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第4話 矛盾
バスタブの中に体を沈め、外界を遮断する時間がクロエは好きだ。
無になる。
この感覚が、何の生産性もない吸血鬼に、いちばんふさわしい時間だとクロエは感じているからだ。
浴室を出て、濡れた髪をタオルで雑に拭きながら冷蔵庫を開ける。
ストックしてある血液パックのひとつを手に取り、歯で噛みちぎって吸う。
ちゅうちゅう、と音が立つ。
美味しくもなんともない。
それは、だいぶ前から吸血鬼社会で支給されるようになった、体に最低限必要な栄養素だけを詰め込んだ赤だ。
人間の血液を吸うことを血律で禁じられ、
渇きを癒すためだけに開発された代替品。
噛みちぎった端を捨て、空になったパックを流しに置く。
血を飲む行為に、もう意味はない。
生き延びるための作業でしかない。
それでも吸血鬼は、血を中心に社会を作り、
血を禁じ、血を裁く。
矛盾している。
だが、矛盾していなければ社会は続かない。




