入った。
「海津城とここの改修を守る事より大軍が入れて備蓄も出来るように」
城の規模を拡大して東からの防衛の拠点と考えており早急にと勘助に伝える。
「それと土肥ですが使用料はそこそこで確かに通行税はとられませんが港の規模からさほど良いとは言えませぬ」
「それは別の目的があるから十分利益は出るよ」
土肥は江戸幕府で掘られた金山でそれだけで利益が出るし、金はこちらへ送らずに堺へまわしてそれで必要な物を購入して土肥から運びこむ、その山を越えて河原の近くも有望な露天掘りをできる所があるため小太郎に結界をはらせて採掘をさせることにした。
信春からの報告で河越の夜戦の事を知る。
相模原で合流後北上して向かいながら氏康は関東菅令上杉に関東の奪った領地を全て返すと伝えて氏康組みやすしと相手を安心させているところに夜襲をかけて一気に城内の味方と挟み撃ちにして数万の敵軍を混乱に落とし入れ敵将を討ち取り壊滅させたのだと、
「見に行けばよかったか」
「見に行くと言うか、参戦する価値はありますな」
信春が言うのにため息をつきながら上野に侵入した味方の情報が知らされる。
「国峰城を落としたものの長野業正が伏兵にあい味方は被害がひどくなる前に撤退をしたそうです」
「業正強しだな、被害を最小限にしたなら良しとしようか」
あわよくば国峰城をと思ったが業正がいて気を抜いていなかったと言うことで無理だとわかっていても欲しい、
「御館様、話をして見ましょうか」
幸隆が後日、気を回して聞いてきたので何度も頷いて頼んだ。
八王子城は城郭を広げて万の兵でも楽に収容できる城に普請しなおし関東での拠点とした。
八王子の北側、秩父にも兵を進め砂金を川で集めさせたり鉱山で鉱物をとる手配もしたりとしたが人手がもっと欲しいと思いながら内政に勤しんだ後は美濃へと出兵することにした。
「美濃の蝮が国主の弟を毒殺して美濃を奪った。それについてはどうのはないけど、織田と朝倉がそれぞれ土岐を担ぎ上げて南北から侵攻したらしいから我々は東から苗木と岩村を落として出方を伺う、鉄などの確保もあるしこれを使いたい」
ようやく3丁ほどが出来上がり試し射ちを行ったが、知らせてなかったので雷が落ちたと館を含め混乱してしまい、やってしまったそれを隠すために何をうろたえてるかと家臣を叱って改めて目の前で御披露目をこないだしたのだが、
「それがこないだの雷ですか」
重臣を含めて家臣達を集めた中庭で鎧を準備させ火薬をいれ弾を入れ押し込み、皿にも火薬をで準備をする。
「これが鉄砲と言うものだ、私は信春や虎胤に武勇では敵わないがこれがあれば倒せる事を今から見せる」
鉄砲を構えると胸にめがけて射つ、轟音と共に命中して信春と虎胤に鎧を見させる。
「これは確かに当たれば有効ですが、1発耐えればでは」
「そうだね、じゃあ次ね」
早合を準備しており並べて別の鉄砲を持って掛け声と共に装填し火縄をかけて射ち、早合を入れて準備を行い10発撃ち込む、
「どうだい、なれれば近付く間に3発は射てるから」
「耐えて見せます」
頑固だねと思いながらも頼もしく思い頷きながら最後に一回り大きい鉄砲を取り出し装填すると杉の板を数枚重ねたのを準備させ引き金をしぼった。
先程より大きな音で命中させると杉の板が割れて吹っ飛び地面に落ちたので拾わせる。
「この威力で耐えられれば怖いものなしだ」
そう言うと厳しい顔をした重臣達は杉の板を割って破壊した威力に驚きながら鉄砲の使い方や利点欠点を聞いていた。
美濃への出兵での準備などを話終わると虎胤が、
「十数丁ですが」
「知らなければあの音で混乱してしまうだろ」
そう言うと皆は頷き評定は終わった。
兵は甲斐の直属五千と諏訪と南信濃そして木曽のを動員して先ずは苗木を攻めることとなる。
躑躅ヶ崎を出発して諏訪で信繁と合流し飯田で昌豊が合流し一万で向かう、織田信秀が朝倉と美濃を攻めている情報は得ているので援軍への警戒はしているが、
「苗木城城主遠山から和睦をと」
「退去するなら追わないと伝えろ」
力攻めをしても落ちるとは思うが損害が出るのを嫌いわたりに船で問いかけると直ぐに降伏をしてきた。
目の前を遠山氏が落ち延びていき城内へと入る。
大きな岩を利用した城でまともに攻めれば馬鹿にならない損害が出ていたかもと思いながら次の岩村城へと向かった。
苗木から南へ少し下がった所にあり霧が良く出ており今もその中で警戒しながら進む、
「敵が霧のなか出てきましたぞ」
遠山景前だったかなと思いながらも逆に左右に諏訪衆を伏せさせ待ち構えていると霧の中から敵が飛び出してきた。
「防げ、もう少しで勝つぞ」
秋山が声をかけ遠山を迎撃して押し返す。
「陣太鼓を鳴らせ」
勘助が命令し諏訪衆が左右から襲いかかり敵は混乱して逃げようとするところを捕らえた。
「遠山景前か」
「待ち伏せていたとは無念」
これがおつやの義理の父かと思いながら降るようにすすめて了承する。
「秋山、先ほどの生け捕り見事である岩村城に入り遠山を与力として、下条は苗木に入り秋山の与力として働け」
任せると東美濃の新しく建てられた烏峰城を攻める。
この城は道三が尾張を攻めるために築城して数年しかたっていない城で斎藤を名乗る道三の養子で大納言を自称している。
「自称しかできない大納言」
「あねの尻に乗っかった大納言」
「斎藤の鼻つまみもの自称は道三でさえ呆れているわ」
「自称だけなら今日から関白じゃ」
「今なら姉の尻に逃げ込むこともゆるす」
城を囲むと兵に周囲から叫ばせていると本人なのか家臣に押さえられ鐘楼に登ってくる。「無防備だね、ギリギリ射程かな」
一番大きく銃身が長い3匁半を取り出し火薬と弾を装填して皆に待つように言うと一人で歩き始め皆が慌てるのを目線で止めて真ん中まで来る。
「自称大納言とはその方か」
相手は怪訝な顔でこちらを見るので、
「武田信義だ、勝手に自称する愚か者にお上に代わり天罰をくだす、怖ければ何処かに隠れるが良い」
相手は家臣に下がるようにと何度も言われるがそこまで言われて引き下がれるか、天罰とは如何なものか見てやろうぞと見事に挑発してくれたので素早く構えると相手を見ながら引き金をしぼった。
織田時代から数千いや万はもう越えてるだろうかこの転生で自分好みの鉄砲を数丁作らせたなかで相性の一番良いのでここに来るまで繰り返し練習しており自信を持って撃ち込んだ。
火薬の煙が上がり視界をさえぎる。
喚声が上がりどうやら天罰てきめんと思いながら視界が晴れると命中して吹っ飛んだのか大納言の姿はなく家臣達はただ見つめているだけのようだった。
自軍の方は天罰をお上に代わり成功させたと騒ぎ武田の名を何度も御館様の名を何度も連呼していると城門が開かれ降伏をしてきたので側近に大納言の遺体を道三に届けよと伝えてこの事を噂に広め、
「月にかわっておしよきよ」
と言うなんだかわからないが昔懐かしい言葉を思いだしながら秋山に任せると、
「そのまま北上して下呂そして高山の三木の桜洞城に向かうぞ」
木曽川を越えればだが今回はあくまでも資源の採掘のための領地拡張でここを押さえれば飛騨への通路は越中側に限定されるので守りやすい、山間を進むと下呂に到着し、河原からあふれる大量の湯に規模を広げてゆっくりと兵共々休んだ。
ここから桜洞城まではすぐだが三木家は出てくる様子はない、何れにしても城代をおいて小太郎管理のもと鉛や銅をと思いながら選銭を進める手だてと、京に需要があるので生産が整い次第輸出をと加治屋を領外から呼び寄せて徐々に生産をさせており小判を含めて流通を促し始めており今年から質の悪い銭と良いのを交換レートを決めて領内では流通させた。
「しかしこの銭を鋳造して悪銭にすれば数倍の儲けとなりますが」
それを心配し始めたらと言うもんだいもあるし、今まで貿易で儲けたのは悪銭が大陸で流通してそれを知ってて堺の商人が使っている。
何れにしても日ノ本が統一されれば消え去るので今のうちに領内と悪銭を嫌う京都だけでもとそう考え反対を押しきり進めてきたのだ、
「確かに短期的には儲かるが長期的には信用がなくなり流通は衰退するよ」
そんなことを話ながら桜洞城をとりかこんで信繁が攻城戦を勘助と幸隆の与力をえて諏訪衆と行っているのを観戦する。
桜洞城は空堀に囲まれた山城で攻めるに難しい、経験なので口出しはせずに本隊は昌豊と信春に指揮させ高山へと向かい二人で競い会うように次々と城を落としていき桜洞城を落とす前に三木氏と江馬氏が降伏して飛騨への侵攻は終わった。
「兄上申し訳ありませぬ」
落としきれなかった責任から信繁が謝ってきたので笑顔で、
「落とすのが目的で結果そうなれば良い、信繁に任せたのは下手に兵を損ねることがなかろうと思ってのこと、しっかり押さえてくれたので昌豊も信春も余裕をもって落とすことができた」
昌豊も信春も頷き礼を言うと安堵したのか今回の件で色々と勘助と幸隆に話をしていた。
「姉上が亡くなったと」
覚えてる限り早いと思いながら今川との関係をどうするか考え始める。
義元に嫁いだ姉である定恵院が亡くなったと小太郎が知らせてくれ氏真の後に義信の嫁になる娘が産まれてくるはずが死産となり姉上も産後の疲労で寝込んだと出発前に聞いていたが、
「飛騨は備中守に任せる。小太郎の指示にしたがって採掘を頼むぞ」
越中との国境にも鉱山はあるが追々と思いながら躑躅ヶ崎に帰還をした。
「春日と諏訪両氏が揃って話とは」
帰ってくると休むまもなく正室側室に呼び出され何事かと、
「二人で愛でたくご懐妊と相成りました」
二人揃って、運が良いのか私は笑顔で喜び体を大事にするように言いさらに、
「前から言っているが、春日から生まれる男子は武田を継ぎ諏訪から生まれる子は諏訪を次ぐ、ただし子が女性ばかりの場合は男子二人目の子を養子として育てる。良いな」
そう言うともう話し合っていたのか二人で顔を合わせて嬉しそうに頷き娘なら今川とも北条ともと考えながら評定に入った。
「御館様、お二人とも御懐妊おめでとう申し上げます。家臣一同喜びにたえませぬ」
虎胤が代表してお祝いをいってくれ礼を言い祝いとして酒と金を家臣に振る舞うと言い本題に入る。
「今川との同盟を白紙にするのも良いかと」
「今まで今川との盟があったからこそ甲斐から安心して攻略ができたから今更の話だ」
「お互い年頃の娘がおられないので丁度良いではないか」
「越後と結んだなら美濃か武蔵か上野に出兵するのであれば盟約は必要不可欠」
色々と意見が出されておりどちらの話もと言うことで、
「それぞれについては納得するものがあるが、今は上野の事と関東で飢饉のきざしがあり流民を呼び込むのと越後から頼まれている援軍、開墾や治水と鉱山等やることがいくらでもあるからこのまま盟約は続ける。ただし婚姻は子がおらぬので無しと言うことで交渉する」
最後にそう決めて評定は終わり豪華な食事と酒をだし、お見上と祝いに酒と小判を持たせて評定終わった。
「面倒、ほっときたい」
そう口まで出かかるがそう言えない、なにかと言うと僧侶の問題で織田時代なら撫で切りと言うことで済ませるが武田は繋がりが強く、富国をして民の暮らしも楽になりだいぶ切り離したが全てではない、寺にも規模によって二百石とかの毎年の寄進を行っていたが色々揉め事が出てきて仲裁に乗り出したりしなければならなかった。
「勘助、任せるよ」
最終的にそう言うと任せて開墾を最大限に人員を投入して行う、
「治水といいこれほど広げられるのは飢饉が起きると」
「何度も言ってる通り起きる。なればこそ八王子城を大きく拡張して難民を一時的に収容できるようにしたのだから」
1万人は収容できるように改修を終わらせ小太郎に関東に配下を散らして隣国甲斐は税も半々で飢饉にも対応して炊き出しをしてくれると、何かあれば八王子城へ向かえば助かると噂をばらまき後は起きるだけでその為の開墾を数年前から進めており広がった農地は農民達が分担して管理していた。
「信義様、至急のお話が」
小太郎が毎度のこと音もなく現れ勘助はなれた様子で報告書を読んでいる。
「あまりいい話じゃないな」
「旧重臣と負担に耐えかねた農兵が反乱を企てており明後日にも廃城にした上原に集結すると」
「重臣はわかるが農兵はなんで、税金も5割だし」
驚くと勘助が、
「御館様の進められた開墾の土地を維持するのに負担と、戦いに出ないので身銭が稼げないと言うことでしょう」
「もう少しだと思って見て見ぬふりをしたからか、旧重臣はともかく早めに押さえないと」
「兵を差し向ければ今なら間に合いますが」
「農兵には穏便に済ませたい、各村のの代表に会って今日中に諏訪大社へ集まってもらえ」
勘助に念のため動員させて上原へ向かわせ、信繁にも警戒をするようにと知らせて馬に乗り走る。
どうすればと思いながらもいくつか譲歩と提案を考え小太郎に伝え準備をしながら諏訪大社へ到着した。
「負担を与えていたのはすまない、そこで提案があるが聞いてもらえないか」
名主等が数百集まりこちらを見ており代表の者が頷く、
「向こう3年皆の取り分を6我らが4とする」
皆は驚きお互いを見て頷く、
「今年から来年にかけて移住をしてくる者がいるので迎えてほしい、そして開墾したがどのくらいの石高か正確にわからないので検地をさせてほしい、無論田畑によっては実りの良し悪しがあるから上中下で行うので受け入れをお願いしたい」
騙すことにはなるが年貢が低くなると言われて甲斐を含め南信濃で先ずは行い北信濃も準じ行うこととなり、これは小太郎の配下に厳密に行わせ隠し田等も見つけ数万石も増えて全体的には増収をおこなえた。
高島城から出撃した信繁と合流して廃城にした上原城へと夜のうちに向かい周囲の森や裏手の山のなかに潜ませる。
翌朝から旧重臣が次々と入城をして気勢をあげ修復を始めたので旗をたてると包囲した。
「どうやら信方(板垣)の息子信憲が担ぎ上げられております」
前の時にも上原城怠慢のかどでお役御免となったが、今回は父信方が怪我からくる病気で床に伏せている間に不満分子に担ぎ上げられたと言うことらしい、気がついたら包囲されているのに気がつき狼狽えているのがわかるぐらいで呆れて何も言えなかった。
「使者が来ましたがいかがしましょう」
もう降参かと思いながら待っていると信憲本人がかおをだした。
「不満分子があそこにおりますれば一網打尽にして後顧の憂いを無くされるのが寛容かと」
そう言われ私を含め本陣の誰もが沈黙をしているのを良いことに色々大変だったと伝えてくる。
いつ終わるのかと聞いていてようやく私が何も言わないのでさあ早くと急き立てるので、
「幸隆、謀反は」
「全員死罪にございます」
それだけ聞くと上原城に火を付けるように小太郎に言い驚いて気絶した信憲を横目に鉄砲の一斉射撃の練習台として紅蓮の炎が上がるなかを逃げて出てきた謀反人を片付けた。
「御館様、申し訳ありませぬ」
知らせを受けた信方ささえながら大広間に入る。
「してしまった事に今更だから」
お家断絶しかないがいままで色々世話になったし転封しても文句も言わなかった老将の忠義にも報いたい、
「もしお許しを得られるなら孫に継がせたいのですが、息子は私自らが成敗します」
私が信憲を斬れば孫は親の仇だが祖父がということならと言うことらしく、
「わかった。ただし板垣は謀反人の家になるから絶えて久しい一条を継ぐがいい」
自分の一条を、この世界では別の信龍になるはずの弟が育ってはいるが武田でも良いと考えているのでこのさいと提案をすると受け入れてくれおさまる。
「信方も早く傷を癒せ、しばらく湯治にいき家を立て直せよいな」
「御館様の恩情誠に痛み入る。信方必ずや報いましょう」
そう言ってささえられながら下がった。
「あれで良かったのでしょうか」
「問題はない、何かあれば私が大変になるだけだと思いたい」
勘助の忠告に感謝しながら関東では飢饉や北条の仕置きに農民が反発して村を捨て八王子に流れてきており、そこから甲斐まだ街道を整備して食事も村々で取れるようにして次々と甲斐へ南信濃へと新しい新天地に向かっていった。
「越後の中条と直江が面会を求めてわざわざ来られていると」
待ちに待った案件が来たと思いながら直ぐに通すように伝える。
二人の他に義清の配下であり景虎の叔父である高梨も入ってきて平伏した。
「わざわざ遠いところからよう来てくれた歓迎するぞ」
「はは、暖かいことば嬉しく思います。いきなりですがお願いがあります」
中条が思い詰めたように言うので、
「高梨が来たと言うことは景虎のことか」
3人が驚くのを心のなかで嬉しく思いながら更に、
「私もそう望んでおる。越後の安定は我らの安定と思っておるからな、春日山城まで攻められて心配しておったのだ」
黒田秀忠に春日山に攻められ景虎の兄が殺された件を暗にいうと3人は頷き礼を言って私は1万の兵を準備すると春日山に向かった。
今回の件は揚北衆の鳥坂城主中条藤資、栃尾城の景虎を補佐す本庄実乃、景虎の母の実家栖吉城主長尾景信、与板城主直江実綱、三条城主山吉行盛が支持をしておりしめしあわせて春日山に到着すると景虎の兄である当主の晴景に面会した。
「武田殿、兵を率いて越後までこられるとは」
「北信濃と越後の国境が騒がしいと報告があり様子見ついでにというわけです」
普通は勝手に領内に入れば文句のひとつも言うはずだが人が良いだけの優柔不断な晴景は何も言わずに話を続けるのを中条が、
「晴景にお願いしたき義があります」
「当主同士の話に割り込むとは中条どう言うつもりだ」
晴景は怒るが中条はさらに、
「当主の座を景虎様に譲り隠居をしてはいかがかと」
晴景は呆気にとられながらも立ち上がり、
「貴様謀反すると言うか、中条を引っ捕らえよ」
そう言うが誰もが動かずにおり晴景は怒鳴ろうとするのを止め、
「細かいことは解りませぬがここにいる皆の総意と言うことでしょうか」
そうたずねると皆は声をあげ同意した。
「私も兄を追い出した側として言いにくいが、従った方がよろしいかと」
「武田もぐると言うわけか、景虎め許さぬ」
「景虎殿には一切知らせてはいない、家臣達の総意だ」
そう言うと私以外は出ていくようにと晴景が言うのを皆が心配するが同意する。
部屋には二人だけになると晴景が先ずは、
「信義殿と呼んで良いかな」
「構いはしないです。私も晴景殿と呼びましょう」
そう言うとほっとした顔で、
「元々弟には討伐をさせていたが何時かはこうなるかもと不安で押し潰されそうになっていた」
「当主となれば力を見せなければならないし弱味は弱点となる」
晴景は頷き、
「わしは父のように猛勇にはなれないし粗野な家臣を押さえることができぬ」
しばらくするとポツンと、
「信義殿すまぬが甲斐に隠居の館をお願いしたい」
「よろしいでしょう、富士が見える日当たりの良い場所に建てましょう」
「私が言うのも何だが景虎を頼む、猛勇だが世間知らずで育ったからな」
そう言うと1ヶ月程で景虎を養子に迎え守護代を委譲することになった。
「信義様、今回はなんと礼を言って良いか一同礼を申す」
長尾の家臣達との話になり相手は気にかけて礼はと暗に聞いてくる。
「今回の様な大きな貸し借りはすぐにも生産した方が良いと思うがどうかな」
「確かに、我らもそういっていただけると助かりますが」
「ある場所に代官をおかせてほしい」
まだこの頃は長尾の影響はなかった佐渡にある鶴子銀山と見つかっていない佐渡金山をと思いながら、
「鶴子銀山の採掘権を、お願いしたい」
「銀山ですか、確か20貫(約50kg)程と聞いております」
「それでは採掘を始め3年後に毎年200貫銀を支払いましょう」
皆は驚き採算がとれるのかと聞いてくるので、
「駄目なら長尾家に返すだけのこと、それでよろしいでしょうか」
こうして鶴子銀山もだが江戸時代に見つかる相川金山等にも手を入れて支払う何十倍もの利益をあげていくことになるが先ずは佐渡をおさめている本間氏を追い出さなければと船を多数借り1万の兵と共に佐渡に上陸した。
「速攻で全てを落とせ、逆らうものには容赦はするな」
本間氏にも2つに別れておりお互い反目しあっている表状は、生き残るために先鋒をかって茶番を繰り広げているのを得意としていると聞いていたので彼等が出てくる前に次々と城を落とし数日中に平定してしまった。
「速攻ですな武田は、本間氏もこれではなにもできまい」
同行してきた実綱(直江)が呆れたように言うのを笑いながら降伏してきた本間氏を見る。
彼らにとってはいきなり上陸してきて気がついたら全てが終わっており引き出される。
「降伏します」
そう言い何とかここに残って今までのようにと言うことなので、
「佐渡には残って良いが、労役としてだ」
何を言っているのかわからないようなので、
「銀山で働いてもらう、佐渡は長尾家が直接支配する」
実綱に兵を入れてもらい小太郎配下の者が代官となり金山衆と忍で運用を行う事になりその範囲は実綱の管轄外でその代わり銀をおさめると言うことを再度確認して春日山に戻った。
「信義殿か、世話をかけたな」
春日山城の大広間に入ると景虎が待っており礼を言ってくる。
「義兄として長尾家の安定を夫婦共に願っておりますれば」
「そうか、姉上にもよろしく伝えてくれ、それと兄上のことも頼む」
口少なくだがこの様な事で兄を差し置き当主となることに迷いと困惑があるようで表情は険しい、
「これから何かの拍子に敵味方となるやもしれぬ、しかし越後を攻めようとは思わぬそう誓うぞ」
私が言うと景虎も、
「私も信濃と甲斐には攻めこみませぬ、末長くこの関係が続くように」
お互い誓紙に書き灰にして酒に入れて飲んだ。
これで川中島も回避できると思い肩の荷がおりる。
通商も今川との関係を考慮して越後経由を主に使うようにしながらお互いで儲けるようにと色々実綱と共に考え実行した。
越後から帰ると離散した農民の受け入れで勘助も幸隆も忙しく動き回っており、
「北条から抗議が何度かありましたが幸隆殿がのらりくらりとかえしておりますが、もうそろそろ」
「まあほっといて良いよ、こちらに兵を向けるほど現状が悲惨すぎて余裕がないし」
関東は飢饉と臨時の徴収等で農民が村を捨ててしまっているのがあまりに多すぎて税を簡素化して4公6民としたがこちらも期間限定で同じにしており流出に歯止めがかからずにいる。
「今回税率を4割にしましたが検地で予想以上の石高に、具体的には20万石の甲斐では25万石と集計した帳面からわかり4割でも10万石を確保できます」
「5割と変わらぬ、数年すれば15万と言うことで後は信濃待ちか」
隠し田も小太郎が調べていたので検地も順調であり同意した名主が吊し上げを食らったとちらほら聞こえてくる。
「ところで、自由に商売を推奨されている御館様が何故塩と米そして絹糸の専売をおこなっておられるのは何故ですか」
幸隆が聞いてくるので、
「塩は無くてはならないから塩止めされたときのことを考えてある程度大量に仕入れて値段を安くする、逆に米は窓口を1つにすればこちらで値段の調整はできるし、絹糸も農民の収入として値段を決めてそれを決めた商人に売れば高く売れて農民もよろこぶさ」
「しかし驚かされる事ばかりですが、三河はどうされますか」
話はかわり松平の話で家康の父の時代でありもうそろそろ家臣に命を狙われる。
「松平の嫡子竹千代が織田に連れていかれようやく居場所がわかったから今頃小太郎が派手に動いているだろう」
越後は同盟を結び、関東はこちらをどうできる状況ではなく狙うは三河と美濃であり、きっかけがあれば駿河侵攻もと計画しており散々今川に苦渋をなめさせられてきた家臣たちも気合いが入っている。
「それでは竹千代が到着しだい知らせと共に岡崎に向かいます」
本格的に事を構えるかは成り行きだが、岩村と飯田を押さえた事がようやく生きてくる事となり南信濃の昌豊(内藤)の軍勢に北信濃の義清(村上)が合流して進軍することになり、牽制で駿河との国境に甲斐と諏訪衆が向かうことになっており後は小太郎からの知らせで開始と言うことだった。