私は転生悪役令嬢のようですが、婚約者にときめきました。これがフラグですか?
「キャシー。買い物に行きませんか?」
とりあえず、その思い付いたら即行動をやめてください。
こんにちは。悪役令嬢です。
え?何をもって悪役かって?
だって、可愛い可愛いレティに何も言わずに町に連れ出されてしまったんだもの…
私は悪だわ!
「おねえさまっ!とてもおいしいケーキ屋さんがあるとききました!こんどいっしょにたべにいきましょう!」
そんな可愛い事を言っていたレティを置いて、来てしまったんだもの…これが悪役令嬢以外になんて言えばいいの!?
え?悪役の意味が違う?
いいのよ、そんなの!
立場がそうってだけで、そのまんま生きる意味がわかんないから!
「キャシー。いつまで百面相してんの?」
百面相!?
そんな顔になってるのはあんたのせいだけどね!
はい、私は今、この国の第2王子であり私の婚約者のマルセル様と町にいます。
しかも、急に屋敷に現れて、用意してあった馬車に詰め込まれました。
でも、詰め込まれる先に見えたお父様がものすごい笑顔で手を振っていたので了承されていたようです。
っていうか、お父様また!?
どうして、マルセル様からの話私に通さないの!?
今度、家族会議が必要ね…
「マルセル様が急に連れ出すからでしょう?」
「急ではないよ?ラルフォード公爵には了承得ているし。」
「私に通らなければ意味がありません。」
「え?」
分からないって声出してるけど、顔笑ってるから!
あー突っ込んじゃダメだ。
今、馬車には護衛が2人一緒に乗ってる。
もちろん、他にもいるけど私達のデートとかで見えない位置にいる、らしい。
っていうデート!?
聞いてない。
「どこに行かれるんですか?マルセル様。」
「どこでも?キャシーと来るのが目的だからね。」
「っ!?」
またからかわれてる!
護衛の2人も、そんな生暖かい目で見るな!
「…あ。そこの店に入ろうか。」
「は、はい。」
対処に困って俯いてたら、マルセル様がある店の前で馬車を止めるように言った。
その店は宝石店のようで、たしかなかなかの純度の宝石を使っていて装飾も丁寧だと貴族の中でも話題にのぼってると聞いた。
ロドック商会。
それがこの宝石店を初めとした、服、装飾物等を中心に大きく展開している商会の名だ。
貴族が使えるような質の良い高価な品から、平民達にも手の届くような値段でそれでいて凝ったデザインの物を扱い、職人達を多く抱えその弟子の教育にも力を貸しているという、とても人望のある人が会長をしている。
それがジョン・ロドック。
私の家もお得意様で、彼も屋敷には度々やってくるけど、貴族だからって媚を売るような態度もなく、本当にすごく良い人。
まさに越後のちりめんどんやのご隠居って感じの人。
まあ、まだ40才くらいなんだけど…雰囲気よ、雰囲気!
そんで、まあ、うん…そこの息子がさ…ほら、あれよ…
クリス・ロドック。
年は私やマルセル様より1つ上。
ジョンさん譲りらしい黒髪に、お母さん譲りの青い目。
背がスラッと高くて、女ったらし。
え?子供なのに女ったらしはおかしい?
あー…だって未來の姿だもの。
クリス・ロドックは乙女ゲーム「魔法使いと恋しませんか?」通称、マホコイの攻略キャラクターです。
まあ、女ったらしになる原因はよくある感じで、裕福なロドック商会の会長の奧さんなお母さんが、その財産で遊び倒し、クリスを構わなかったから、愛が欲しかったから、です。
王道よね…
今は違うのかって?
ふふふ…
「いらっしゃいませー。あ!キャシー!」
「クリス!キャシリア様になんて口を!いらっしゃいませ。キャシリア様。愚息が申し訳ありません。」
「構いませんよ。マリさん。」
店に入ると迎えるのは、藍色の髪に青色の瞳の女性と、黒髪に青色の瞳の少年。
私をキャシーと呼んだ少年は、女性にペシリと叩かれました。
彼女が、遊び倒すはずのマリ・ロドックさんです。
もちろん、少年がクリス・ロドック。
なんで2人が店に?
それは、少し私が口出ししました。
マリさんはセンスが良かったので、貴女が選んだ物はとても素敵だと褒めに染め、お店を作ったらどうか、と提案しました。
センスを褒められたマリさんはみるみるヤル気をみせ、ジョンさんに話し、職人さんに自分のデザインを見せ話し合い、この宝石店をオープンさせました。
実際、そのデザインは認められ、認められればさらにヤル気は上がり、あっという間に仕事人になりました。
その際、クリスのセンスや人付き合いの良さも話したところ、子供ではありますが見事な接客を見せています。
想像以上でした。
「殿下も。わざわざ足を運んでくださらなくても、私どもが行きましたのに。」
「いやいや。懇意にしているロドック商会で、とても評判になってると聞いて、店が見たかったんだ。こちらこそ、急にすまない。」
「いいえ。ありがとうございます。」
頭を下げようとするマリさんをマルセル様が手で制する。
…うん。店はまだ見に来れなかったけど、落ち着いてて素敵だ。
センスがあったのは、嘘でもなんでも無いんだよね。
「ロドック夫人。私の母様に見立ててくれるかな?」
「王妃様に、でございますか?私目でよろしいのでしょうか?」
「私のキャシリアから貴女のセンスはよく聞いている。頼むよ。」
「それはありがたき幸せ…かしこまりました。」
ん?なんか今言ったか?
マリさんが何か選んでる。
緑色の宝石…って事は王妃様かな?
王妃様はとても綺麗な黒髪に、緑色の瞳。
王様は銀髪に青色の瞳だから。
だから、マルセル様はお父様の髪色とお母様の瞳の色を受け継いでいます。
どっちにしても超絶美人だから、その息子も超絶美人です。
程なくしてペンダントが決まると、マルセル様が護衛に言って支払いが行われ、私達は馬車に乗り込みました。
あれ?護衛が乗ってこない。
出発しちゃってるし…
「マルセル様。護衛の方はよろしいのですか?」
「大丈夫。それよりキャシーありがとう。母様に良いものが買えた。」
「私の力ではありませんわ。マリさんが頑張った結果です。」
「そうか。そうだな。」
そう言って微笑むマルセル様に少しときめく。
だって、本当に綺麗に笑うんだもの。
あー、絶対顔赤い!
「…キャシー。手を出してくれる?」
「…?はい…」
いつでも余裕の表情のマルセル様が、私から目を反らし溢した言葉に私は疑問を抱きながらも手を差し出す。
そこにそっと置かれたのは小さな包み。
「…これは…?」
「…開けてみて。」
「はい。」
マルセル様に促され、慎重にそれを開くとそこには華奢なペンダント。
トップに小さな宝石がついただけのとても可愛らしい物だった。
「マルセル様…」
「ごめん!こんなんで…」
「いえ…いえ…とても可愛らしいです。」
「…気に入って…くれた…?」
「はいっ。」
いつものマルセル様では無いけれど、なんだかとても可愛く見えて、私の頬は綻ぶ。
そんな私の顔に安心したのか、マルセル様はフニャリと笑った。
あ、これも可愛い。
「キャシーに何かプレゼントしようって思った。けど、俺が今自由に使える金ってさ、国民が払ってくれたりしてる物だろ?だから、どうしても自分でちゃんと働いた金でプレゼントしたかったんだ。で、父様に頼んで、皿洗いとか庭師の手伝いとかして、それに見あった給料として貰ったんだ。」
「っ…では、これはそのお金で…?」
「金稼ぐって大変だよな。だからごめんな?こんなんしか買えなくて。」
「いえっ!すごく!すごく嬉しいです!ありがとうございます!大切にしますわ!」
まさか、そんな風に考えてくれてるなんて…
すごく嬉しくて、私はペンダントを両手で握り締めて笑った。
あ、ちょっと顔赤くなってる。
「気に入ってくれてよかった。…今度はさ、もっと勉強して国の政治の仕事ちゃんとして、もっと大きな宝石プレゼントするから。」
「はいっ。」
たとえ、そんな宝石を貰ったとしても、私はこのペンダントを大事に大事にします。
だから、そのままの貴方で…。