乗っ取られた兵器達
4人はルインとザメルが上空から発見した生存者を次々と救助して行った。
「順調ですね。ルインさん。思っていたよりも多くの人を救助出来ていると思いませんか?」
救助の様子を見ていたザメルはルインに話しかける。
「無駄口を叩く暇があったら、早く他の生存者を探して下さい」
「勿論探してますよぉ!でもサーモグラフィーで見ても、この地域には要救助者は確認できませんよ」
ザメルが言い終えたその時、突然「ビー!」という大きな警告音が機内に鳴り響く。
「え?......大変です!後方から放たれたミサイルにロックオンされました!」
攻撃に気づいたザメルは咄嗟に回避しようと試みる。
「緊急回避します!ルインさん気を付けて下さい!」
ザメルは機体を前方にブリンクさせて間一髪でミサイルを回避した。
「危なかったぁ......」
「ザメル!安心してる場合ではありません!発射源を叩きますよ!」
ザメルは安堵の声で呟き、ルインは発射源を特定しようとした。
「は......はい!」
「撃たれた方にカメラを向けます!ルインさん何か見えますか?」
ルインは操縦席の画面に表示された映像を注意深く見る。
「これは......ドルゴヌ軍の......?しかし、我らをスヴァールクスと間違えた......と?」
そこに映っていたのは広場に設置されたドルゴヌの対空ミサイル砲台だった。
地面に設置された本来のミサイル砲台は、すでに原型を留めていなかった。
赤黒い触手の塊が生き物のように蠢きながら、金属製の砲身や基部に巻き付いている。
砲台の台座部分は、元の滑らかな金属が腐食したようにボロボロと侵食され、その隙間から 樹木の根のように張り巡らされた有機組織 が外へ溢れ出している。
それは地面に深く食い込んでおり、まるで砲台そのものが“植えられた”怪物のように見えた。
ミサイルの発射装置は本来四角いシルエットのはずが、
触手に覆われた結果、巨大な腫瘍のように膨れ上がった塊に変形していた。
表面は脈動し、不気味な赤黒い光が血管のような筋を走り、内部で何かが鼓動しているかのように見える。
その「腫瘍(ターレットの頭部)」の頂点には、かつてあった発射口が辛うじて穴として残り、
そこからは腐敗したミサイルの筒が、まるで 骨が皮膚を突き破った かのように露出していた。
砲台全体はゆっくりと左右に振れながら“生きているように”監視を続け、
獲物を見つけた途端、内部の筋肉が収縮するような動きとともに、甲高い金属音を響かせてミサイルを発射する。
ミサイルの発射時、赤黒い瘴気が噴き上がり、
砲台全体が震えるたびに触手が砂利の上を滑るような音を立てる。
その姿は、
「機械と怪物が強制的に融合させられた“死んだ兵器”」
と呼ぶのが最も相応しかった。
「ルインさん......あの砲台から......非常に強いスヴァールクスのウイルス反応を確認しました。おそらく操縦者はウイルス感染者である可能性が高いです」
それを聞いたルインは一瞬だけ目を瞑った。
(ウイルス......おそらくは......パラフェクトの撒き散らした物でしょう......残念ですが、殺して焼き払うしかありませんね......)
「ザメル、地上の彼らに通信を」
「は、はい」
ザメルはリュウキ達に通信を繋いだ。
「皆さん、聞こえますか?頼みがあります」
「ルインさん!?さっきのミサイルは!?大丈夫なんですか?」
リュウキの問いにルインは答える。
「ええ、不意を突かれましたが、ザメルの回避行動で間一髪避ける事ができました」
「そうなんですね。良かった......」
「今の攻撃はスヴァールクスに乗っ取られたドルゴヌ軍の対空ミサイルによる攻撃です。あれを破壊しなければ上空からの支援が難しい......ですので、皆さんに破壊をお願いします」
ルインが言い終えたその時、ザメルに向けて再びミサイルが発射された。
「ルインさんもう一度来ます!......って、嘘?......ミサイルにロックオンされています!ブリンクしても逃げられません!」
ルインは咄嗟に周りを見て、高い建造物を探した。
「ザメル!あそこの高い建物の裏に!ミサイルを回避します!」
「分かりました!」
ザメルはルインの指示通りに近くのビルの裏に隠れてミサイルから逃れた。
その後すぐにミサイルはビルに衝突して轟音と共に全体が燃え上がった。
「大丈夫ですか!?」
リュウキは無線でルインに問いかけた。
「はい、私達は大丈夫です。ですが、私達は射程内に入れません。ですので、その分周囲の敵を排除して皆さんの援護を行います。どうかよろしくお願いします」
「「はい!!」」
ザメル達が射程外に逃げた事で、乗っ取られたミサイル砲台は次の獲物を見つけて撃ち落とすべく、ゆっくりと回転し始めた。
4人は破壊するべく慎重に近づいて行った。
「あれは結局空中にしか攻撃できないから俺らなら楽勝で破壊できるな!」
「ロドメル、油断は命取りだ!慎重に行こう!」
ユウゴはロドメルに注意を促した。
「ねえ!皆見て!」
シリカは空中を指差しながら、叫んだ。
指を指した先には空中を浮遊する風船のような大きなスヴァールクスの生物だった。
空中からふわりと漂ってきた巨大な影は、翼も推進器もないにもかかわらず、
水中を漂うクラゲのように重力を無視した動きで移動していた。
その生物はスヴァールクス特有の、薄い膜に包まれた浮遊嚢を体内に複数抱えており、
ひとつひとつが薄く脈動し、膨らんだり萎んだりして空気やガスを調整しているようだった。
腹部には裂け目のような大きな“口”があり、
その内部は無数の触手と粘液で満たされている。
その口が開かれると、重く鈍い金属音とともに巨大な影の兵器がゆっくりと吐き出された。
その姿はまるで母体が子を産むかのような神秘性と、
生物ではあり得ない金属の重量感が混ざった不気味な光景だった。
それは荷物を降ろすと、再び口を閉ざして浮遊し、
まるで悪夢の配達員のように次の目的地へと静かに漂っていった。
吐き出された重戦車は、もはや“戦車”とは呼べないほど変異していた。
外装の金属板は腐食し、赤黒い腫瘍や触手が外殻に食い込み、
まるで戦車自体が生きているかのように脈動している。
本来キャタピラがあるべき場所は完全に破壊され、
代わりに甲殻に覆われた巨大な節足動物の脚が何本も生えていた。
ガチガチと甲殻を噛み合わせる音を立てながら、
その脚でゆっくりと地面を引っ掻き、異様な動きで前進する。
砲塔の基部には黒い血管のようなものが絡みつき、
砲身の内部も有機的な粘膜に侵されている。
砲口は呼吸するかのように収縮と拡張を繰り返しており、
そこから漏れる赤黒い煙は腐敗臭と金属臭を混ぜ合わせたような異臭を放っていた。
砲塔上部には触手が束になって蠢き、
たまに失われた乗員を模したような形に変化しては、
また崩れ落ちて形を失う。
その横にはギテオン軍を示す青白の縞模様の旗が、
触手に飲まれながらも辛うじて形を残していた。
しかしその近くの金属板には無数の爪痕がつき、
おそらく車内の兵士が抵抗した痕跡だとわかる。
そして戦車は触手脚をゆっくりと踏み出し、
まるで獲物を守る獣のようにミサイル砲台の前に立ちはだかった。
「戦車?しかもあの旗はギテオンの旗じゃ......?」
戦車にはギテオンの所属の証である青と白の縞模様の旗が立っていた。
しかしその旗も大部分が触手に覆われており辛うじて確認できる程度であった。
「あれを突破しないと......砲台には辿り着けない......なんとかして撃破しよう!」
リュウキの言葉には強い力が籠っており、それを聞いた3人も鋭い眼光で戦車の突破口を探し始めた。




