交わることのない理想
その少女は、瓦礫と炎煙の立ち上る地獄の只中で、
ただ一輪の花のように静かに立っていた。
しかし、彼女を包む空気だけが異質だった。
兵士の呼吸が一瞬で止まり、胸を掴まれるような圧迫感が場を支配する。
誰もが理解した——この存在は、“災厄”そのものだ、と。
アラデスクや彼が率いる1000人を優に超えていた。
しかしながら、進行方向に立っていた年端も行かない様な少女を前にして誰1人動けずにいた。
「シオ......君を守れなかった事......今でも忘れてはいない......」
アラデスクは慎重に言葉を紡ぎ出した。
「全て......私の......力不足だ......だが!目を覚ますのだ!......周りの光景を見て......何とも思わないのか!?......街は破壊され......人々は今も......恐怖に怯えて逃げ惑っている!」
アラデスクは続けて
「我が友であり......お前の兄は!お前を救う為に今も奮戦しているのだ!」
シオはアラデスクを見て、少し首を傾げた。
「......ああ......!......アラデスクさん......思い出した......あの時の......お兄ちゃんを救ってくれた人だよね.......?」
シオは再会を喜ぶ様な口調で話し始める。
「......でも......言ってる意味が良く分からないな......?目を......覚ます?私は起きているよ?」
しかし、一転して冷酷な口調に戻った。
「違う......!違うのだ!周りを見ろ!シオ......お前は人間だろう!人間同士で殺し合う事に疑問を抱かないのか!?我々は君を人間に治す事ができるのだ!」
アラデスクは再びシオに強く訴えた。
「人間......エリディアン......スヴァールクス......それだけじゃない......種族の中で対立し合う存在だっている......人間なら......ドルゴヌ......宇宙政府......地球......貴方達、エリディアンなら......影の民が居るでしょ......?」
シオはゆっくりと語り出した。
「それが......何だと言うのだ......?」
アラデスクはシオに返答した。
「全ては......本質的には変わらない......でも......同じ生物という枠組み同士での......争いは終わらない......私は聞いたの......貴方達に......実験体として捕獲されて......尊厳を奪われて......軽々しく命を奪われた......私の可愛い子供達の救いを求める声を......」
シオは目を閉じてゆっくりと話を続ける。
「殆どのスヴァールクスはね......とってもか弱い存在なの......だから群れを成して......生き延びるしかない......強い群れの統括者が......必要なの......」
シオの目が開いた。
「でも......スヴァールクスだけじゃダメ......私は全てを救いたい......私は永久を生きる強き統括者......そう願われて産まれたの......だから......エリディアンも......スヴァールクスも......人間も......全てが飢えも殺される恐怖も......争いに敗れる事も......無い平等に生きる世界にして......救ってあげる......」
シオが喋り終えると彼女の瞳が真っ赤に染まる。
「ならば......ならば何故!......この様な虐殺を行ったというのだ!お前が来るまで人々は平和に暮らしていたのだぞ!」
アラデスクは強い口調でシオに問い掛ける。
「虐殺......?私はあくまでも......抵抗した人にしか攻撃をしてない......許しを乞う者......私の理想に共感する者......そういう人達は攻撃をしていないよ......元々......プライマリークリスタルさえ......渡してくれれば......すぐに帰るつもりだった......なのに......こんな事になって......本当に残念だと思ってるよ......」
シオは続けて
「でもね......アラデスクさん......貴方達は......私の子供達をいじめた......その報いは受けてもらおうと思ってた......でもね、私の理想に共感して......協力してくれるなら許してあげるよ」
シオは手を広げて降伏を促した。
「シオ......お前が理想とするその世界は......全てが平等で争いの無い世界だと言うのか.......?」
「そうだよ?その為に私は産まれたの」
シオは首を傾げる。
「確かに......私も争いを止めて、身分や種族の垣根を超えた世界を作ろうとしている......だが!生物は......完全に庇護され......一切の争い、競争が無くなれば停滞する物なのだ!究極の理想とは即ち究極の停滞。未来を紡ぐ為には!全ての種族に平等な機会を与える事こそが次代を拓くのだ!」
「ふ〜ん?でも、実際にそれを達成出来るとは思えない......現に今でもドルゴヌと宇宙政府は争っているよ?アラデスクさん1人の力で......それが出来るの?私は......1人でも出来るよ?」
シオはアラデスクの言葉に反論した。
「確かに......お前と私では天と地ほどの力の差があるだろう......だが、お前の考えが間違っているという事は否定せん!」
アラデスクは力強くシオに答えた。
「なら......残念......邪魔をするなら容赦はしない......やろうか......」
シオは両手を構えた。
「最早......言葉は不要か......ならば......せめて......あの時お前を守れなかった......私の力不足の責任をとって、今ここで!お前を止めてみせる!」
アラデスクは光剣を構えながら一歩前に踏み出した。
「ふ〜ん?逃げないんだ......でも、そこに居る貴方達が束になっても私に......勝てると思ってるの?」
その瞬間シオの纏う禍々しいオーラが一層強くなる。
「モーデル!別働隊を指揮して星庁舎の救援に向かえ!ここは私が抑えてみせる」
アラデスクはモーデルに命令を下した。
「し、しかしっ!」
「命令だ!行け!星庁舎が落ちれば我らの負けなのだ!」
アラデスクはモーデルに強い口調で言い放った。
「モーデル......お前の頭なら戦況が分かるだろう?ここは私と殿下に任せろ」
シタデレもモーデルに援軍に向かう様促した。
「......2人とも、ご武運を......」
モーデルは自らの部隊を率いてシオを迂回して星庁舎へ向かった。
「殿下、貴方に死なれたら私がルインに殺されるので、それだけは何をしてでも阻止しますからね。責任を感じるのも、分かりますが1人で解決しようとせず、仲間を頼って下さい」
シタデレはアラデスクに伝えて弓を構えた。
モーデルを見送ったアラデスクは手にした光剣を強く握りしめた。
その掌は汗で濡れ、わずかに震えていた。
目の前の少女は、守れなかった友の妹。
しかし今は千の兵を屠れる“災厄”。
——それでも止めなければならない。
自分の罪を終わらせるために。




