表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女と雪  作者: なぎのき
4/7

侑花とリシアと部屋の中で

 その日は、日曜日だった。


「寒いっ!」


 侑花は、叫びながら、布団を蹴り飛ばして跳ね起きた。


「何でこんなに寒いのよ!」


 朝から大騒ぎな侑花だった。


 ……んー。何よこんな早くから……

「寒いのよ!」

 んじゃ、なんで布団から出てるの?

「寒いのよー」


 侑花はパジャマのまま、腰をくねらせた。


「手っ取り早く部屋暖めてよー」

 ……はいはい。じゃ、体貸して。

「ほれ」


 侑花の茶褐色の瞳が、すぅっと蒼く染まる。瞳孔が縦に伸び、薄い輝きを帯びた。

 侑花が纏っていた雰囲気が、変わった。


「わぁ! 何この寒さ!」

 だから寒いって言ったでしょ!

「寒すぎだってば。ええい仕方ない!」


 侑花=リシアは、右手を前に突き出した。

 ぼう。

 唐突に、何もない空間に炎が出現した。


「やー、暖かいー」


 満面の笑みで炎に手をかざすリシア。


 おいこら! 家の中で火を燃すな!

「えー。暖かいよー」

 火事になったらどうすんのよ!

「ならないように気をつけるから」

 気をつけてもなる時はなるの! 今すぐその火を消しなさい!

「じゃ、どうやってこの部屋暖めるの? 火はダメなの?」

 何かあるでしょう? 部屋の温度だけ上げる魔法。

「そんなエアコンみたいな便利な魔法はないよ」

 ……リシアが使えないだけなんじゃないの?

「あ! 今失礼な事言った!」

 いやいや。失敬って言うか……よもや、八百年以上を生きる魔女のリシアが、たかだか六畳の部屋を暖める魔法を知らない、なんて事はないよねー?

「む……」

 今の室温、そーねー、二十度くらいまで上げて貰うと快適なんだけどなー。

「む、むー。……火を使わず、温度だけ上げる。しかも二十度。何かないかな……」


 寒々とした部屋の真ん中で、腕組みするリシアだった。


「お!」

 お! 何か思いついた?

「……とっておきの魔法があったよ」


 リシアはにんまりと嗤った。


「刮目せよ」

 はいはい!

「では!」

 はいはい!

「……星を統べるモノよ、我が意に応えよ」


 リシアは呟くように何事かを唱え、両手を天井に突き上げた。

 途端。

 むわっとする湿気を帯びた空気が、部屋を満たした。


「はい、完了っと」


 そう言ってリシアは、侑花に体を返した。目が茶褐色に戻る。同時に、リシア=侑花はしかめっ面になった。


「何この湿っぽいのは」

 はるか南の海の上の空気と入れ替えたのだよ。

「は? この部屋の空気と?」

 そ。

「……何だか凄い事したみたいだけど……」


 侑花は、足元でわさわさ動く生き物を凝視した。


「海の上じゃないくて、どこかの島の空気じゃないの?」

 え?

「これ」


 侑花が指差す先には、蟹が一匹、所在なげにうろうろしていた。


「蟹……だよね?」

 蟹さんだね。

「リシアはコレをどうする気なの?」

 食べる……訳にはいかないか、やっぱり。それとも、ここで飼う?

「食べられるかどうかは問題じゃない」


 侑花はきっぱりばっさり、リシアの言い訳を切り捨てた。


「確かに部屋は暖まった。それは良いと思う」

 そだね。

「問題を解決して、問題を増やした。これは自覚ある?」

 ……そだね。


 かくして。

 部屋の住人として、得体の知れない『蟹』が加わったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ