侑花とリシアと雪だるま その1
雪が止んだ。
四十センチの積雪。
街では、あらゆる交通機関がマヒしていた。
「やっと止んだわ」
……来るわよ。
「そんなの、お母さんが叩きつぶすって」
……見えないのだよ。
「は?」
雪蟲は普通の人間には見えない。気付きもしない。その上あっちも見向きもしない。
「なーっ! にーっ! 聞いてないぞーっ!」
さぁ、侑花。闘いが始まるよ。
「そんな、私に何が出来るってのよっ!」
スコップ持ってる。
侑花はスノーウェアに身を包み、右手に園芸用のスコップを持っていた。
完全武装だ。
「こんなスコップ何の役に立つのよっ! 良いからあんたの箒貸しなさいっ!」
いや、だから、あたし以外の命令は聞かないって……
「聞 か せ な さ い !」
一歩も譲らない。侑花は強烈な意思を持って交渉にあたった。
……ちょっと体替わって。
「何すんのよ」
箒を説得する。
「なんだーやれば出来るんじゃない」
フィフティフィフティ。
「え?」
箒が素直に侑花に使われる事を納得するかどうか。はぁー……。気が重い。
なぜか自分の道具に気を遣うリシアだった。
「何だか大変そうねー」
実際大変なのだよー。
「頑張ってねー」
むー……。
侑花の瞳の色が蒼く変化した。
「さて……箒さん」
ポン、と音がして、箒が現れた。
「ちょっとお願いがあるのだよ」
箒は、全てを察したかのように、床に転がった。全否定。一切要求は受け付けない。そんな姿勢に見えた。
「そう言わないで。ね? 後で柄を新しくしてあげるから」
箒はピクリとも動かない。
「うー。分かった。これならどうだ。柄を竹じゃなくて、檜にする!」
箒は、即座にぴしっと直立した。
「……ちゃんと真っ直ぐに削るのがどんなに大変か……」
リシアは、こっそりとため息をついた。
そして、体を侑花に戻した。
「話はついたのね」
侑花は、なぜかすり寄ってくる箒を邪険に振り払いながら言った。
まぁ、なんとかね。——と、来た、かな?
「雪だるまが?」
そう。
窓から下を見ると、道幅一杯の大きな雪だるまが、のっしのっしと歩いていた。
侑花は目を疑った。
まさに絵に描いたような雪だるまだった。その大きさを除けば。
「……呆れて物も言えない……」
見た目のラブリーさに騙されてはダメなのだよ。かつての魔女達が、どれだけ騙されたか……。
「どこがラブリーなのか理解出来ない。魔女ってみんなバカなの?」
……。
何も言い返せないリシアだった。