消えたはずの記憶
水色の髪の少女が2人と銀髪の少女が3人で丘を駆け上がっている。
「待ってよー!シリウスちゃーん!」
「えへへ〜。エマちゃんとシャナちゃんはは遅いな〜」
3人の少女は丘の頂上に到達してその場に寝転がり、夕日を見つめる。
「エマちゃん!シャナちゃん!明日も遊ぼうね!」
「うん!......あ!ごめんねシリウスちゃん明日は家に居ないと行けないんだった」
「そうなの?どうして?」
「なんか......良く分からないけど、遺伝子検査っていうのをするかもしれないから......って言われてて......」
「でも、なにそれ?よくわからないなー」
「私も分からないんだよね......だからそれが終わったら遊ぼうね!」
「うん!そうしよう!」
「そしたら終わったらここに集合ね!待ってるから!」
ーー
次の日シリウスは約束通り丘で2人を待っていたが来たのはシャナ1人だった。
「あれ?エマちゃんはどうしたの?」
「......良く分からないんだけど......お姉ちゃんはブルー遺伝子?って奴なんだってだからもっと沢山検査をするって言ってたよ」
「そうなんだ!じゃあ2人でエマちゃんを待ってよう!」
しかし、エマはこの日現れることは無く、シリウスとエマが会う事は2度となかった。
ーー
その後すぐシリウスの家にも遺伝子検査官が現れる。
そこからの彼女の人生はあまりにも悲惨な物であった。
そして記憶の“追体験”は終わりを迎え5人は現実に帰ってくる。
彼らが現実に戻ってまず気になった事が一つあった。
「なぁ......エマってドルゴヌの出身だったのか?」
「あ......えっと......それは......人違いじゃないかなぁ......」
「確かに名前は同じだったけどさぁ......同じ名前の人なんて探せば居ると思うよ......アハハ......」
エマは誤魔化す様に笑うが、それは通用しなかった。
「本当の事を言ってくれよ!お前がドルゴヌ生まれだったとしても、それはお前のせいじゃねえ!だからそこを責めたりなんてしねえよ!」
「そうだ!エマ、俺と君は同じ偵察兵として苦楽を共にした仲だろう!君が何処の出身だろうとそれを受け入れるさ!」
皆はエマに言葉を掛け、その言葉はエマの心に突き刺さる。
「ごめんね。皆、騙しててごめん......でも......もう私は......いや私達は......今更引き返す事はできないの......」
エマはブリンクして教会の外に逃走した。
「あ、おい!待てよ!」
全員が彼女を追いかけて行き、やがて近くの空を望める小高い山に辿り着く。
「何処へ行くんだよ!お前が例えそうだとしても俺たちは気にしない!絶対だ!」
「そうだよ!エマ!皆でまた遊びに行こうよ!」
「ハァ....今まで貴方達といたエマは私じゃない。全て作られた存在よ。喋り方、性格、仕草、表情、家族、経歴、全て用意された人間を演じただけよ。言っておくけど貴方達を今ここで殺す事くらい難しく無いんだからね?」
エマは突然人が変わったかの様に冷酷な表情と喋り方で話し始める。
「え?......エマ......?」
「なっ......?」
「そんな事が?」
エマは空に手を伸ばすと小型の宇宙船が高速で飛来してくる。
そのままエマは空中に飛び上がり、船に乗り込む。
「逃さんぞ!」
シタデレは弓を撃つも、宇宙船は一瞬でワープゲートに入り逃げられてしまう。
「くそ......逃したか......?」
「エマ......どうしてよ......学校でも......ここでもずっと一緒にいたじゃん......」
「追跡を試みましょう。......ザメル?聞こえていますか?エマが宇宙船で逃走しました。彼女を探知して追跡して欲しいのです。......ええ、お願いします。可能な限りで構いません。それでは」
ルインはザメルに連絡を取り自動操縦で追跡する様伝えた。
「一先ず戻りましょう。私も驚いていますが、とりあえず状況を整理しなければ」
ルインの言葉に皆頷いて、教会へと戻ることにした。
ーー
エマは宇宙船に乗り込んで座席に座る。
「ハァ....シリウスちゃん......あれ以来会ってなかったから......分からなかったよ......レッド遺伝子って聞いてたから......もう死んでると思っていたのに......」
「皆......ごめん......私は......もう戻れない......あれに背けば......貴方達を殺し尽くして......しまうから......」
エマは宇宙船をプラキオ星へ向かわせた。
ーー
スヴァールクス本拠地 ソラリス星
「ゼータヘッグ?身体と任務の調子はどうなの......?」
ソラリス星のスヴァールクスの地下の巣の一角、薄暗い洞窟の奥でシオとゼータヘッグは向かい合っていた。
「シオ様......お気遣いありがとうございます。シオ様の力を頂いたお陰でとても快調でございます。引き続きオロニアルの元に潜入し続けて行く所存です」
「あ、そう?......そういえば貴方ってさ......強い存在に仕えるのが好きなんだよね?だからスヴァールクスになったの?」
「はい。この腐り切った世界を正すには人間であろうとスヴァールクスであろうと、関係ございません。絶対的な力が正義だと考えております」
「ふ〜ん。なら見せてあげるよ。貴方が心の底から私に心酔する様に、絶対的な力......をね」
シオはゼータヘッグの目の前に手のひらをかざす。
その瞬間、手の周囲に光が渦巻き、世界そのものがひれ伏すかのような圧力が洞窟全体へと押し寄せる。
「そろそろ行こうかぁ......“プライマリークリスタル”を回収しにね......ゼータヘッグ......アズガルドを目覚めさせて」
「はは!して......目的地は?」
「オイミャク星だよ。ディザイア神の力の結晶......あれをなんでドルゴヌが持ってるんだろう?......何に使うのか知らないけど、どうせ使いこなせないだろうから貰っちゃおうか......」
この日、モーデル率いる第4軍団はソラリスから出撃した大規模なスヴァールクスの軍勢を確認した。




