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影は主を選ばない  作者: 志に異議アリ


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第10話 生き延びてこそ


壁の向こうで、低い音が途切れ途切れに続いている。

ベッドがきしむ音。

呼吸が乱れる気配。

セラは、何も言わない。

言葉が要らない時間だと、知っている。

しばらくして、音が止む。

静寂が戻る前に、シャワーの水音が被さる。

浴室のドアが閉まる。

「……この先、どうなると思う?」

湯気の向こうから、セラの声がする。

水音に少し掻き消されている。

返事がない。


「ねえ」

「聞いてる」

短い返答。

セラはシャワーを止めない。

「今日の任務」

「うん」

「間違ってた?」

「……正しいとか、そういう話じゃない」

一拍。

「ねえ、私たち」 セラは言葉を探す。

「このまま、ちゃんと帰れるのかな」

水が止まる。

濡れた足音が近づいて、

タオルの擦れる音。

「帰れなくなったら?」 セラが聞く。

少し間があって。

「それでも」ノアの低い声が言う。

「俺が守る」

セラは、そこで初めて黙る。


「……約束、嫌いなくせに」

「約束じゃない」

「じゃあ何」

「決めてるだけ」

セラは、息を吐く。

「ずるい」

「そうかもな」

タオルが落ちる音。

それ以上は、何も聞こえない。


―――

古い自販機の前。

イリヤが缶を取り出し、開ける。

プシュ、という音。


「甘いな」 そう言いながら、飲む。

「飲まないの?」 クロエは壁にもたれている。

「仕事前は」 イリヤは肩をすくめる。

少し沈黙。

「……クロエ」 イリヤが言う。

「俺、聞きたいことがある」

「答えないこともある」

「知ってる」

それでも、言う。

「人間と一緒にいるのは」

イリヤは言葉を選ぶ。

「そんなに、罪か?」

クロエは、すぐに答えない。

「大事な人がいる」 イリヤは続ける。

「昔から」

「今も?」

「ああ」

缶を握る指に、力が入る。

「老いる」 イリヤは笑わない。

「病気にもなる」

「……それでも?」

「それでも」

イリヤは、はっきり言う。

「手を離す気はない」

クロエは、彼を見る。

「裁定官として聞いてる?」

「いや」 イリヤは首を振る。

「仲間としてだ」

少し、間。


「……答えは変わらない」

クロエは言う。

「規律は規律」

「だよな」

イリヤは自販機にもたれる。

「でも」 クロエは続ける。

「私は、まだ見ていない」

「何を」

「人間を愛して、壊れなかった吸血鬼を」

イリヤは、目を伏せる。

「俺が最初になるかもな」

「ならない方がいい」

「それでも?」

クロエは、視線を逸らす。

「……生き延びなさい」

それだけ言う。

イリヤは、缶を飲み干した。

「了解」

夜は、また次の場面へ進む。


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