連なる想い
星庁舎の広く薄暗い最上階に大人1人分ほどの大きさの光り輝くクリスタルが宙に浮いていた。
「ああ......プライマリークリスタル......美しい輝きだ......もう少し......もう少しで溜まる......」
白衣を着た老齢の研究者らしき男はそれを見つめて思わず呟いた。
最初は白い輝きを放っていたクリスタルは戦闘が始まるにつれて徐々に赤みを帯びていき、ほぼ真っ赤に染まりつつあった。
「これが溜まれば......最早......ここに用は無い......我らこそが宇宙の支配者となるのだ......タチアナよ現在の数値は?」
男は手元のコンピュータに呼びかけた。
「マインドエネルギー充填値、目標の97%です」
タチアナと呼ばれたコンピュータからは無機質な機械音声が流れた。
「ドルゴヌよ......ドルゴヌよ......全てのものの上にあれ......この世の全ての上にあれ......」
男が呟いたのはドルゴヌの歌詞の最初の部分であった。
ーーー
一方、星庁舎の下の階ではドルゴヌ軍は星庁舎の部屋1つ1つを巡って激しい攻防戦を続けていた。
「くそ!また破られたか!退避しろっ!」
バリケードが破られた事で兵士達は奥へ退避しようと試みる。
「ハァ....ハァ....」
兵士達は次のバリケードへと必死で走り続けた。
「うわぁ......!」
途中で1人の兵士が瓦礫に躓いて転んでしまった。
「おい!何をしてる!早く立て!」
隣の兵士がそれを助けようと近づいた。
しかしその一瞬の時間も許される事は無く、彼らを追いかけていたスモリストが躓いた兵士に飛びかかった。
「っ......!くそ!すまん......」
それを見た助けに向かった兵士は諦めて彼を見捨てて走り出した。
「ま、待ってくれ!見捨てないで......置いてかないでくれええええええええ!」
後方から聞こえる絶叫に振り返る事は無く兵士達は走り続ける。
(くそ!くそ!俺に......俺達にもっと力が......奴らに負けない様な力があれば......!)
兵士達は自分の無力さを呪い、強い力を渇望した。
その思いは戦闘開始直後から一般市民そして兵士、果ては軍の将校に至るまで1人1人が願った共通の願いであった。
その願いは1つ1つは弱くとも少しずつ......だが確実にプライマリークリスタルに取り込まれ、1つになっていった。
「ぎゃああああああああ!」
走り続ける兵士達は時折聞こえる別の防衛戦からの絶叫を聞こえ、自分達が追い詰められて居ることを嫌でも実感させられていった。
(嫌だ嫌だ嫌だ......死にたくない......)
しかし、兵士達は走り続けるしか無かった。
ーー
「プライマリークリスタルは目標値に到達しました。次のご命令を......」
最上階に居る男の持つ機械は目標値に溜まった事を伝えた。
「おお!遂に......遂に溜まったぞ!」
研究者はプライマリークリスタルの準備が整った事を喜んだ。
「おい!脱出用ロケットを起動させろ!プラキオ星へ向かう!」
男はタチアナに命令した。
「承知致しました。脱出用ロケットは複数人乗り込めます。星庁舎の生存者へ放送で呼び掛けますか?」
タチアナは研究者に問う。
「奴らは時間稼ぎの為の存在だ。国の為の礎になれる事を心から喜んでいよう。我らだけで脱出する」
研究者は無慈悲に言い放った。
「しかし......人命を優先にするべきかと......」
タチアナは食い下がった。
「要らぬと言ったのが聞こえぬのか!?」
研究者は強い口調で返した。
「......失礼いたしました......ご命令通り遂行致します......」
タチアナは自身のメインコンピュータをロケット起動のために動かした。
即座にクリスタルと共に乗り込む研究者は無慈悲にハッチを閉め、そのまま宇宙空間へと飛び去っていった。
ーー
アラデスクはシタデレや他の部下達と共にシオを包囲して、戦っていた。
「ハァ....ハァ....」
彼らは皆、肩で息をしており、一目で疲労が溜まって居ることが分かった。
特にアラデスクはシオの攻撃を受けて立っているのもやっとの状態だった。
「ふ〜ん?エリディアンと戦うのは初めてだったけど面白いね。光を放つ剣なんて初めてだよ」
そして彼らの中央にいるシオは退屈そうな表情を見せて呟いた。
「でも......そろそろ飽きてきちゃったからさ。終わりにしようか」
シオは自らの手を上に掲げて掌の上に漆黒の塊を作り出していく、それは徐々に赤みを帯びた稲妻が発生していき徐々に大きくなっていった。
「皆!防御を固めよ!来るぞ!」
アラデスクは号令をかけた。
しかし、遠くに見える星庁舎から轟音と共に小型のロケットが飛翔していくのが見えた。
「あれは......」
アラデスクはロケットを見つめた。
「......あれ?プライマリークリスタルが遠ざかって行くなぁ......アズガルド......あれを追える?」
シオはロケットを見ながら呟き、通信機を持っていない為、マインドエネルギーで問い掛けた。
「......そっか......影の民とも戦ってるんだ......流石に厳しいかなぁ......まぁ、無いなら無いでいいや......帰ろっか......ソラリスに」
シオは突然飽きた様に纏っていた戦意を引っ込めてまるで、そこには自分以外誰も居ないかの如く、歩き出した。
彼女が向かう先にいた包囲網の兵士達はモーセの海割れの様に彼女を避けていった。
「深追いはするな!態勢を整えるぞ!」
シオはそのまま歩き続けて地平線に消えていった。




