死への渇望
瓦礫の山に身を潜めたリュウキたちの視界には、スヴァールクスに寄生された重戦車が不気味な存在感を放ちながら鎮座していた。
かつては鋼鉄の装甲に守られた主力戦車だったはずのそれは、いまや異形の怪物へと変貌している。砲塔も車体も、赤黒い有機質の触手に覆われ、まるで生き物のように脈動していた。砲塔は音もなくヌルリと回転し、周囲を絶えず監視している。触手の隙間からは、人間だった頃の装甲の面影がわずかに覗いていた。
「どうするべきか……。あれは迂闊に近づくのは……無理だな」
リュウキが低い声で呟く。息をひそめながらも、その目は鋭く状況を見ていた。
「だが……破壊しなければ空からの支援は絶望的だ。あれ一基で戦況がひっくり返るぞ」
ユウゴが冷静に言う。が、その視線は戦車を警戒し続けていた。
「ねぇ……ほんの少しでも影から出たら蜂の巣だよ……あんな化物相手じゃ……」
シリカは弓を握り締めながら、不安げに唇を噛んだ。
「誰かを囮にしても、爆風の範囲が広すぎる。小細工をしてもリスクがでけぇな……」
ロドメルは険しい顔で戦車の砲身を睨む。触手が蠢き、砲塔がゆっくりと角度を変えるたび、金属がきしむような音が響いた。
4人は短く息を飲み、ひとつの結論に辿り着く。
「危険は承知だが……全員同時に接近すれば、接触するまで砲撃はしづらいはずだ。距離を詰めれば――勝機はある」
ユウゴが提案する。
「……そうするしかねぇ。やるぞ」
リュウキは大きく息を吸い、覚悟を決めるように小さく頷いた。
「なら、私はここから援護する……! 皆、絶対に無茶しないでね!」
シリカは弓を構え、不安を抑え込むように指先に力を込めた。
「よし……砲塔が反対を向いたら行くぞ。タイミングを逃すなよ」
全員の鼓動が早まる。緊張で汗がにじむ。
砲塔がゆっくりと反対方向へ旋回していく。
「……今だ!」
3人は一斉に飛び出した。
砲塔がすぐに異変を察知し、ギギギ……と鋭く駆動音を響かせながら3人へと向き直る。
「来るぞ!気をつけろ!」
ユウゴが叫ぶと同時に砲身の内部で赤黒い光が明滅し、弾丸が解き放たれた。
轟音が大地を震わせ、リュウキのいた地点へ巨大な砲撃が炸裂する。
「くそっ……ッ!」
リュウキは爆風を読み、長距離のブリンクで辛うじて回避した。直後、さっきまでいた場所が巨大な穴を穿ち、瓦礫ごと吹き飛んだ。
「リュウキ!!大丈夫か!?」
「……ああ、生きてる!そのまま行け!!」
咳き込みながらもリュウキは強い声で答える。
その間にも戦車は次の標的を探し、砲身がギロリとユウゴへ向いた。
(まずい……ッ!)
ユウゴが回避のためブリンクを構えた瞬間――
キィィィンッ!
凄まじい速度の光の矢が横から飛び込み、砲口の内部へと突き刺さった。
「ッ!?」
直後、砲身内で誘爆が起こり、戦車が腹の底に響くような爆発音と共に炎上した。
「はぁ……はぁ……よかった、ちゃんと狙えた……!」
丘の上からの声。振り向くと、シリカが震える弓を握り、胸を押さえて息を荒げていた。
「すげぇぞシリカ!! 砲身の中なんてよく狙えたな!!」
「褒めるのは後だロドメル!まだ砲台が残ってる!」
リュウキが叫ぶ。
3人は重戦車の残骸を飛び越えながらミサイル砲台へと辿り着いた。
砲台もまた異様に変貌していた。金属の外装は触手と腐敗組織で覆われ、赤黒い脈動が表面を走る。触手の根本からは毒々しい粘液が滴り落ち、地面を溶かして煙を上げていた。
「……すげぇなこりゃ……剥がせんのか?」
ロドメルが光剣で触手を切り裂くと、内部から硫酸のような液体が吹き出し、砲台の支柱をじゅう……と音を立てて溶かしていく。
「くそ……これはもう装置じゃない……中に“操縦者”が居るはずだ」
重い空気が漂う。そこに居るのが何であるか2人とも分かっていた。
「行くぞ」
砲台内部へ足を踏み入れると、そこもまた触手と肉塊に覆われ、悪臭と湿気が鼻を刺した。
そして、奥に“それ”は座っていた。
かつてはドルゴヌの兵士だった男。だが今は、人の面影がわずかに残るだけのスヴァールクスの操り人形になっていた。
目は濁り、皮膚は赤黒く侵蝕され、腕や背中から無数の触手が生えている。
それでも――
「……たの……む……殺して……くれ……」
かすかに震える声は、まだ“人”だった。
「……必ず、仇は取る」
ユウゴは静かに言い、光剣を握り締める。
そして、苦しみを終わらせるために剣を振り下ろした。




