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異能者

「うわ、見慣れた天井」

一生を終えてからだが軽くなり重くなる。ゆっくりと目覚めると天井なのだが見慣れたぼろさに体を起こす。

寒さで咳が止まらず口に手を当てて落ち着かせる。

「ひ弱な体だけど、誰なんだろう信龍ではないみたいだし」

誰もいないので起きてふすまを開けると泣き叫ぶ声がして、

「武松、武松」

と泣き叫ぶ声に聞き覚えがあり廊下を歩いていくと数人が集まっており大井の方や信虎がおり病気でなくなった晴信の兄だと気がつき、それじゃあ自分は誰なんだろうと考えていると、

「犬千代様、布団からでてはお体にさわります」

侍女の一人が気がつき泣いていた大井の方もはっと顔をあげて渡しを見ると駆け寄り武松と犬千代の名前を何度も繰り返して泣くじゃくっていた。


「表に出る」

そう言いながら信虎が立ち上がって出ていこうとしたので、

「私は兄上の分まで父上を助けていきたい」

外見は幼児だが中は何度も爺となった精神年齢であり信虎が欲するであろう言葉を口にすると、私を見て大きな手で頭を撫でて、

「犬千代頼むぞ」

そう言って出ていき晴信は静かに黙って兄の死を悲しんでいた。

「お腹がいたい」

私の顔の横で大井の方が小さく言うのを驚きどうやら臨月でお腹が張っていると言うことがわかり、

「兄上、弟が生まれます。早く」

晴信も未だ幼児であり何が出来るもないが侍女達が慌てて出産の準備をし始め、晴信は私の手を取り部屋へと連れ戻してくれ布団に寝かせてくれた。


真っ直ぐ正面を見続ける晴信に、

「泣いても良いんですよ兄上が亡くなったんですから」

そう言うとこちらを見てゆっくりと目に涙をため頬をつたっていき、私も感情をどうかさせたのか涙が自然とでて泣いたのだった。

しばらくすると元気な赤ん坊の鳴き声が響き思わず、

「弟が生まれました兄上」

「なぜ弟とわかるんだい」

不思議な顔をするので、

「兄上の生まれ変わりです。きっとそうです」

そう言うと頷いて起きるのを手伝ってくれて大井の方の部屋へと再度向かった。


「この子が武松の生まれ変わりだと犬千代は言うか」

晴信が私の話を信虎に言うと驚きながら私を見たので、

「母上が思う心に兄上が頷かれ私の体を通って母上のお腹に入っていきました」

思わず口に出た言葉に大井の方は何度も頷き信虎は弟を抱き上げ、

「そうか、生まれ変わりか、それなら次郎とする」

名前を決めて満足すると私に何か希望はあるかと聞くので、体を丈夫にしたいので遊び友達が欲しいと言うと笑いながら頷きすぐにでもと言ってくれた。


翌日から朝起きて寒風摩擦をしてストレッチや簡単な運動をする。

このままいけば7才で病死するとわかっていたので歴史を先ずは今回変えてやると思い、マスクをつくってもらい栄養のあるものを庭で探して料理に入れてもらった。

読み書きは記憶があるのでさほど実をいれずに体力の向上をはかっていると父から呼ばれて一人の少年を連れてきた。

「教来石が所の息子だ、息子の犬千代だ頼むぞ」

そう言って紹介してくれ平伏して挨拶をしてくれた。

「気にしなくて良いよ、犬千代と呼んで孝太郎と呼ぶから」

教来石の名前に美濃の守かと運の良さを歓迎に表して寝るのも隣どうして寝て体力づくりを手伝ってもらいながら過ごした。


数年がたち体も見違えるほどたくましくなりつつあり外にも出してもらえるようになる。

「兄上待って」

振り向くと次郎がよたよたとこちらへ来たので抱きついて迎えて、

「次郎、かわいいなお前は」

そう言いながら撫でると嬉しそうに目を輝かせて抱きついてくる。

晴信が二十歳の時に起こすのを何とかしようと思い行動にうつすことにしながら次郎を溺愛して可愛がった。

翌日朝早く起きて孝太郎と朝食を食べると母である大井の方に、

「館の周りももう少し探検してきます」

そう言うと、もうすでになれてしまった大井の方は頷き、

「孝太郎頼みますよ」

そう言って送り出してくれた。


「どちらまで行かれるつもりですか」

私は何時もは正面を出ると躑躅ヶ崎の館を一周回るのだが今日は宣言した通り富士が正面に見える長い下り坂を進み始め孝太郎があわてる。

「下の河原まで」

帰りは何とかなると初めから考えていたのでそのまま下り河原に出ると見つけた。

「犬千代、あの集団は不味い、かどわかされて何処かに連れていかれるぞ」

心配する孝太郎をなだめながら探していた人の前に立った。


「武田信虎が三男犬千代、長老頼むぞ」

行きなり声をかけられ河原の長老は声の主が私だと気がつき驚きながらも笑顔で頷き、

「玄斎と申します。犬千代様は国主様のですか、私にいかような用事でしょうか」

幼児の私を見ても侮らず聞いてくれたので、

「異能者なのだけれども頼みたい事がある」

孝太郎驚いているので後でねと言いながら、

「金の採掘現場を教えるので南蛮渡来の技術で金を採掘してほしい」

「金ですか、それとその技術とは」

そう聞かれたので採掘現場から金の鉱石と水銀が出る場所を伝え皮の準備を頼むとおなかがすいたと笑わせる。

「わかりました。来週には揃えられるので、しかしなんで私達にでしょうか」

「それは、自分にお金がほしいから色々したくて、ここの皆の為に区界(法が及ばない場所)をそう吉原みたいなのを造りたいから」

そう言うと玄斎は驚きながらも、

「異能者とは」

「前世の記憶があり世話になったからね上無しの皆に」

そう言うと頷きながら鍋のごった煮をお椀に入れてくれたので喜んでおかわりしながら食べた。


「犬千代は変わってると思いましたがすごいの一言ですね」

長老の指示で私達を男二人が背負い館に送り届けてくれ部屋で一息つくと孝太郎がいつもと違い興奮した様子で言ってくる。

「これからもっとすごいよ、それとひとつお願いがあるんだけど」

「何でしょうか、犬千代のためだったら何でも」

「孝太郎と義兄弟になりたいなと、孝太郎が年上だから兄で私が弟、二人の時には気兼ねなく兄弟のように接してほしい」

そう言うと嬉しそうに頷き酒の代わりにお茶をたて小柄を指に少しだけ刺して血をお互い入れて飲み干し、

「生まれや時間は違うが、願わくば同じ時に命がつきるように天にお願いする」

こうして孝太郎と義兄弟になり嬉しさにその夜はなかなか寝付くことが出来なかった。


一週間後、孝太郎を連れて河原に向かうと玄斎が出迎えてくれる。

「犬千代様、言われた通りに場所3ヶ所で有望な金鉱を見つけることが出来ました」

そう言って材料を揃えてくれ指示通り鉱石を砕き指示を与えながら灰吹法で効率よく金を取り除き皆を驚かせる。

「これは、この量から倍近く取れます」

金山衆らしい男が驚きながらもう一度と言ってやりはじめたのを横目で見ながら玄斎に、

「この技術、一族のみで伝えて良いよ、お金はいらないけどもしもの時には手伝ってほしい」

「よろしいのですか」

驚きながらも他の土地の者たちにも了承を得ますと言って、代わりに湯気が上がっているお椀を渡してくれ私は嬉しそうに食べ尽くした。

「犬千代、あれって金だろ、あんな風に取れるのか」

「普通のやり方だともっと少ないよ、あれは異国の技さ」

感心したように納得して一定以上産出した物は私がすべてもらえることになりほくほく顔で館へと戻った。


数日後、玄斎からの言伝てで明日の夜に抜け出せるかと聞かれ迎えがあればと伝えて翌日夜中に起こされた。

「音をさせないのか」

小男で無言で頷く相手の背中に乗ると風にように庭を抜け壁を越えて町中を音もなく駆け抜けていく、私はいたずら心に火がついてしまい耳元でささやく、

「風魔の小太郎さんだね、僕の勝手な思い込みだけど、大男で口が裂けて牙があるなんて、本当の姿を隠すための噂かなと、この身のこなしもだし」

そう言ったが動揺もせず走り抜けると河原に到着した。


河原の小屋に通され中には奥に大男と左右に男達が並んでおり玄斎が話そうとすると小男が止めた。

「何故そう思った」

小さい声だが嘘は許さぬと言うのが伝わり玄斎が唾をのみこむ、

「話しましたが私は前世では一条信龍と言い武田の一族として戦った記憶もあります」

少しだけ大きく深呼吸をして、

「河原の上無しの民も風魔も元は海を渡ってきた一族と知っております。何より女性達を身元関係なく溶け込ませたい」

吉原の女性達は借金で身を落としたと思われがちだが上無しの民にとって身分を疑われることなく身請けで結婚できる唯一の場所であり、蔑まされずに生きていくことができると、

「玄斎からも聞いている。犬千代殿の言うことわかった。風魔の棟梁として一族のため協力する」

自分は未だに幼子だが信用してくれ費用は灰吹法での算出が増えたのを当てると言い、情報と謀略を引き受けると言うことになり後日家臣からの推薦を受けて私の配下として表向きは働いてもらうことになった。


翌日から色々情報を調べてもらい調べていき体力もつけるために孝太郎と剣術と学問を習う、

「小山田からの推薦で風間小太郎殿だ、しっかり習うがよい」

馬だねと思いながら小太郎に丁寧に頭を下げて新たに離れに小さな庵を建ててもらい孝太郎と小太郎と共に移り住む、

「私は体づくりと状況の把握を教えます。そしてもう一人守役として原虎胤殿です」

下総出身の武将で信虎とも関係は良好で追放の時も異議を唱えた情に熱いが鬼美濃と呼ばれた猛将でその異名を孝太郎がいずれ継ぐ、

「原虎胤と申す。若様には武田の一門としてしっかりとした意志を持って事に望むようにと考えております」

「武田犬千代だ犬千代で良い、至らぬこともあるがその場で言ってくれ」

そう言うと頭を下げて了承して孝太郎と共に習っていく、


騎馬は苦手なのだが体づくりと共にしごかれ小太郎と孝太郎と共に遠出したり玄斎の所へ顔を出したり少年期に積極的に動き金は毎度のとおり堺で南蛮貿易に投資している。

「若、もう終わりですか」

虎胤は名前では呼ばずに若と呼びながら剣術で吹き飛ばされて背中を打つ、歯を食い縛りながら息を整え切りつけるが簡単にはね飛ばされようやく稽古は終わる。

「お願いします」

孝太郎が木刀を持ち虎胤に打ちかかり必死にはね飛ばそうとするのを耐えておりゆっくりと起きて二人の稽古を見続ける。

孝太郎は力ではまだまだ叶わないはずだが正面から何度もうちかかり午前中の稽古は終わった。

水浴びをしてさっぱりすると小太郎が馬で我々を連れ出して正門から坂を下り色々なところへと連れていく、ただし休憩の時に通った場所での事を聞かれるので道行く人の顔や動き、状況を考えながら進むので体を使うより疲れる。

「何事にも感が大切です。状況を見て把握する。そして自分の行動一つ一つにも意識を巡らしていきましょう」

到着すると商人の行動、商品の並べ方で商売が繁盛しているかなど話に上がり意見を交換する。

「犬千代様、戦いの場面でで旗が動かない相手や槍がそろっている相手は精鋭で士気も高いと思います。その場合どうされますか」

「こちらも士気が高ければ戦うけど、低いときは守りに徹するかな」

孝太郎も同意していき、父親の領地で気になるところがあれば父信虎に伝えた。


そして今回、信虎の海ノ口城攻めで兄晴信と孝太郎は景政と元服して初陣となる。

「このような鎧と槍、犬千代様には何と礼を言って良いか」

貿易であげた利益の中から京で特注の黒い鎧と高名な鍛治師の槍を自分の分とあわせて注文していて今回急ぎ届けられ小太郎が手伝い身に付けていく、

長篠の戦いまで無傷の景政の黒い錫で出来た先祖出身の土岐桔梗の花を兜にあしらいはっきり言ってかっこいい、

「何かあって遅れをとれば虎胤にも顔向けできまい頼むぞ」

そう言って送り出した。


鬼の居ぬ間にではないがこの間に馬と船を乗り継ぎ堺へ行って戻ろうかと考えており小太郎に手配させていた。

「母上、風間と元服に備え野山をかけて野宿をして体を鍛えようかと思っております」

大井の方は嬉しそうに頷き気を付ける様にと甲州金をおこずかいで渡してくれ景政が出征した午後には駿河へ到着して清水から船に乗る。

その時に駿府で浪人をしていた山本勘助を思いだし家臣にと誘うと二つ返事でつかえることになり船に飛び乗って堺へと向かった。


「山本勘助と申します」

刀傷が目立ち義元に嫌われてしまったのだが私にとっては頼もしい懐かしい一人なので、

「武田犬千代だ、来年元服予定でありしばらくは父信虎に仕えてもらうかもしれないがな、これは当面の支度金だ」

そう言いながら母からもらった甲州金を渡すと、

「ありがたき幸せ、所で上方に向かっておられるようですが」

「堺へいく、元服すれば気軽にいけないし色々見聞きしないといけないからな、勘助、犬千代と呼べ」

「手慣れているご様子、自由になるお金が少ないと思われますが」

「内緒で稼いださ、10年近くでかなりもうけさせてもらったから」

毎年取れる金をすべてつぎ込み、小太郎の一族からもお金をかりて南蛮貿易にお金をつぎ込んで甲斐国主である父の財産に比べるまでもない財産を築いており挨拶と今後のと思いながら、

「私のやり方はかなり変わってるから、疑問があれば聞いてきて、ただし腹心の者達が居いるときだけ、ちなみに風間もだから、情報を一括で管理しているから知りたいことがあれば聞いて」

「わかりました。風間殿よろしくお願いします」

そう言って色々なことを話ながら堺へと入港した。


「武田犬千代と申します。堺の方々には色々ありがとうございます」

豪商と呼ばれた千利休も1才違いでまだ若いが茶匠北向に師事しており今回もその席に呼ばれる。

茶の作法から値踏みをされているのはいつもの通りで少し早いが利休から伝えられた作法で行うと小さく驚きの声があがる。

「その作法は何処で」

「見聞きしたのと独学で考えました」

大嘘つきだがインパクトを与えるためで何人かからは妬みの声も上がった。

「しかしその年で莫大な財産を貯蓄し送ってくる金も質が高いもので驚いていたのです」

席を移動して千が師事している北向に引き合わせてくれその席で色々聞かれ答えていく、

「よろしければ若輩者ですがお茶の席をもうけたいと思いますが、武野様を呼んでいただけませんか」

利休から教わった無駄のない茶室や道具であるわびを見てもらおうと考えていたので小太郎に資金の中から茶室をしつらえてもらい、黒い茶碗等を準備しておりお願いしてみると利休の師匠である北向は茶の友人で当代きっての茶匠である武野を喜んで呼んでもらえることとなった。


天王寺の井戸から水を汲み上げ準備を整え出迎える。

茶室の中で待っていると小太郎案内された3人が来る気配がして、利休が考えた潜り戸等驚いたと思うが声にも出さずに入ってきて更に室内に驚きながら座った。

私は静かにお茶をたてて茶匠である武野に御馳走する。

野点は河原の皆相手にたてていたので緊張の度合いは違うが静寂の中3人が飲み終わり茶碗が戻ってきたので注いで懐紙で水を切ると静かに挨拶をして、

「突然お呼びだてして申し訳ありません、時間がないので非礼を謝ります」

「いえいえ、この様な驚きの楽しませていただきました」

武野がそう言ってくれホッとする。

「しかしこの様な素晴らしい物をよく」

利休は武野が話をしているので黙ってはいるが興奮を隠せずに顔に赤みがさしてくる。

「これに関しては私が師事していた茶匠からです」

「そのお方は」

私は真面目な顔をして、

「利休、千利休殿です」

そう言うと利休を二人が見ると利休はあわてて、

「私の一族に利休と言う名の茶匠はおりませぬ」

そう言うと私に聞くので、

「実は私は異能人でこの時代をもう少し後に生まれた人物で生きてきたのです」

何の話しかと困惑した顔で見ているので話を続ける。

「そしてその茶匠が千殿貴方で、利休とは内裏に参内するためにいただいたのです」

そう言うと更に反応が無くなる。

「そうですね、今年の年末に公方様に男子が授かります」

義昭が生まれたのを思い出しながら言うと呆れられたのか静かになる。

「奇想天外なお話でしたがこの心は真だと思います」

武野がそう言ってくれ礼を言うと、

「私なのですね」

利休が言うので、

「そうです、いずれはですが、なので今回のこの茶室は破壊してその時までの楽しみにしておきます」

こうして話は終わり何かあれば堺と京で協力をしてくれ後日利休は武野に師事した。

茶器の事を話したりして残りの期間を有意義に過ごして急ぎ帰国した。


「犬千代様は何がされたいのですか」

帰りの中、富士が遠くに見えてきた時に勘助が聞いてくる。

「逆に聞くけど国の強さは何ですか」

「国の強さですか、大名の力量、資金、兵の強さ、情報等たきにわたりますが」

「今の甲斐は父上は普通よりは強いが圧倒的でない、なんで」

「甲斐は土地が痩せており兵糧の確保もままならず、周辺には北条や今川もおりますれば」

「僕の考えで言うなら武田に従っている周辺の家臣との関係だと思う、婚姻や従属でつながりは持つが本当の意味では命令にしたがってない」

「圧倒的な力と財力があるなら別だけど」

「それが今回の」

「それもある。後は数年後に起こることを使って小山田や穴山の領地を直接支配して兵を城に集住させてが出来れば戦う上での基礎ができると考えている」

「これは他言無用だ、もし言えば勘助命を貰うが」

そう言うと厳しい顔で頷く、

「父、信虎は領地を広げるために家臣や農民にかなりきつい政治をしているのは知ってるよね」

大きく息を吸い吐きながら、

「そこで重臣達が謀反を起こして兄晴信担ぎ上げようと動き始めている」

兄はまだ知らないが初陣から戻ればひとかどの武将として認知され重臣が頼るのが目に見えている。

「姉の嫁ぎ先に父を追放するが、それはそれでも良いが結局の所担ぎ上げられた兄はそのせいで重臣におさえが利かずに苦しむのが目に見えてる」

「そこで穴山と小山田等をと言うわけですか」

「そうだ、父信虎には悪いが名を借りて一族を根絶やしにする」

厳しい顔になる勘助に、

「兄は従うならだが、駄目なら今川に父とともに追放とする」

「結局の所悪名を全部背負うと言うことですかな」

勘助から言われて頷くと、

「わかりました。その悪名私も背負いましょう」

「感謝するぞ勘助」

そう言いながら清水の港に入り馬で駆け抜けて躑躅ヶ崎に帰ってきた。



「ただいま戻りました。駿府まで足を伸ばして母上にお見上げにございます」

本当は堺で買い求めたものだがアリバイのためそう言うと、

「犬千代は子犬のごとく庭を走り回ったと思っていたら、ありがとう」

大井の方は嬉しそうに反物を受けとると私は下がって丁度海ノ口城を落としたと連絡があり館では嬉しそうに声が上がり晴信も景政も無事と知らせを受けた。


この年の初め姉上が義元に嫁ぎ安心して信濃を攻められるはずが問題が発生する。

「われら納得できませぬ、仇敵である今川と盟を結ぶとは」

工藤が代表で諌めるが信虎は怒って切り捨ててしまいその一族が退去してしまう、これもあの事件の原因のひとつかと思いながら過ごしていると小太郎から、

「犬千代様、実は花倉の乱で玄広支持し甲斐を退去した奉行衆が道志で暮らしておりますが貧困にあえいでおります」

「なら接触して食料を与え支持をえよ」

小太郎に手配させ時が迫ったときに手駒にと考えて春、

「犬千代、その方元服せよ信義とする」

源頼朝時代の先祖であるらしく祝ってくれ晴信も次郎(信繁)も祝ってくれる、史実通りと言うか武松の生まれ変わりと信じている父信虎に次郎は溺愛されておりそれは最近特にひどくなっていた。



「兄上おめでとうございます」

次郎が嬉しそうに私を見て声をかけてくれる。

「次郎も私より立派で思慮深い、早く元服して皆を助けてくれ」

嬉しく頷くと信虎に呼ばれ入れ違いで晴信が座る。

「信義か、早く初陣を飾りたいだろうが今回は大人しくしておれ」

1周間ほど前に今までの疲れからか高熱で倒れて慌てさせ、信虎がもしものために温情で元服をさせてもらったため、すぐに迫っている信濃攻めには行かずに初陣はお預けと言うこと、

「そうですね兄上のように初陣で城を落とすためにも早く元気になります」

晴信は嬉しそうに頷いていると信虎に呼ばれ、

「正式に風間と山本をつけ騎馬5人をつける。守役は今まで通り虎胤、景政はわしの元へ組み込む」

景政と離れるのは寂しいが兵力を持てるのは嬉しく大きな声で礼を言って元服は終わった。


「信義、留守は頼むぞ」

「父上お任せくだされ、勝利の報をお待ちしております」

信虎は機嫌良く出発する。

私は朝から領内を見廻るがやはり甲斐は土が痩せており貧しいと実感させられながらこれから起こる事を考えどう動くか、あの北の龍との戦いで勝てるのかと言う不安も有りながらいると小太郎の配下が知らせをもって来たのか小太郎は静かに離れて行きしばらくすると戻ってくる。

「北条勢千が津久井側から攻め上るつもりにございます」

居留守にと言うわけで直ぐに躑躅ヶ崎に戻り留守居役を呼び伝える。

狼狽えて直ぐに信虎に知らせようとするので、

「私が責任を持つ、初陣だが私の功名とさせてもらおう」

心配なのをなだめ知らせを送るように言うと留守の兵を二百集めて大月へと向かった。


「攻め手の大将は笠原綱信にございます」

次々と情報が入ってきており甲州街道に入り大月へと向かってると報告を受ける。

すでに笹子を越える頃には火も沈み真っ暗な道を小太郎の案内で進み大月の手前で陣をはっている笠原勢を視野にいれた。

「中々の大将だな、夜襲をかけたら痛そうだ」

私はそう言いながら大月の手前、笹子川と桂川が合流するところで兵を休め寝るように言う、

「夜中に音がするが味方が敵を嫌がらせしているだけだ、明日朝いちに奇襲をかけるから寝るように」

そう言い早々に寝てしまう、夜中に何度か喚声と何かを鳴らす音がしたがきにせずに寝続け未だ暗いうちに出発をする。

岩殿城はかがり火がたかれて臨戦態勢でこもっており、それを見ながら通りすぎ途中から馬を降りて徒歩で斜面を登り始めると空が紫にかわりはじめた。


一晩中音での威嚇を受けた敵は眠い目を擦りながら立っていたが、小太郎の配下が次々と襲いかかり入れ替わる。

その横を通りすぎ静まる笠原勢に襲いかかり、

「裏切りが出たぞ、であえであえ」

そう叫びながら陣の中まで侵入した状態で寝ている敵に切りつけてまわり追い散らす。

敵は東へと着の身着のまま逃げ出し追撃を行う、午後目一杯追撃を行い陣太鼓を鳴らして敵が放置した陣に戻った。


「初陣でこれだけ功名を上げればいいよね」

勘助が、

「戻るまでは気を抜かれない様に」

「わかった。浮かれていたすまない」

久しぶりの勝利に嬉しさもあり打ち捨てられた鎧や武器を集めて躑躅ヶ崎へと戻ることにして先に兵を向かわせ私は小太郎と勘助とともに残ると草むらから数人の男達が出てきて挨拶をしてくる。

「工藤祐長にございます」

「父がすまないことをした。甲斐にいつか戻れるようにするのでしばらく待ってくれないか」

「信虎がいる甲斐へは戻りたくありません」

私よりたしかひとつ上の内藤昌豊が悔しい顔で言うので、

「その方達が納得する方法で戻れるようにするから待っていてくれればありがたい」

「わかりました。信義様には我らが飢えることがないようにしていただいているので吉報をお待ちしております」

そう言って別れ躑躅ヶ崎に戻った。


「軽々しくでるでない、破れていればどうなっていたか」

「申し訳ありません、初陣の機会と思い焦りました」

信虎に叱られ直ぐに謝罪するとそれ以上は言わず脇差しを抜いて渡してくれた。

「これでしばらくは北条も仕掛けてこないだろう、信方(板垣)佐久攻めを再開せよ、信義良く聞いて働け」

そう言うと五千を率いて海尻城を攻略するため進んだ、

「大月ではお見事でしたな信義様」

板垣は甘利とともに信虎追放し最高職である両職になった事からも追放を主導した2人なので対応に注意する。

「色々助けもあったし運も良かったかな」

「今回も勝利して凱旋しましょうぞ」

そう言って進軍する。

時期的にはもうすぐ正月でありあまり戦いたくない雰囲気であり勘助に築城についての質問をしながら海尻城へと到着して包囲した。



「敵は千程、何かお考えがありますかな信義様」

「兄上(晴信)が殿から一度は攻め落としたので警戒はしているでしょう、逆に和睦して撤収させるけど年明けに攻めればそこまでは警戒しないと思う」

信方は頷いて早速和睦の使者を出して来たばかりだが撤収を始める。

正月を家で過ごせると双方安堵しながらも海尻城はやはり警戒しており国境を越えて撤退を見せて年が明けるのを待った。


「さてまいりますかな」

信方の命令でまた海尻城へと戻り正月も明けきらぬ奇襲をしかけた。

包囲しながら門を打ち破らせ中へと入り次々と落としていく、城内は餅つきをしていた最中で私も中へ入ると暖かい餅を食べながら城内を確認してまわった。

「うまくいきましたな信義様、守兵を残し凱旋しましょう」

そう言うと数百の兵を残し甲斐へと下っていった。


「そうかそうか信方見事である。信義も中々の知略、誰かと違い城を取ったのに放棄したとは大違いだな」

信虎は晴信を卑下しながら私に褒美だと小粒金を手渡してくれ、

「信濃を落とす足掛かりができたが去年は不作であったからな」

難しい顔をしながらその先の相木城攻略へと決まり私は体調を崩したのでしばらくゆっくりすることにした。


「景政、祐長、そして勘助、ギリギリだな虎胤にも頼むとして」

作戦の人手が将が足らない、あまり多すぎれば漏れてしまうだろうし難しい、

来年にせまり作戦を煮詰めていっていると呼ばれた。

皆が集まると信虎は朱印を使い命令書を発行すると言い重臣も含め支配力を強める方法に反発している。

「判子1つで命令を下せるからね、父上も良いことを考えているが」

虎胤が顔を出したので先程の評定の話になる。

「甲斐国主として当然でございます。何を文句を言うのか板垣にせよ甘利にせよ」

「絶対的じゃないと言うことだろうけど、不穏な動きになるから父上に話をして見ようか、折を見て」

そう言うと虎胤は同意してくれホッとしながらその年の終わりに二人で信虎の前に座った。


「信義に虎胤人払いして話したいことがあると」

虎胤が先ずは、

「実は重臣達が朱印に反発を強めており対応するためお許しを願い出ました」

「なに、板垣と甘利か」

私が頷き、

「それと兄上も」

「なに、晴信もか廃嫡だ」

立とうとする信虎を押し留め、

「それでは今までと何も変わりませぬ」

「変わらぬとは何だ」

信虎は座り直し私を見るので、

「起こそうとする当日に、父上が皆を集め話をして姉上がいる駿府にご機嫌伺いをするとして集めた重臣を捕らえて粛清し直轄領を増やせば」

「五月蝿く言うものも居なくなると言うわけか、晴信はどうする」

「父上の代わりに駿府へと単身行っていただければ問題ないかと」

「甘いとは思うが、そなたにとっても兄だからな致し方ない」

そう言ってくれ安堵しながら主だった重臣の城を押さえるための兵の手配などを話して終わり最後に信虎が、

「成功したら跡目を希望するか」

「希望はしたいですが体の弱さがあり、残った者にも恨まれましょう、これは次郎(信繁)でもよろしいかと」

そう言うと頷いて話し合いは終わった。


小太郎を名目上信虎の直参にして配下に指揮権を把握させる。

本来なら気がつくはずの重臣達は自分達が行う事に意思気が向いてしまっており気がつかずにいた。

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