目覚め
『天使融合者』
それは、突然降ったように湧いた『殺人種』と言う怪物が突然人類に牙を剥いたときに生まれた人類にとっての一筋の光。日本各地の町の人口が約4分の1になるまで人々が殺された時に起こった。ある7つの地点を中心に突如物凄く強い衝撃波が放たれ、その衝撃波によって多くの殺人種は殺され、撤退を余儀なくされた。その衝撃波の中心に残ったものが後に天使融合者と呼ばれることになる7人の少年少女達だったのだ。
***
殺人種がこの世界に出てきて、人々を殺し始めて2年が経った。殺人種が衝撃波による撤退をして約1年で来たるべき殺人種の襲撃に備えて、幾つかの対策が行われた。
まず一つ目が七つの人類防衛要塞の建設だ。
第一要塞が梓真家が統治する渋谷要塞。第二要塞が秦野家が統治する札幌要塞。第三要塞が伊達家が統治する仙台要塞。第四要塞が上杉家が統治する新潟要塞。第五要塞が仁志家が統治する難波要塞。第六要塞が毛利家が統治する広島要塞。第七要塞が黒田家が統治する博多要塞である。
渋谷要塞を統べる梓真家は特に行動が迅速で、衝撃波の中心部に倒れていた少年少女達を保護したのも梓真家である。梓真家は前々からこの様な事態になる事を予想していたような行動力だった。
次に対殺人種兵器の開発だ。撤退したとはいえ要塞の外にははぐれた殺人種が少なからず存在する。それらの脅威に対抗すべくとある兵器を作った。その兵器を作ったのも他ならぬ梓真家だった。その兵器とは、保護した少年少女達なのだ。少年少女達は保護された時、体の一部が輝いていたというが、詳細は明らかにされていない。
他には、各地に要塞が作られると同時に何の説明も無く各要塞に配布された禍々しい真っ黒い刀身の刀が5本、神々しい純白の刀身の刀が5本である。それらは使用者を選ぶようで、これまでの適性検査中に約500名の死者を出した。今では全ての要塞で使用者が確定している。
最後に軍だ。各要塞に軍を配置することでより一層防御を確固たるものにする。軍の指揮は基本的に各要塞のトップが執るようになっている。
しかし、どんな対策を練っても不安は少なからず残る。それらを払拭する為に人類は日々進歩する。
***
(・・・ここは、どこだ?)
何も見えない真っ暗闇のなかで俺は辺りに手を伸ばし、何かを探すように闇の中をまさぐっていた。
「・・・ら、徠・・・翔君・・・っ!! に、げて・・・」
後ろから俺の横で殺された幼馴染みの声が聞こえた。
後ろをそっと振り返る。
後ろを振り返ると真っ黒な闇しか広がってなかったはずなのに、自宅の玄関が見えた。しかし、床を見てみると血飛沫や肉片などが飛び散り、凄惨な光景だった。玄関の外は夜だということがドアのすりガラスを通して入ってくる月の明かりで分かる。すりガラスの下、すべすべしたタイルににうつ伏せに倒れていて首だけを上げてこちらを見ている生きているだけでも不思議な状態だと思うような無残な姿をしている幼馴染みがいた。
(うッッッ!!)
顔の半分は血で染まり、右の耳は皮だけで繋がっていて、首は大きな穴があいており、右腕はグチャグチャになっており、脇腹はエグらレ、左足の膝よリ下ガなくナっテつま先ハ原型ヲ留メテナイグライグチャグチャニ・・・
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!」
もう限界だった。
すると、ドアが破壊され忌々しいあの怪物が現れる。
怪物はまず爪を一突して俺の右目を抉り、右腕を吹き飛ばした。
「このやろぉォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!」
残っている左手で怪物に殴りかかる。渾身の一撃は怪物の横腹に直撃したが、相手を怒らせるぐらいの効果しか無かった。
しかし、俺には興味を示さずに凛子の方へと向く。
怪物は凛子の無残な体を片手で掴む。
凛子は抵抗することも無く持ち上げられる。
俺は助けに行こうと強く思うが、体が、足が動かない。動いてくれない。
すると口元まで運ばれた凛子は俺の方を見て言った。
「・・・貴方に、力をあたえる、から、強く、なっ」
途中で言葉は途絶えた。グチャッという音と共に。
「うぉぉぉぉォォォォォォォォォ…ッ…」
怒りの咆哮が徐々に悲しみの嗚咽に変わっていく。
絶望の一言に染められたとき、変化は起こった。
赤い肉塊に成り果てていた俺の右目周辺と、千切れた血管や神経が垂れていた右肩にどこからかやって来た淡白い光が付着する。
その瞬間に辺りは爆発した。
バサッ
どのくらい寝ていたんだろうか。相当長い時間寝ていたらしく頭がクラクラする。
辺りを見回すが、情報があまり入ってこない。横に青年が立っていた事は分かった。
その青年が話しかけてくる。
「おはよう、上本徠翔君君。」
「・・・」
「まだ覚醒して無いみたいだね。どうだい、気分は。」
「・・・ここは?」
「あぁ〜、ここはね日本国第一人類防衛要塞である渋谷要塞の天使融合者研究室。」
「要塞? 研究室? 」
「そう、君は約2年間仮死状態だったから分からないだろうが、この2年間で色々変わったんだよ〜」
「お、俺2年も寝てたのかっ?」
「寝てたんじゃなくて仮死状態だけどね。・・・まぁうん寝てたね。」
驚いて覚醒した俺は、この2年間で起こった出来事を一通り聞いた。
「で、あの怪物のせいで人類は絶滅寸前の瀬戸際であると。」
「そそ、なので君には同じような仲間と殺人種殲滅を目標として戦ってもらいます。」
「た、戦う?」
思ってもない言葉に戸惑う。
「あ、嫌なの? 怖いの? 」
軽い青年は俺を茶化す。
「違う、俺は嬉しいんだ。目の前で大切な人たちを殺されたからな、復讐しないと気が済まない。しかし、その復讐をする事が許されたんだ。嫌なわけ無いじゃないか。」
「おぉ、良かった。そう言えば自己紹介がまだだったね。僕の名前は梓真陽人。所属は陽人班班長、階級は大佐。よろしくね。」
「こちらこそ。俺の名前は知ってるっぽいな?」
「もちろん知ってるよ。貴重な戦力になるからね。」
「なら自己紹介は必要ねぇな。」
「うん。最後に明日から訓練が始まるから体調整えててよね。」
「そうか、分かった。」
ばいばーいと最後まで軽い調子で出ていった陽人。陽人が出ていくとベッドの横に掛けてある自分の身長位の鏡の前にたってみる。2年間動いてないので体は痩せこけ、髪は乱れている。一番驚いたのは自分の左目と色が違う右目と銀色の紋様が走っている右腕。あの夢で怪物に抉られ、斬り飛ばされた所だ。
(力を与えるってこういう事なのか?)
そんな事を考えていると、自分の中から声がした。
そう、あの懐かしい、いつも隣にいた、一番聞きたかった、もう聞けないと思っていた元気いっぱいのあの声だ。
「そういう事だよ!!」
俺はその場で泣き崩れた。
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