備え無きを攻めその不意に出ず
エマ、ユウゴ、ロドメルの3人は行動を開始した。
まずはエマが空中へブリンクしてヴェノジストに切り掛かる。
切られる瞬間に本能で気配を察知したヴェノジストは即座に回避行動を取り間一髪でエマの攻撃は避けられてしまう。
「ユウゴ君!」
「ああ!」
エマが攻撃した時点でヴェノジストには前にも横にも上下にも沢山の逃げ道があった。
それをユウゴは斜め前方向から攻撃して制限する。
そして2人が出来るのはここまでであり最後のトドメはロドメルに託される。
ロドメルはシリカがルインを狙撃した様に全ての意識をヴェノジストに向けて動きを観察する。
ユウゴとエマの動きは素早く、一瞬の間の出来事だったが集中したロドメルにはとても長い時間に感じられた。
まずはエマが動く、敵は間一髪の所で避けるも体勢が崩れているのが目に見える。
そこを素早くユウゴが狙う、敵は焦って視野が狭くなりとにかく回避する事に専念する。
その動きを観察したロドメルは次に向かう位置がまるで未来を見るかの様に理解できる。
「これが......あの時のシリカが見た世界......」
ロドメルは思わず呟きながらヴェノジストに狙いを定める。
さながら、罠を張った狩人の様に獲物が照準に入るのを待つ。
そして遂にその時は訪れた。
「食らえっ!」
ロドメルはマインドエネルギーを込めて渾身の射撃を放つ、弾は狙い通りに命中しヴェノジストは倒れる。
「やった!やったぜえええええ!」
「1匹倒したくらいで浮かれるな。アホガキ。敵はまだまだ居るんだぞ」
「す......すいません。けど分かったぜ狙い方がもう外さねえ。食らえ!化け物共ォ!」
「エマ!私達も行くぞ!一撃確殺だ!」
「うん!了解だよ!」
3人は集まってきたヴェノジスト達を次々と撃破していった。
「お前ら、準備運動は終了だ。今さっきルインから連絡が来た。クイーンは地下に潜伏してるとの事だ。陣地のモーデルにこの事を伝え次第俺達も地下を目指すぞ」
「「はい!」」
ーー
4人は陣地へ戻り指揮を取る知の人格のモーデルの元へ向かいクイーンの居場所を伝えた。
「なるほど......地下鉄、確かに隠れるのには打ってつけですね。地上の掃討が終わり次第、部隊を地下に向かわせます。先に突入するのであれば出来る限り情報共有をお願いします」
言い終えた直後モーデルの人格と充血した目が切り替わり、声色も変わる。
「クイーンが地下に居るならよぉ。今すぐぶち殺しに行けばいいじゃねえかよぉ!てめえがチンタラ軍隊の指揮なんて取ってるから終わらねえんだろう!?」
「勇の私はそれだから行けないのですよ。此度の作戦は人類との共闘という任務ですので、彼らと足並みを揃えるべきでしょう。それに闇雲に地下に突っ込んではどれほどの犠牲が出る事か......これだから軍略のど素人は.......」
「誰がど素人だと!?てめえみたいな頭でっかちなんぞ一瞬で捻り潰してやるわぁ!」
勇と知の人格による喧嘩が始まってしまい。周りの彼の部下達もどうしていいか分からない様子だった。
「行くぞ。もうここに用はない」
シタデレは呆れて退出していき、ロドメル達もモーデルを気にしながらも陣地を後にした。
「地下鉄の入り口を探すぞ。この辺に複数あるから見つけるのに時間は掛からないはずだ」
4人はしばらく周囲を探索してポッカリと開く入り口を発見した。
穴の中に光の気配は感じられず深淵の闇が支配している世界だった。
リュウキ達と同様にシタデレ達も剣や弓を照明代わりにして慎重に進んでいく。
道中には何故かスヴァールクスの死体が多く転がっており、シタデレ達よりも早く地下に進入した存在を示唆していた。
「俺達より先に突入した奴がいるのか?」
「モーデルに伝えたとはいえここまで早く行動できるものとは思えんなぁ?何かがおかしい、気を付けろ」
シタデレは今まで見せたことのない集中した表情を見せる。
それに気づいた3人は緊張感に包まれながらも歩みを進めていく。
やがて探知機の反応が大きくなる。
「クイーンは近いぞ.......しかし、なんだこの異様な気配は......」
そして闇の中に何かが動くのを4人は確認する。
全員即座に戦闘体制に入りシタデレは確認の為照明の矢を天井に刺し一時的に周囲に光が差し込んだ。
そこにいたのは頭を抱えたスヴァールクスに寄生された人間だった。
しかし襲ってくる様子は無く何かをブツブツと呟いている。
その姿は明らかに異様であった。




