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影は主を選ばない  作者: 志に異議アリ


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第8話 知らない顔


帰りの車内は、静かだった。


エンジン音が一定のリズムで続き、街灯がフロントガラスを流れていく。

誰もスマホを見ていない。

誰も、眠ってもいない。


クロエは前を見ている。

ミロの名前を、頭の中で繰り返さないようにしていた。

思い出せば、判断が鈍る。

判断が鈍れば、次は誰かが死ぬ。

イリヤは後部座席で、無意識に指を動かしていた。

銃の重さを思い出す癖だ。

撃たなかった夜ほど、手が空虚になる。

それでも、あの場でクロエが下した裁定は正しかったと、疑っていない。


セラは窓の外を見ていた。

人間のアパートの灯り。

あの中に、さっきの父親と子どもが戻る未来がある。

それが守られたことに、ほっとしている自分を、少しだけ嫌悪していた。

感情を挟めば、次は自分が判断を誤る。


ノアは、端末を膝に置いたまま画面を見ていない。

記録すべきことが多すぎて、どこから書けば「嘘にならないか」を考えている。

公式記録と、実際の出来事の差が、また一つ広がった。


レオンは、クロエの真向かいに座り不安も不満もない顔でいる。

それだけで十分だった。

命令違反も、評議会も、どうでもいい。

あの場で彼女が孤立しなかったこと。

それだけが、彼の選択の理由だ。


信号で車が止まる。

赤。

誰かが、ようやく息を吐いた。

「……腹、減ったな」

イリヤの声だった。

空気が、ほんの少しだけ緩む。

「吸血鬼が言う台詞じゃないでしょ」

セラが、乾いた声で返す。

「気分の問題」

「気分で食べたら、それはもう人間よ」 「じゃあ俺は中途半端だな」

ノアが小さく笑った。

それが、今日最初の笑いだった。

クロエは何も言わない。

ただ、アクセルを踏む。


「帰ったら、記録まとめます」

ノアが言う。

「無理しなくていい」

クロエは短く答える。

「無理はしてません。選んでるだけです」

その言葉に、誰も反論しなかった。


車はやがて、高架を降り、いつものルートに入る。

見慣れた道。

見慣れた夜。

日常は、何事もなかったように続く。

セラは明日もバーでタバコをふかす。

イリヤは銃を整備する。

ノアは記録を書く。

レオンは、招集がいつ来ても問題ない所にしかいない。

クロエは、また裁定を下す。


ただ一つ違うのは――

全員が、もう戻れない線を越えたことを、ちゃんと理解していることだけだった。

それでも車は走る。

エンジン音は止まらない。

夜は、何も知らない顔で続いていく。


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