試練を超える力
「どうしました?もう模擬戦は始まっていますよ?いつでも向かって来て良いのですよ?」
ルインはいつも通りの口調でリュウキ達5人に声を掛ける。しかしそれは正に強者の余裕であり5人は一片の隙も見出す事が出来なかった。
その威圧感は凄まじく実力の差を嫌でも実感させられた。
「そうそう。一つ言い忘れていました。私は貴方達に攻撃はしません。ですので、私の攻撃を心配する必要はありませんよ」
その発言は彼女の底知れぬ強さを表す発言だった。
そして最初に動いたのはリュウキだった。
「皆!怖気付いているだけじゃ何も変わらない!訓練を思い出して戦おう!」
「そうだな!俺らだって鍛えてきたんだルインさんにその成果を見せてやろうぜ!」
「「おう!」」
しかし5人がかりで一斉に攻撃してもルインはブリンクを駆使して全て軽々と避けていた。
ーー
一方、模擬戦を見ていたリッテンとシタデレは
「シタデレよ。やはりルインを相手にするのは早かったのではないか?私は戦闘が不得意だがお前の目からはどう見える?」
「...師は巨大な壁であろうと乗り越えられる様に弟子を育てるのですよ。私もルインもカラシコフ隊長も最初からそのつもりで教えてきてるのです。あいつらはこの壁を越える実力は着いています」
「...ですがそれは1人では超えられません。それぞれの兵種で連携しなければあの嫌味な女は倒せないでしょうね」
「...そうかシタデレ、お前が言うのなら間違い無いのだろうな」
ーー
「ハァハァ.....訓練の時から見てきたがやはりルインさんは俺たちとは桁違いに強いな....」
「そうだねぇ。私とユウゴくんは最初よりも格段にブリンクの速度は早まったけど結局ルインさんには追いつけなかったもんねぇ」
ユウゴとエマはそれぞれルインの強さを述べていた。
「よし!皆聞いてくれ!良い事考えたぜ!」
ロドメルはそう言うと皆を集めた。
「ふふっ。作戦会議ですか?どうぞ構いませんよ。存分に策を練って私を倒して下さいね?」
「まずシリカ、お前がロックオン射撃の矢を放ってルインさんを追いかけ続けてほしいんだ。それと同時にユウゴとエマはブリンクを駆使して追いかけ続けて欲しい」
「その間にもシリカは2本目、3本目の矢を放って逃げ場を無くして行った所を俺とリュウキで倒すんだ。どうだこれを試してみないか?」
俺達4人で追いかけることに集中するからシリカは弓を撃つ事に集中してくれ」
「分かったわ」
「ふむ、そうだね相手を消耗させて倒すのは悪く無い」
「このままでは決着が付かないな。ロドメルの作戦で行こう!」
「「おう!」」
ーー
「彼らは何やら作戦を考えたようだな」
「ですね。リッテン博士。ここで彼らは兵種毎の連携と戦闘の仕方に気付いていれば合格ですが、果たしてどうなるやら」
ーー
そして5人は作戦通りに戦闘を再開した。
「行くよ皆!」
そう叫びシリカは渾身の矢を放つ。
ロックオン射撃はその性質上マインドエネルギーを多く消費するため余り長い時間は掛けられない。
それを分かっている5人はルインの消耗を狙いながらも早く倒さねばならない。
シリカの放った光の矢がルインに向かっていくと同時にユウゴとエマの2人が攻撃を仕掛けた。
「なるほどしっかりと連携をしてきている様ですね。そこにしっかり気付いてくれるのは教えてきた身としては嬉しいですよ」
「ですが、それだけでは合格とは言えませんよ」
ルインの速度は更に上がりやがて目で追うことも難しくなっていた。
ユウゴとエマは何とか喰らいつこうと必死に追いかけ続けていた。
リュウキとロドメルはジリジリと近づいて気を伺っていた。
そうしている内にシリカは別方向から2本目の矢を放った。
「なるほど、私の逃げる方向を制限していくとは、悪くない考えですね」
そうしてルインは徐々にフィールドの端へ追い詰められていった。それと同時に3本目の矢が放たれた。
「良し!ルインさん。とうとう追い詰めましたよ!」
「ルインさんに習った偵察兵としての技術余す事なく使わせて頂きましたよ!」
ユウゴとエマはそれぞれルインとの訓練を思い出しながら口々に呟く。
「今だ!行くぞロドメル!」
「おう!」
今までゆっくりと近づいていただけだった2人は一気に距離を詰めに来る。
ユウゴとエマも逃がさない様に先程よりも距離を詰めていた。
「作戦は悪くないですが、その程度の包囲では私は封じ込めるのは無理ですよ?」
ルインは針の穴の隙間を通る様に狭い隙間を潜り抜けて包囲を脱した。
「くそ!これでも駄目なのか!」
リュウキが叫んだその直後今まで沈黙していたシリカは好機を捉えてロックオン射撃ではない通常の射撃の矢をルインに向けて放つ。その矢は今までとは比にならない凄まじい速度だった。
「...なっ!?」
ルインは包囲を脱する為にブリンクをしたばかりであり避け切る事ができずにそのまま当たってしまった。
それと同時に模擬戦終了の合図が鳴りリュウキ達は見事に勝利する事ができた。
ーー
「お見事です。皆さん。特にシリカさん貴方の最後の矢は見た瞬間から避ける事は無理だと悟る程見事でしたよ」
「あ、ありがとうございます。ルインさん]
「そうだよシリカちゃん。凄く綺麗な矢だったよ!」
「でも皆が私を射撃に集中させてくれたおかげだよ。だからこそルインさんの動きに目が慣れて狙う事が出来たんだよ」
勝利の喜びからその場で談笑し合う5人にシタデレは突然弓を構えて紫色の矢を放った。
その矢はシリカの顔を掠めて後ろの柱に突き刺さった。
威力も速度もシリカの矢とは比べ物にならない程強力な物だった。
「何するんだよ!当たったらどうするんだ!」
ロドメルを始め皆がシタデレに抗議した。
「ハァ.....少しは成長したかと思っていたんだがなァ...私との訓練前からまるで何も変わっちゃいない...」
「お前は最後の矢を放った時全てのエネルギーを込めていたな。だからこそ今の私の矢を避ける体力も残っていないはずだ。それどころか立っているのもやっとだろう。身体を見れば分かる」
「戦争ってのは敵を1人倒したら終わりじゃない。続けて次の敵を倒すんだ。シリカ、お前今のままなら死ぬぞ」
「ごめんなさい。シタデレさん!もっと強くなれる様に頑張ります!だから、また教官として教えて下さい!」
シリカは即座に謝罪した。
「全く...これだから教官なんぞ嫌だと言ったんだ....」
「お、おい...待たないかシタデレ!....ホントに、君は......」
しかしシタデレは見向きせずに隣にいたリッテンの言葉を振り切ってそのまま訓練場を去って行った。




