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影は主を選ばない  作者: 志に異議アリ


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第12話 イリヤ


夜の端末が震える。

イリヤはすぐには見ない。

任務報告の最中だった。

二度目の振動で、視線が落ちる。

非通知。

画像ファイル一件。

開いた瞬間、喉が止まる。


エマ。

帰り道の横顔。

少し離れた位置からの撮影。

もう一枚。

自宅前。

三枚目。

部屋のカーテン越しの影。

メッセージは短い。


《規律を守れ》

《報告を怠るな》

《次は中だ》

血の気が引く。


「イリヤ?」

クロエの声で、現実に戻る。

「……なんでもない」

嘘が、少し硬い。

レオンが気づく。

だが何も言わない。


―――

翌日。

リュカが穏やかに告げる。

「昨日の処理報告ですが、一部抜けがあります」

「抜け?」

クロエが目を細める。

「対象三の接触者。現場付近に一般人が一名いましたね」

イリヤの指が止まる。

レオンが視線を向ける。

「記録はありませんでした」

リュカは微笑む。

「見落としでしょうか」

沈黙。

クロエが静かに言う。

「イリヤ?」

一拍。

「……問題ない。接触はしていない」

事実だ。

だが。

その“一般人”はエマだった。

偶然、近くにいた。

目が合った。

イリヤは彼女を避けた。

それを、見られている。

リュカのペンが走る。

「次からは報告を」

柔らかい声。

締めつけるような。


―――

その夜。

再び端末が震える。

《虚偽報告は重罪だ》

《次は事故になる》

添付動画。

エマが横断歩道を渡る映像。

信号が一瞬、赤に変わる。

加工だ。

だが意図は明確。

事故は作れる。

イリヤの呼吸が荒くなる。



―――

屋上。

レオンが先にいた。

「言え」

振り向かずに言う。

イリヤは黙る。

「言わないと殴る」

冗談じゃない声。

イリヤは端末を渡す。

レオンの目が変わる。

「……あいつか」

「証拠はない」

「なくても分かる」

風が強い。

「どうする」

イリヤは空を見る。

「守る」

「どうやって」

答えがない。


―――

翌任務。

対象の一人が逃走。

イリヤは追わない。

一瞬、足が止まる。

脳裏に浮かぶのは横断歩道の映像。

“事故になる”

レオンが怒鳴る。

「行けよ!」

イリヤは動かない。

その隙に対象は路地へ消える。


帰還後。

リュカが穏やかに言う。

「判断の遅れがありましたね」

クロエはイリヤを見る。

何も言わない。

それが一番重い。

セラが低く呟く。

「らしくない」

ノアも目を逸らす。

班の空気が、初めて軋む。


―――

夜。

端末。

《よくできました》

《次も従え》

イリヤの拳が震える。

守るために従えば、班が壊れる。

守るために抗えば、彼女が壊れる。

選択肢が、ない。

ドアが開く。

クロエ。

何も聞かない。

ただ言う。

「あなた、迷っているわね」

イリヤは目を伏せる。

「守りたいものがあるなら」

一歩、近づく。

「それを利用させるな」

静かな声。

鋭い。

「誰にも」

イリヤの呼吸が止まる。

クロエは気づいている。

全部ではない。

でも、何かがあると。


「班を壊すなら、正面から壊しなさい」

それは許可ではない。

覚悟を問う言葉。

イリヤは拳を握る。

端末が、また震える。

画面はまだ見ない。

いや

見れない。



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