鉄砲と景虎
「虎昌を含め20名が集まり謀反の相談をしており決行は来週の終わり」
小太郎から報告を受けて手配をすると源四郎が館へとやって来た。
「兄から御館様に書状を」
中身を見ると領民と弟をお願いしますと書かれており私はそれを源四郎に見せて虎昌が謀反を行おうとしていると伝える。
「御館様にお願い申し上げます。兄を虎昌をお救いくださいお願いします」
そう言われて私は静かに、
「これはお互い納得でする事、虎昌は私の為に不満分子を集めてくれたのだ」
はっとした顔で源四郎が見るので、
「源四郎いくつになった」
「今年13になりました」
「少し早いが元服して飯富では今後困ろう、山県を継ぎ山県昌景として兄の跡を立派に継げ、今回信繁と共に鎮圧に向かえ」
そう言い倉から堺で購入していた赤の鎧と槍を並べさせ私が烏帽子をとり元服させた。
翌日に警戒しているので河原の民の中で評定を行う、
「勘助と幸隆は虎昌の集結場所に向かえ」
「信春と昌豊と信繁はそこに行く途中で合流しようとする者を捕らえよ」
「虎胤は諏訪に出て謀反にじょうじて小笠原が動くかもしれぬ押さえよ」
「備中守は海ノ口で山内と村上を監視せよ」
「私は後詰めで動く、各自小太郎の配下の案内にしたがい事が起これば早急に火を消せ」
皆は厳しい顔で了承する。
「しかし御館様、このような場所で開かれるとは」
「虎胤よ何処でも虎昌の目が光っている可能性があるからな、それにここの飯はうまい」
玄斎が配るように言って私は嬉しそうに食べていると皆も食べて美味しいとわかり驚く、
「相変わらず型破りと言うか合理性にとんでおりますな」
幸隆が言い皆頷く、
「門前の町も区画整備して皆が住みやすい町を造る」
「あはは、これでは皆がついていきませぬぞ」
備中守が嬉しそうに頷き酒を飲んで色々と話し込んだ。
「信義様駄目でございますよ、皆が見ておられます」
恋姫と朝からじゃれあって皆を呆れさせるほどに楽しむ、
「恋からはなれとうない、戦うのもやじゃ布団でぬくぬくしてたい」
半分は本心で向こうに伝わるようにはしゃいで過ごしており当日を向かえた。
「問題はないか小太郎」
「動き始めており入り込んでいた密偵などは拘束しております」
未だ暗い中集結させた兵を率いて勘助の元へと急ぐ、躑躅ヶ崎から下り西へ向かうと虎昌の集結地点へと向かう、予定通りなら半数以上は途中で押さえており武田八幡宮に集まるのは数百であり釜無川を渡ると包囲を完了している勘助と幸隆に合流した。
「御館様、虎昌は六百程でしょう」
幸隆が報告してくれる。
「途中で押さえたのは千二百で武装解除して農兵は戻るように命じ五百程を拘束してこちらに向かっております」
「使者を出せ、降伏せよと」
無駄だと思いながらも使者を出して待っていると別動隊が捕虜をつれて戻ってきた。
「信春ご苦労、返事待ちだ待機しといてくれ」
そう言い信繁と昌景を呼び誉めて両脇に座らせる。
もめているのかなかなか使者は戻ってこず昼近くにようやく戻ってきた。
「現状をわかっていないのか知ろうとしてないのか」
虎昌は多分関与していない返事がありそこには、
ひとつ、旧領への復帰
ひとつ、山本や真田等の譜代でない家臣の放逐
ひとつ、当主は信繁様に家督を譲り駿河へ
ひとつ、関所等の自由な設置
ひとつ、小山田氏穴山氏大井氏の再興
笑うしかなく幸隆に前面に捕虜を並べさせ前進せよと伝える。
捕虜が並べられると向こうからは悲鳴と罵声が飛び捕虜は猿ぐつわをされているので喋ることも出来ずに槍で背中を突かれながら前へと追いやられた。
相手の騒ぎが大きくなると悲鳴が起きて相手は混乱する。
「壁がぼろかったかったからね切れ込みを小太郎にいれておかせた」
「用意周到ですな、これで籠城もままならなくなりましたな」
壁が崩壊して境内があらわになり敵の混乱は狂乱へと代わり何故か同士討ちを始めた。
「兵を突入させますか」
勘助が好機と見て聞いてくるのをとめさせる、
「御館様何故に」
「信繁、彼らが勝手にしているところに兵を送って無理をすれば損ねる」
そう言って包囲を狭めるが攻めこまずに様子を見続けた。
しばらくすると首を持った者達が降伏すると叫びながら来たので一ヶ所に集めて監視させ信繁と昌景を連れて前線へと出た。
境内からは虎昌に率いられた赤備えが出てきて緊張する。
私の前に来ると、
「飯富虎昌、御館様に御馳走いたす」
そう言って単騎で出てきたので私は頷き槍を構えて馬を走らせる。
虎昌は大きな声をだし槍を繰り出してきたのをひねって反らして胸へと槍を繰り出した。
「虎昌」
槍は虎昌を貫いてその衝撃で槍を落としてしまう、虎昌は私にぶつかり大きな腕を私に首に回して笑うことがない顔で笑い、
「この様なこと今後は慎みなされ大将のする事ではないですぞ」
「すまぬ虎昌甘えてしまったわ、源四郎は山県を継ぎ昌景として赤備えを受け継ぐ」
「未々御館様と同じで未熟、未熟者同士で戦いなされ」
そう言うとゆっくりと倒れてきたのを抱え声をあげて泣いた。
「兄上」
虎昌の重みが消え信繁と昌景が虎昌の遺体を抱きかかえる。
周りは静まりかえり私はゆっくりと、
「忠臣飯富虎昌を討ち取ったり」
そう叫ぶと勝ちどきが上がり私は赤備えに、
「源四郎がお前達の頭だ、今まで通り仕えよ」
一斉に下馬して頭を下げ昌景の周りに集まり虎昌の遺体を担いで昌景の指揮のもと領地へと向かい私は信繁に支えられながら残った者の元へと向かった。
味方だったはずの仲間の首を切り前に置く、私はただ彼らを見つめており静寂が流れる。
「幸隆後は頼む」
彼等は金山や治水の重労働に、女は金山の女郎か出来たばかりの甲斐吉原で小太郎の管理のもと慰みものになり、子供は1ヶ所に集められ小太郎の監視の元忍び等にさせられることになる。
躑躅ヶ崎に戻ると虎胤と備中守からは動きはなく静かと報告が来て虎昌がそうさせなかったと思い感謝して過ごした。
「昌景、信春と昌豊と共に木曾を攻めよ、私は虎胤と勘助と共に小笠原を攻める」
ふたてに別れるのは下策と言えば下策だが謀略でそれぞれの家臣達に揉め事をおこし他の領主とは敵対関係になるように仕向けている。
小笠原にも武田の旧臣が謀反を起こしてごたついてると言って侮らせることもしており出陣も知らせ塩尻峠で待ち構えている。
諏訪で信方が合流して峠道へと進む前に諏訪で陣を構えた。
「夜襲に向かうぞ」
陣はそのまま小太郎の案内で塩尻峠を下から見上げながら進み松明の光が届かない場所で半包囲すると時の声が上がった。
「信繁、上手くいったな」
先行させた信繁は茅野から南へ下り辰野から北に上がって背後に回り込んで夜襲をかけ私達もその混乱にあわせて小笠原勢に夜襲をかけた。
「長時を捕らえよ」
そう言って突撃していき次々と討ち取られる。
「勘助、陣太鼓を鳴らせ」
地の底から聞こえるような小さく小刻みな音は周りに響きそれを聞いた信繁は小笠原の本拠地に向けて駆け抜け、その他の者も支城に向けて一斉に動きここには私と勘助の本隊五百のみで掃討を行った。
「信繁様林城を落としました」
これで城代を勤めさせると思い、次々と落とした城の報告を受けながら村上と山内上杉との戦いを考える。
これから関東で起こる川越城夜戦や災害による避難民の保護と言う人材の引き抜き、そして駿河の河東での今川と北条の戦いで漁夫の利を得なければと、
「長時を捕まえました」
報告を受け捕らえた者に銭を報償として渡し長時を引き出させる。
「降伏する。命だけは頼む」
特に迎え入れたい訳でもないので考え労働力として一族共々と言うことで騒ぐのを無視して連れていかせる。
林城へと入り皆が揃うと先ずは、
「林城は対村上の要所となるので信方が城代を勤めよ、そして信繁よ今回の夜襲と林城を落とした事見事だ、改修が終わる高島城の城主にそして諏訪勢をおさめよ」
皆が驚くのを、
「元服前とはいえ私を支持してくれたからな、一門筆頭として頼むぞ」
信繁は興奮しながら平伏して備中守に補佐を頼んだ。
「次は支城を2つ落とした虎繁(秋山)か」
織田の頃はこのふてぶてしさと大胆さで信長を怒らせ磔にされたがまだまだ若い、
「昌豊の与力として飯田城城代とする」
若い者もどんどん取り立てて人材の充実をはかる方法を示していく、
それからしばらくして木曾は降伏し木曾の一族は信方の家臣となり林城の支城のひとつを任せ、木曾には満頼(多田)を城代として入れた。
「源五郎その方もようやった、私直属の侍大将に命じる。そして春日は未練あるまい乗っ取られてしまったからな、なれば高坂の家を継ぎ高坂昌信と名乗るがよい」
元々領内を走り回っていたときに姉夫婦から騙されて追い出され途方にくれていたのを小姓として取り立てて、今回はお使い番で出陣して色々な活躍を見せてくれたので予定通りと言うか取り立てる。
「御館様には格別の御配慮ありがたく、一生懸命勤めさせていただきます」
そして教育をするために幸隆の息子信綱や虎胤の息子虎昌等を小姓にして英才教育を施した。
「昨年は皆ご苦労だった」
正月の年賀で皆躑躅ヶ崎に集まって祝いをする。
「大きく国を広げることも出来たが未だ村上や上杉が佐久や小県にいる。先ずは佐久をすべて取り戻すのと今年と来年は防衛以外の遠征はせずに改築や街道の整備、治水や開墾を積極的に行う」
「もう少しで信濃を統一できますが」
虎胤が皆の胸のうちを代表して聞いてくるので、
「1つは民が疲れているだろうと、そして今川と北条の河東の奪い合いと関東での争い」
皆は静かに聞いているので、
「流民を積極的に受け入れ田畑をひろげ、飢饉を回避できるように溜池も、人が増えれば国力は自ずと上がるから」
話ながら色々とする事を思いだし整理していく、
「家臣同士でいがみ合わずに開墾して石高を増やすあらそいをしてほしい」
そう伝え酒や珍しい食べ物、料理をこれでもかと出してご機嫌にして年賀を終えた。
「信繁どうだい諏訪は」
「なかなか難しいですがやりがいはあります」
茶道も取り入れようと茶室を作り先ずは信繁を呼ぶ、茶をたて信繁の前に置くと一息でのみほし苦そうな顔を我慢している。
「これが上方での付き合いだ、家臣達にも京に何れはと」
「どの様な物なのでしょうか」
「お高くとまっているからな、作法が出来ているかや茶器を品定めしている」
「武士である私達にも必要ですか」
「落ち着かせるのと領地は有限、代わりに良い茶碗などを褒美で与えればと言うわけだ」
「わかりました、高島にも同じ様な物をたてて覚えます」
「茶道の教えるのは私か堺から連れてきた大隈と言うのがおる連れていき覚えるが良い」
こうして少しずつ武田の中に茶道を広め、信長と同じように許可がなければ茶会が開けないとして私か信繁以外はしばらくは認めなかった。
「引けや、そおれ」
私は朝から釜無川の河原におり巨石を河の真ん中に移動させており、祭りのように賑やかにさせながら何百の人々が河の中に引いていく、この巨石を置ければ流の勢いが減り堤を破壊されないように出来るので皆頑張っている。
対岸では堤の向こうに遊水池をつくり決壊したときの事もかんがえ、同じ様なことが領内で行われており戦いがないのも良いなと考えながら戦国の世とこの風景を目に焼き付けながら過ごした。
一年以上を内政につぎ込み飢饉があったが何とか死人がでないように食料を今川から買ったりとして過ごしているとようやく今川が動き出した。
「今川が北条に河東を返すようにと交渉を持ったと言うことです」
皆は呆れながら遊女から酒をついでもらう、甲斐吉原も景気がよくなり駿河や関東からも足を伸ばす者があり賑わいをみせている。
「皆の慰労を兼ねて入り浸りは困るけど、さあ飲んだ飲んだ」
三味線が鳴り響きこの世のものとは思えないほどの華やかさに皆圧倒される。
「しかし御館様には相変わらず驚かされると言うか」
「呆れるだろ」
虎胤が言うのを答えると皆一瞬止まったが笑い始め、
「参りましたな、呆れると言うよりはこれが京なのか、勘助は行ったことがあろう」
「いえ、私の頃には京は荒れ果て死体も野ざらしで甲斐よりもひどかったので」
「そうか京もその様なことがあったのだな」
そんなことを考えているとふと思う、鉄砲もさんざん作ったし改良したしもうそろそろ国友に伝わってもいいころか、小太郎に給金を支払うからといや自分で説明した方が言いと思い立ち上がり、
「急いで会わなければならないのを思い出した。中座ですまないが楽しんでくれ」
綺麗所に毒されてる重臣を置いて小太郎に手配させ近江の国友へ向かった。
「甲斐国主の武田信義様にございますか」
国友の村長話に急ぎあうといきなり切り出す。
「全部で二百人なら家族をあわせて千人で二千石で、材料はこちら持ちでお願いしたい」
村長は困惑した顔で、
「我々に何を作れと言うのですか」
「鉄砲と言うもの、唐や南蛮では使われており私は作り方を知っている」
そう言って思い出しながら鉄砲の大まかな形と造り部品などを紙に書いていく、何十枚と書き続けていると村長が、
「わかりました、武田様の熱意に負けました。騙されたと思って甲斐へ向かいましょう」
そう言ってくれ私は思わずガッツポーズをしてしまい怪訝な顔をされてしまうが、
「小太郎、浅井氏に気取られぬようにこれだけの人数を甲斐に頼むぞ」
そのままトンボ帰りで戻ると鍛冶屋町の区画を躑躅ヶ崎から下る途中の水捌けのよい土地を寺を移動してもらい造り村長が到着したら大工を動員してと言う手配までした。
鉛も採掘させ硝石はトイレの下から掘り出して大量に集めるように言い、躑躅ヶ崎の裏手要害城の周辺で硝石を取る施設を密かに造らせたりしてすごした。
「御館様落ち着きなされ」
虎胤から言われたが結婚式は緊張する。
長尾為景の娘が輿入れして春日の方として正室に入り、側室として恋姫こと諏訪の御寮人が正式にはいる。
経緯はすでに長尾にも話をしており了承して本日を迎えた。
腹違いであるが謙信と義兄弟となりこれで信濃で争わなくて良いかもと思いながらもひとつ下の正室は恋姫に劣らずきれいで優しかった。
「信義様末長くよろしくお願いしいます。諏訪さまよろしく」
「春日さまよろしくお願いします」
正室と側室で上手くやってほしいと思いながら、
「先ずは北信濃から上杉を追っ払い村上をたいらげ越後との障害を取り除くつもりだ、頼むぞ」
こうして三人で仲睦まじく翌年には春日がその次の年には諏訪が男子を産み安心することとなる。
戦いの方は幸隆と小太郎が内応を前から行っており後は攻めこむだけと言う状態だった。
兵を集め出陣する。
先鋒は信春と昌景、左右に幸隆と信方、本陣に私と勘助と信繁率いる諏訪衆、そして後備えは虎胤だった。
正面には上杉勢が到着しており当主憲政は出てきておらず大将は由良だった。
「作戦通りに」
陣太鼓が鳴り響き信春と昌景が突き進む、予定通り両翼の幸隆と信方が先に西上野衆とぶつかり戦端を開くと中軍の佐久衆が急に下がりその空いた空間に信春と昌景が入り込み左右に別れ敵の両翼に突撃した。
内応した佐久衆が反転して本陣の由良を攻撃し始めすでに崩壊し始め逃げ出す。
呆気ないほど簡単に勝利をして佐久を手にいれると幸隆に任せて本題の村上氏との戦いとなった。
「数は一万二千を揃えたし、前世の様に信方が敵前面で首実検をする事も無いはずだし、内応で疑心暗鬼になって士気は低いからこれで負けたらへやにこもるな」
南側峠を越えて小県に入る。
足軽も雇い兵力は総動員で村上勢の倍そろえ戦う前から勝利を確実にしているが晴信が負けたことが思い出され不安になりながら段々になっている平野上田原に到着した。
地形的には千曲川が北西から南東に斜めに流れており西に砥石城、北に葛尾城が望める場所で小川の手前で展開させる。
「御館様の作戦通りここですか」
ここと決めつけ作戦をたてておりそれがようやく現実となり一つほっとする。
先鋒は信方の元小笠原勢に任せ左翼に信繁と備中守率いる諏訪衆、右翼には内応したばかりの佐久衆率いる幸隆と昌豊率いる南信濃と木曾衆が入る。
私は本陣で勘助と見守る。
「敵が動き出しました」
勘助がそう言って陣太鼓を鳴らさせる。
川を渡り村上勢との戦いが始まり長槍で叩きあい信方の旧小山田勢が河原の石を投げつけ相手を攻撃する。
今回は村上勢も粘っておりなかなか崩されずにおり一進一退で時間が経過していく、今回は勘助に指揮を任せており黙って見続ける。
「信方の勢いが、いや一部の兵が逃げ出している」
旧小笠原勢がわざと逃げているのかそれに呼応して右翼の佐久勢も逃げ出し虎胤が押しとどまろうとしており崩れる危険がある。
援軍をと勘助に言おうとする前に西の砥石城から煙が上がり勘助が、
「砥石城武田がもらった」
そう言うと伝播して村上勢は崩れ押し返えした。
「原様討ち死に」
驚いて右翼を見ていると虎胤の旗は動いており誤報ではないかと思っていると家臣に担がれた虎胤が本陣に連れてこられた。
「死に損ないですが息子盛胤に追撃させております」
そう言って崩れたので小太郎を呼び手当てをまかせた。
「さて信春は義清を捕捉できたかな」
この戦いの重要な点であり逃がせば後々面倒になるのを知っているのでこの戦いでは遊軍にして退路を断たせ義清を捕らえさせる計画である。
どのみち勝利したので葛尾城を落とすために進む、桂を付近まで来ると信春が出迎え義清を捕らえたと引き出してきた。
「その方が村上義清か」
私はそう言いながら縄を解かせて座らせる。
怪訝な顔をしながら座ると、
「いかにも俺が村上義清だが、どうする首を跳ねるか」
肝が座っているのか動じずこちらを見るので、
「剛の者と聞く、家臣になってくれるなら葛尾城をそのままでよい」
「裏切るかもしれぬぞ」
「それはその時、私が信じた馬鹿者で裏切り者は信におけないと周りからさげすまされる」
そう言うと大きく笑い降る事を了承した。
翌日から善光寺周辺の豪族を平らげ北信濃を平定して終わった頃に知らせが来た。
「そうか今川が動き出したか」
北条から河東を取り返すために動きだし氏康は関東での上杉の連合軍とも戦っており苦しい戦いになりそうだ、
「上野と八王子に何時でも攻められるように準備はしておいてくれ」
皆に伝え私はそのまま挨拶のため春日山に入城した。
「義父上におかれましてはお初に御目にかかります。甲斐国主武田信義にございます」
「床からすまぬ信義殿、長尾為景じゃ」
すでに顔色も悪く気力で生きていると言っても過言ではない状態で嫡子晴景に家督を譲ったが頼りなさ過ぎてと言うことだろう、
「越後も来たがっておりましたが雪もふりはじめており風邪をひいたので止めさせました」
「そうか、気にかけてくれありがたい」
そう言うと晴景を紹介してくれる。
「越後守護代長尾晴景である。楽しみにしておった」
守護代を強調してなおかつ楽しそうではない陰気な顔をしている。
為景が明日やも知れぬと言う事で揚北衆が不穏な動きをしていると言うことでそれどころではないようで程ほどに行ってしまった。
「申し訳ない、晴景も必死なのはわかるがな」
「気になさらずとも、たしかその下にもおられるとか、仏門を熱心にされ軍略も中々と聞いておりますが」
「ふっ、よう知っておられるな、確かにいるがあれは僧侶にさせるから」
そう言いながら咳をしはじめたので早々に退去することになり景虎に会うために寺へと向かった。
「その方が姉上の婿か」
13才とは思えないしっかりとした青年に嬉しくなりながら、
「はい、武田信義と申します。お見知りおきを」
そう言いながら黒い甲冑と太刀を贈呈として渡す。
「これを使用される時も近いかと」
「そうか父上はそんなに悪いのか」
「はい、残念ですが、何かあれば援軍として参りますので」
景虎は頷き私は甲斐へと戻った。