05 言語習得とお家事情
「かかしゃまー」
3歳ともなればさすがに単語は覚える。
そのままとととっと走り寄って抱きつくと、目の前の優しげな笑顔を浮かべたその人は両手を広げて抱え上げてくれた。
「まぁ、ファーったらご機嫌ね。」
ブロンドの波打つ髪、きらめく銀色の瞳をもつマイマザー『アメリー』さん。
至近距離から見ても、今日も美人ですよ!
グッジョブ。
と、心の中で呟きつつも笑顔で返事を返す。
「あい!」
かまってくれてると、気分はとってもいい。
子供って一人だと不安になってしまうものだと実感した。これは理性でなんとかできるとかいうやつではない。本能的なににかのせいだ。
だから、しばらく構ってくれないと高校生の自尊心なんて簡単にふっとんでギャン泣きしてしまう。(小声)
それがまたなんとも複雑な心境にさせてくれる。
…と、私を抱えたままお母さまはぐるぐる回るので思考中断。
「ファー、今日は何して遊ぼっかー?」
わたしを見下ろし、うきうきとしたなんとも可愛らしい表情で尋ねてくる。
ほんとに子持ち?
「今、遊ぶ、してるー。」
今遊んでますよーと言いたい。
・・・たしかにここ3年でけっこうな言葉を覚えて、聞き取りは殆どニュアンスでも問題ないからいいけどね?問題が発生したよ。
文法がわからない。から、単語しかつかえない。
つまり、しゃべれない。
・・・あああ秀才の夢が儚く散っていく…まって…!
すると、
ぐるぐる遊びから積み木に遊びを変えていた私たちの元に大きな影がかかる。
「あら、あなた。」
その場を見上げる。
「ファー、積み木で遊んでるのか。賢いなぁ、ふふ。」
そのまましゃがみこんで私の顔を覗き込み、へらぁ、と締りのない笑みを浮かべ、締めに頬をつついてきたその人物。
なんだかもう、上手くしゃべれなくても、気にしなくていい気がしてくる笑顔。
黒髪黒目でクールが似合いそうな、鋭利な美貌を台無しにしているマイファーザー、『ダヴィド』さん。
≪おやばか≫
なんて言葉がぴったりな人だ。
そう思っていると、お母さまは座っていた絨毯の上から私を連れて移動し、椅子に座った。わたしはお母さまの膝の上。
お父さまもつられて向かい側に座る。
あ、そういえば、
お兄ちゃん(年下)達はどこいってるのかな?
「あなた、アシルとコーディは?」
お母さまがタイミングよく聞いてくれた。
「あぁ、外で遊んでいるよ。」
窓の向こうを見やりながらお父さまが言う。
「そうなの。相変わらず元気ね。」
呆れたふうに、でも、幸せそうに答えて微笑む。
「いいことじゃないか。」
お父さまもつられて微笑む。
幸せだなぁ。なんて実感していると、さらに思い出したふうに言葉を続けた。
「そういえば、王宮から招待状が来ていたよ。」
「あら?…まぁ、どうしましょう!」
準備・・・
と呟く母様の声が聞こえたが、なんのことかさっぱりわからなかっため、わたしの頭の中はハテナだらけだ。
「あぁ、大丈夫。サイヤラが用意してくれているよ。」
サイヤラさん・・・あぁ、そうだ。女中さんのなかで一番偉くて年長者の人。
つり目でメガネで厳しそうだったから、はじめて見たとき教頭先生って叫びそうになったっけ。
「次の≪新魔≫はどの≪魔≫の子かな。」
新魔?魔?新しい単語には全く耐性がないので勘弁してください…。
というか、我が家ってば王宮に行けるほどエライお家だったの??
「おうきゅー、おうち、しゅごいー?」
見事に単語だが、それでも読み取ってくれるお二人。
さすが。
「んー、大きめの地域を守っている人のお家は皆があつまるんだよ。
すごくはないかなー。」
苦笑しながらいう。
それだけの人が集まるって、
私には十分すごいと思われる規模なんだけどなぁ…。
「みんあー、あちゅまる、しゅごい。」
「確かに、人数は多いね。」
ふむ、と納得したように頷く父様。
と、そこにふと思い出したような母様の声が加わる。
「あなた・・・開催日は4日後よ?」
え。
間に合わないんじゃ…?
ここ結構のどかな田舎だし、今の交通機関馬車だよね。
「そうか。・・・よし、今から行くぞ!サイヤラ、アシルとコーディを呼んできてくれ。」
まじですか。
「かしこまりました。」
動じた風もないサイヤラは颯爽と出ていった。
「それじゃ、ファリアスも母様もお着替えしましょうかー。」
さらに動じてない母様が私の手を握って、立ち上がる。
「あい、ファー、おきがえ!」
元気に頷いて母様の部屋へ向かう。
とりあえず、言葉の上達が課題のままいきなり王宮へ向かうことになりました。
さらに、領主であることが発覚しました。
波乱万丈だな。
次から話が進められ…るといいな…。