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雨雲に塗り潰されて  作者: 西谷遙
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雨音

一瞬だった。閃光が瞳の中に飛び込み、気付けば僕は空を見上げていた。

冷たいアスファルトの熱が背中に広がる中で、真っ赤になった空からは小粒の雨が降り注いでいた。

静かに僕の頬に降り注ぎ、次々に僕の周りに集う光に照らされるその雨は、まるでダイヤモンドのカケラのようで。とても、とても綺麗だと思った。


彼はいつもそこにいた。降り注ぐ雨と一緒に、いつも彼が現れる時は決まって雨が降っていた。

空を見上げる僕を彼は覗き込んで、雨で濡れた彼の髪からポタリと雫が零れ落ちてた。“彼”は、まるで泣いてるようだった。


燻んだ雨雲が空を塗り潰すと、真っ暗な世界がそこに広がっていた。





◆ ◆ ◆




目を開けると、実家のベッドの上だった。黒ずんだ家の天井が目の前いっぱいに広がっていた。

ぼんやりとする頭と重い瞼を開き、自室をキョロキョロと見渡してみる。


本や服が部屋のあちこちに散らばっていたはずの僕の部屋は、綺麗さっぱり片付けられていた。水やりを怠り枯らしてしまったパキラの鉢には、新しい植物が植えられていて、よく見れば、勉強机には白い封筒が沢山置かれている。

何度も部屋の中を見渡してみるが、見慣れた部屋の中にどこか違和感を感じた。

よほど深い眠りにでもついていたのか、体もいつもより何倍も重くて、一昨日髪を切りに行ったはずなのに、上瞼に前髪がかかって鬱陶しかった。

「……あれ…」

前髪を上げ、そのまま後ろ髪まで手を回してみる。

「…え……?」

ゆっくりと髪の束を撫でてその長さを確認すると、その違和感が何なのか、少しだけ分かった気がした。

だけど、そんなの信じたくないと思い、一度布団の中に体を隠し目を閉じた。


夢だ。夢だ。夢だ。そう何度も唱えながら、次に布団から顔を出した時は、全てが元通りになっていますようにと、願いながら。


ベッドはこんなに小さかっただろうか。

すっぽりと収まってたはずなのに、少し膝を曲げないとベッドから足がはみ出てしまう。枕もこんなにも低く感じていただろうか。

何度も自問を繰り返ししてみるが、明らかに以前とは何かが違う。

何が違うのか。何がどうなってしまったのか。

僕自身、気付いていたけれど、気付かないフリをしたかった。

「………」

ひょこりと布団から顔を出して、少しだけ上半身を起こしてみる。

ベッドのすぐ側は窓がある。

閉められたカーテンの下先を摘み、ゆっくりとカーテンを開けてみると、僕はその現実を受け入れざるを得なかった。

「…………」


窓の外は、雨が降っていた。

小さな粒がアスファルトに降り注ぎ、水たまりをいくつも作り、雨雲に覆われた空は地上に大きな影を落としていた。

「………なんで」

薄暗い窓の外。映し出されるその風景と、窓に映る自分の姿。

「…これが、僕?」

髪は無造作に伸び、顎には3ミリ程の髭が生えている。

目は相変わらずタレていて、寝起きだからか半分も開いていない。

窓に触れる自分の手は、あの頃の様に小さくはなくて。

首筋、腹、腕、足と、ゆっくりと手で触れて確認すると、やっぱりあの頃のような小さい体ではなくなっていた。


面影こそあるが、これは僕じゃない。


「…………」


雨が降り続いている。


僕が今まで見てきた世界の半分は雨だった。




手探るように、記憶を辿ろうとしてみるが、昨日までの出来事が思い出せない。


覚えているのは、閃光の光と、燻んだ雨雲と、ダイヤモンドのカケラが頭上から降り注いでいた事と


僕を見下ろし、涙を流す“彼”だけだった。








雨と死神をテーマにしてこの作品を作りました。

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