心を持つ鋼鉄
「ハァ....ハァ....」
3人は人気のない街の中へ入ってしばらく歩き続けた。
しかし、体力の無いイーダは歩き疲れて徐々に遅れ始めた。
「イーダちゃん大丈夫?」
「うん......大丈夫だよ!これくらいへっちゃらだよ!」
イーダは気丈に振る舞うが、肩で息をしており顔にも疲れが見えていた。
「シタデレさん、後どれくらいですか?」
「ああ......もう少し......あと少しだけだ。頑張れ、お前らが倒れたら必然的に運ぶのは私になるからな、それだけはやめてくれ」
シャナの問いにシタデレは面倒くさそうに返答した。
やがて3人は少し開けた広場に辿り着く。
そこは人気も少なく瓦礫に阻まれて周りからも見えづらい場所だった。
「よし、ここいらで良かろう」
シタデレは広場の真ん中で、身に付けていた腕時計型の端末を操作し始めた。
「よし、座標確定。ここへ来い」
腕時計から青い画面がシタデレの目の前に映し出された。
彼がその画面を操作して、しばらくするとどこからともなく戦闘機型の宇宙船が飛来して広場に着陸した。
「さぁ、早く乗れ。出発するぞ」
腕時計を操作して扉のロックを解除してシタデレは乗り込む。
「す......すごい......こんなの見た事ないよ......かっこいい......」
シャナは初めて見るエリディアンの戦闘機に圧倒された。
「ほら、早く乗ろうよシャナちゃん」
「あ、うん。ごめんね」
イーダに手を引っ張られて、シャナは我を取り戻して、戦闘機の中に足を踏み入れた。
中はザメルと同じく、見た目よりも拡張されており、部屋も複数あった。
「さて、ザメルと同じアシスタント機能は使ったことなかったが、お前らの為に使ってやるよ」
シタデレは操縦席に乗り込むと手元の端末を操作した。
するとシャナとイーダの目の前にザメルが出現する様な光が集まって黒髪ストレートで高身長の女性型メイドが現れた。
「シタデレ様、そしてお二方初めましてこの機体のアシスタントAIでございます。どうぞよろしくお願いします」
メイドは深々とお辞儀をした。
「ああ......とりあえずその2人の面倒を見ておいてくれ......ええと、そういえば使うつもり無かったから名前も決めてなかったな。しかもキャラメイクもしてなかったはずだが、勝手にそっちで決めたのか?」
「はい、私には名前が登録されていません。容姿に関しては、暫定的に召使いらしい物を生成致しました」
「まぁ、良いだろう。とりあえずその2人の面倒さえ見ていてくれれば良い。操縦の邪魔はするなよ」
シタデレは言い終えると即座に航行を始めようと前に視線を戻す。
「私はイーダって言います!こっちはシャナちゃんです!よろしくお願いします!でも、メイドさんは名前が決まってないの?」
「はい。登録されておりません」
イーダの言葉にメイドは事務的に返した。
「じゃあさ、私達で名前を付けてあげようよ!ねぇ良いでしょ?シタデレさん!」
「ん?ああ......勝手にしろ」
シャナの質問にシタデレは興味なさげな声で返答した。
そして、返事と同時に宇宙船は動き出した。
「わーい!ねえメイドさんはどういう名前が良いとかある?」
「そう......ですね......検索致します。少々お待ちください」
「え?検索?検索じゃないよ!メイドさんの気持ちで答えてよ!」
「......え?えっと......データが......なくて.......こういう時の返答のテキストはインストールされてないのかな......あ、エラーメッセージが......」
メイドは検索の為に動きを止めかけたが、イーダの言葉を聞いてそれを中断して悩みだした。
「ほらほら、何かないの.......?」
「そうだよ!自分の好きな言葉とかで良いんだよ!」
2人は笑顔で問いかけ続けた。
「え......えっと......と、とりあえずは明るい言葉......とか.......?......ですかね?」
シタデレによって1度も起動されていなかった感情や気持ちと言った分野での質問にAIはCPUをフルに使ってインターネットや初期から搭載されている言語変換ソフトなど様々な手段を駆使して答えを探したが見つかることは無かった。
何とか捻り出した明るい言葉という単語を答えとして口に出したが自分でも合っているのかは分からなかった。
「うーん。明るい言葉かぁ......何が良いかなぁ.......?」
「良いかなぁ......」
2人は頭を悩ませた。
「あ、あのわざわざ私の為に無理に決めなくても.......?」
「駄目だよ!メイドさんに名前がなきゃそんなの心が無い機械と同じだよ!」
シャナは止めようとしたメイドに言い返した。
「ハ、ハァ....わ、分かりました......私はアシスタントAIですのでお手伝いさせていただきます。良ければ名前に使えそうな明るい言葉を幾つかピックアップして候補として挙げましょうか?」
「う〜ん。まぁ、候補なら良いかな......出してみて!」
「はい。承知いたしました」
メイドは先ほどと違い目的のはっきりした質問に対する問いを素早く検索した。
「検索結果が出ました。明かり、という言葉ですとスヴェート、リヒト、リュミエール。などが人間のお2人には馴染み深いかと」
「私はスヴェートが良いかなぁ?」
「私もこの中ならスヴェートが良いと思うかな。ねえメイドさんはどう思う?」
2人はスヴェートという言葉を気に入り候補に挙げた。
「えっと......その......皆様が決めてくださった物ならば何でも......じゃなくて、私もスヴェートが良いと思います!」
メイドは曖昧な解答はするべきで無いと先程学習した為、とりあえず2人に合わせる事にした。
「決まりだね!スヴェートさん!改めてこれからよろしくね!」
「は、はい!よろしくお願いします!皆様をサポートできるようアシスタントAIとして頑張ります!」
「あー、名前は決まったのか?ならばお前らは早く休め。おい、お前。イーダとシャナを部屋に案内しろ」
シタデレは頃合いを見てスヴェートに命令した。
「お前じゃないよ!スヴェートさんだよ!」
イーダはシタデレの呼び方を注意した。
「分かった、分かった。じゃあスヴェート、早く2人を連れて行け」
「承知いたしました。それではシャナ様、イーダ様。お疲れでしょう、ゆっくりお休みくださいませ。どうぞこちらへ」
「ハァ....ようやく静かに操縦できるな。全く......機械に名前なんて要らんだろう......」
シタデレはようやく1人になれた事を安堵した。
そして2人を部屋へ送り届けたスヴェートは目的を終えて、身体を消して基盤の中の予備電力で思考していた。
(名前......1つであそこまで悩めるとは......人間というのは難しい存在なのでしょうか......?それとも私の勉強不足?とにかく初めてAIとして生物と接するこの機械に学習して、アップデートを重ねるべきですね)
3人と1つのAIを乗せた宇宙船はイルメグ星へと進み続けた。




