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影は主を選ばない  作者: 志に異議アリ


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第11話 監視


執務室のソファに、

見慣れない紙袋が置いてある。

「またかよ」

レオンが笑う。


中身を覗くと、手作りの焼き菓子。

少し形がいびつ。

「今度は焦げてないな」

イリヤが無言で取り上げる。


「勝手に食うな」

「名前書いてねぇだろ」

「俺に渡された」

「はいはい、“大切な人”ね」

セラがからかうと、イリヤがわずかに睨む。

ノアがぽつり。

「前より甘さ控えめ」

「お前いつの間に味覚えたんだよ」

軽口が飛ぶ。

クロエは紙袋のタグを見る。小さな手書きの文字。

“みんなでどうぞ”

その丸い字に、部屋の空気が少しだけ柔らぐ。

レオンがふと思い出したように言う。

「この前、駅前で会ったぞ」

イリヤの肩が止まる。


「偶然な。俺のこと見て固まってた」

「お前が無駄に怖いからだろ」

「失礼な。ちゃんと挨拶した」

レオンは笑う。

「“いつも世話になってます”って言われたわ。律儀だよな」

イリヤは小さく息を吐く。

「……あいつは関係ない」

その言い方に、クロエの視線が一瞬だけ動く。

関係ない、と言いながら、

イリヤの声はわずかに低い。


セラが頬杖をつく。

「人間だっけ?」

「そうだ」

短い答え。

沈黙が落ちる。


レオンがわざと軽く言う。

「まあ安心しろ。泣かせたら俺が殴る」

「お前に言われたくない」

それでも、イリヤの口元がほんの少しだけ緩む。

この部屋の全員が知っている。


イリヤに“守りたい存在”があること。

そしてそれが、弱点にもなり得ること。

クロエが静かに言う。

「線は引きなさい」

イリヤは頷く。

でも、その目は少し遠い。


―――

通知が届いたとき、一番先に封を開けたのはレオンだった。


「は? 監査?」

紙をひらひらさせながら顔をしかめる。


「俺たち何かやった?」

クロエは椅子に腰掛けたまま答える。

「ヴァルターの差し金でしかないでしょうよ」

レオンが笑う。

「そりゃそうだ」

けれど笑いは長く続かない。


イリヤが紙を受け取り、黙って読む。

ノアは壁に寄り、セラは腕を組む。

部屋の空気が、じわっと冷える。


―――

監視人のリュカが来た日。

最初に話しかけたのもレオンだった。


「補佐ってことはさ、ミスしたら怒る係?」

リュカは穏やかに笑う。


「いいえ。記録する係です」

「それが一番怖いんだよなあ」

レオンは肩をすくめる。


任務は小規模。

違法取引の摘発。

レオンは先行して対象を制圧する。

動きは速い。正確。

だが帰還後。


「対象を、気絶させるまでの時間が基準よりやや短いですね」

リュカの声は柔らかい。


レオンが眉を上げる。

「早い方がいいだろ?」

「恐怖値が上がりすぎると後処理が難しくなります」

ペンが走る。


レオンは一瞬だけ視線を落とす。

「……了解」

軽く返す。でも内側で何かが引っかかる。

彼は荒いわけじゃない。

むしろチームで一番、人間に情を持ちやすい。

だからこそ、記録という言葉が刺さる。


―――

夜。

レオンは屋上で煙草に火をつけようとして、やめた。


「記録、ね」

後ろからイリヤ。


「気にしてるのか」

「別に」

嘘だ。

レオンは空を見上げる。


「俺らってさ、いつから点数つけられる側になった?」

イリヤは答えない。


風が吹く。

レオンが続ける。

「クロエ、平気そうに見えるけどさ」

「平気じゃない」

イリヤが静かに言う。

レオンは少しだけ笑う。

「だよな」

それで十分だ。


―――

エマの異様な安全も、イリヤは気づいている。

イリヤの端末を横目で見ながらレオンが言う。

「尾けられてるな」

「分かってる」

「やり方が陰湿」

レオンは低く舌打ちする。

「直接来ないのが一番ムカつく」

それはレオンの性格だ。

正面から来る敵の方がまだマシ。

影で揺さぶるやり方は嫌いだ。

―――

夜更け。

クロエが一人で監視人リュカの資料を見ていると、ドアがノックもなく開く。

レオンだ。


「寝ないのか」

「まだ」

レオンは机の端に腰をかける。

「壊れるなよ」

軽い言い方。でも目は真剣。

クロエは少しだけ視線を上げる。

「壊れないわ」

「俺たちもな」

短い沈黙。

レオンは資料をちらりと見る。

「綺麗すぎる経歴だな」

クロエの指が止まる。

レオンはそれ以上言わない。

「無理すんな」

それだけ言って出ていく。

ドアが閉まる音。

部屋に残る静けさ。

クロエは再び画面を見る。

完璧な履歴。

完璧すぎる数字。

どこかに、必ず歪みがある。

まだ見つからない。

けれど、ある。

夜は深くなる。



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