誕生日の命令さん
いつも通り騒がしい教室に入ると、すぐさま数人の友達に囲まれた。
「りさ、誕生日おめでとう!」
「「おめでとう!」」
「パンおごるわ〜」
「「あー!私も!!!」」
一斉に飛び交うお祝い。少し声が大きいが嫌な気はしない。誕生日とは、本当にいい行事である。自分の席まで歩いて行き、みんなを見回す。
「あ、みんな、ありがとね〜」
…やっぱり、いないか…。
最近仲良くなった彼は、他の男の子に対してと同じように私に親しく話してくれて、男の子と話す機会が少ない私の、交友の幅を広げてくれた。
私は、最近彼の事が…
「気になってる…」
「「「え?」」」
何人かの声が重なる。
「気にしなくていいよ。」
「あはは。あ!ねぇ昨日のWステ見た?」
女子の会話は流れるように進んでいく。瞬きをする間にもコロコロと話題が変わっていく。そのおかげでいろいろな事も軽く流れていって、独り言の多い私も一緒にいて居心地がとてもいい。
チャイムが鳴って、今日もいい1日がはじまるはずだ。と、席に着いた。
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夕暮れに校庭も赤く染まりはじめる午後5時。
パンの自動販売機の前で友達を待つ。
「ねえ。」
遠くの方で誰かを呼ぶ声が聞こえた。
ああ、楽しそうだなぁ…
「ねぇ?!」
「えぇっ?」
振り向くとそこには彼がいた。
「何ぼーっとしてたの?いや、違う。それよりこっち来てくれる?」
「ん?なに告白?あはは」
ふざけて煽ってみたが彼は前を向いてつかつかと歩いていく。
いいや、これはふざけてではないのかもしれない。自分でも分からないが…もしかしたら半分は…本気だったりする。
「よぉし。」
「?」
「誕生日、おめでとう!!!」
クラッカーの紙吹雪の合間に、彼の満面の笑みが見える。
あぁ、そうか。
私の誕生日を祝ってくれたんだね。
「おめでとう!はい、コーラあげる。」
「きゃー!やったー!」
嬉しくて急いでコーラのキャップを開けるーーーと同時、視界が曇る。
「うぇ!?」
私の握っているコーラはシュワシュワと泡を出しながら溢れていた。
ーーーそして視界の先に、茶色い砂糖水に制服を濡らされた彼が。
「あ!わ、ごめんね!本当ごめん!制服濡れちゃったよね!ごめんねどうしよう…」
極度のパニックに陥りうまく言葉が紡げない。外はもう真っ赤に染まった頃。
「いいよ、そんな気にしないし」
「う…でも私の罪悪感がっ…」
2人だけの校舎裏で初めて体験する気まずさに包まれる。
「あ!じゃあなんか1つ私に命令してよ!できる限りでするよ!」
「別にいいし…ってか誕生日!」
「あ、そか…でも関係ないから!」
また私の過ごしやすい空間が戻ってきて。
彼と笑いあって。
毎日が誕生日だったら。
今日がずっと続いたらなんて。
そんなことを考えながら彼の言葉を待った。
「じゃあ…命令…?」
「僕の、彼女にな……りな…さい。」