望まぬ再会
「やっぱり揺れています!気のせいではありません!」
看守は上官に必死に訴えた。
「……お前の言うとおりだ。揺れが……どんどん強くなってきている……なんだ、この嫌な振動は……」
足元の石床が低いうなり声のような振動を発し、棚に置かれた金属カップがガタガタと跳ねる。地下深くから巨大な“何か”が這い登ってくるような、不気味な気配だった。
「何だよ……何なんだよ……次から次に……一体、俺たちはどうなっちまうんだ……!」
そして――兵士の死体の血痕が残る床が、皮膚のようにムクムクと盛り上がり始めた。
「な、何だ……床が……膨らんで……!」
次の瞬間、床が破裂し、耳をつんざく轟音と共に巨大な生物が地中から飛び出した。
地面を粉砕し現れたのは、巨大なモグラにも似たスヴァールクス――
アビスモール。
黒ずんだ岩盤の破片と砂埃が爆ぜ、看守たちは衝撃で吹き飛ばされる。
アビスモールは、星庁舎内部の匂いを嗅ぐように鼻を鳴らすと、目的だった“兵士の死体”を咥えた。その瞬間、ぴたりと動きを止める。
「ひっ……!」
割れた床の大穴からは、次々と無数のスモリストが這い出してくる。
まるで地獄の門が開いたかのように、暗い穴から這い出る影が廊下を黒く染めていく。
「うわぁあああああ!! 化け物だぁ!!」
「待て!逃げるなっ!」
看守は半狂乱になって廊下を走り出す。後ろでは、壁を這いながら迫るスモリストの群れが、カサカサと不気味な音を響かせて追いかけてきた。
「おい!敵だっ!化け物が来たぞ!助けてくれ!!」
逃げる途中で警備兵に遭遇し、助けを求める。
「何だと――うわぁあああ!!」
兵士たちは反応する間もなく、黒い津波のような群れに飲み込まれた。
上階では、吹き抜けの通路からそれを見た兵士が震えながら放送設備にかじりつく。
「化け物だっ……!化け物が入ってきた……!どんどん進んできます!収容棟は……もう駄目だぁああっ!!」
その叫び声は、星庁舎最上階の司令室にも届いた。
「一体どういうことだ!なぜ突然建物内に奴らが現れる!?」
イオリア司令官は机を叩きつけ、激昂した。
「わ、分かりません、司令官……しかし映像にもはっきりと……こちらです!」
副官が震える手でモニターを切り替えると、画面いっぱいにスヴァールクスの群れが映し出された。
「どんな手段を使ってでも、この区画から外へ出すな!ここを突破されれば星庁舎は終わりだ!」
「ははっ!直ちに防衛線を構築します!」
副官は駆け足で司令室を飛び出した。
ーー
ドルゴヌ軍はすぐさま区画封鎖の為には急造の防衛線を構築した。
しかし、所詮は急造の防衛線であり少しずつだが突破されていった。
「う……うわぁあああああ!!」
「駄目だ、破られた!後退しろ、後退だ!後ろの陣地まで下がれ!!」
兵士たちは必死に走る。しかし後方から押し寄せるスヴァールクスは、尽きることなく、影のように彼らを追い詰めていく。
ーー
一方、防衛が一段落したアラデスクはシタデレ、さらにモーデル率いる後続部隊とともに星庁舎へ向かっていた。
「皆!この付近の安全は確保した!だが物陰からの奇襲には気をつけよ!不審な物には決して近づくな!」
アラデスクが叫びながら先頭を進むと、緊迫した表情の伝令が駆けてきた。
「殿下、大変です!偵察隊より報告!スヴァールクスが星庁舎内部へ突入したとのこと!」
「なんだと!?……急がねば……!」
アラデスクは速度を上げる。
前方の道に、ぽつりと“人影”が立っていた。
「生存者か……?救助に向かうぞ!」
しかしシタデレは立ち止まった。
(この気配……知っている……だが違う……あの時よりも遥かに濃く、重い……!)
やがて距離が縮まり、その“少女”の姿がはっきりと見えるようになった。
瓦礫と死体に満ちたゲルニカのような大地に、あまりにも異質で美しい後ろ姿。
黒曜石のような漆黒の羽根がゆらりと揺れ、その足元には、一人の兵士の遺体。
アラデスクは圧に押されながらも絞り出すように声を発した。
「き……君は……何者だ……?」
少女は静かに振り返って、感情の欠片もない口調で話し出す。
「……助けてあげようとしたのにな。どうしてこの人は抵抗したんだろう。勝てるはずなんて、どこにもなかったのに」
その顔を見た瞬間――
アラデスクは血の気が引いた。
「あ……まさか……シオ……なのか……?」




