侑花とリシアと寒い日
冬。
今年は例年と比べ特に寒く、風が身を切る。手が痛い。侑花は登校途中に悶絶していた。
「あー手袋してくるんだったーっ」
だから言ったのだよ。今日は寒いって。
「あんたは感じないから良いでしょうけどねー」
侑花はぶーぶー文句を言った。
魔女であるリシアは、侑花の『中』にいるため、寒さを感じる事はない。
つまり、まさに他人事だった。
「このカミソリみたいな風、なんとかならないの?」
あたしが?
「そう」
魔法で?
「そう!」
んー。なんとかならなくもないよ?
「じゃ、なんとかして」
でもね。
「……何よ」
あたしは、日本の冬ってのは『フゼイ』だと思うのですよ。
「フゼイ……」
ちゃんと四つのシーズンがあってこそ、ワビサビなわけですよ。
「ワビサビ……」
侑花は、冷たくなった両手を擦りながら、首を傾げた。
「あんたから『フゼイ』だの『ワビサビ』だの、そんな言葉が出てくると思わなかったわ」
失礼な。あたしだって、伊達に侑花の中に十六年もいないよ。ちゃんと『シキオリオリ』な『ジョウチョ』を堪能してるのだよ。
「……どうもさっきからカタカナ語が多いな」
漢字は難しいよ。アルファベットなら二十六文字だけだけど、漢字は何万字あるのかと考えるだけで気が滅入るよ。
「英単語は良いの?」
あれは音声言語だからねー。書けなくても話せれば良いし。でも日本語は『音読み』だの『訓読み』だの、面倒くさいよ。
「つまりアレね」
? 何でしょ?
「国語のテストは、リシアは当てにならない事は分かった」
なにおう!
「それより、この寒さ何とかしてよ!」
そんな短いスカート穿くからでしょ? 手袋もマフラーも、あたしのアドバイス無視して!
「なにおう!」
そんなに足出して、真っ赤じゃない! 自然の脅威を舐めてるとしか思えない!
「そりゃあんたは私の中で温々としているか分からないでしょうけどね! この格好にはちゃんと意味があんのよ!
ほほう。じゃ、お聞きましょうか? その意味とやらを。
「良い? このスカートはね……」
傍から見れば、侑花が一人で大騒ぎしているようにしか見えないが、頭に血が上り、すっかり口げんかモードに突入した侑花には、寒さなど感じる余裕はなかった。
ふと。
我に返ると、侑花の家の前だった。
「……あり? 何で私達はケンカしたんだっけ?」
家に着いたよ。早く暖まったら?
「え? ああ、うん」
まんまとリシアの『魔法』にかかった侑花だった。