最後の訓練
王宮のアラデスクの部屋にて
「そうか、シリカが弓を現出出来るようになったかそれは大きな一歩であるな。リッテンよ。これならば予定通りに共闘作戦に間に合いそうだな」
「はい殿下。後は教官役の騎士達が全てを教えてくれるかと」
「ふふ、それにしてもシタデレがあっさりと役割に徹するとは少し驚いたぞ」
「そうですな。散々駄々を捏ねていましたが、勝負に負けて渋々と言った感じですが」
「そうか、あいつを手懐けるとは流石だな」
その時突然扉が開き、透き通る様な声が響く。
「なるほど...アラデスク貴方に良き友人がいる事。姉として嬉しく思いますよ」
そうして入ってきたのはアラデスクの姉バヤンだった。
「これは....姉上、如何されたのですか?この様なところまで」
「姉弟が会うのに理由など要らないでしょう?弟が元気かこの目で確かめたかっただけですよ」
「そうでしたか。持て成す事はできませんがどうぞごゆっくりお寛ぎ下さい」
「それでは失礼しますね」
バヤンはアラデスクの対面に座る。
「それで?どうして皇太子の座を賭けるとまで父上と約束したの?」
「我らエリディアン....特に政府の上層部は自らをこの宇宙にて並ぶもののない種族だと言う考えが蔓延っております。しかし、私は王宮で暮らしながら、汚職に塗れたこの現状を見てその考えに疑問に思っておりました」
「その時でした。私は皇子としての公務の一環で偶然人類の地球観測業務に従事しました。そこで見たのはその経験は王宮の中しか知らなかった私にとってはあまりにも新鮮な体験でした。そこから外の世界というものを知りたくなり、一般的な市民達と触れ合う様になり、彼らも我ら皇族も変わらないという事を知りました」
「そうね、今まで真面目だった貴方が道を外した。と良く噂される様になったのもその頃だわ。.....それで?貴方は最終的にどうしたいの?」
「この状況を変えたいと思っています。現状は政府や行政などで出世するには血筋や賄賂が優先されています。優秀な能力を持ちながら身分のせいでその能力を発揮できない者もいます。このままでは我らの発展の道は閉ざされ緩やかに沈んでいくでしょう」
「そうではなく、ただ才があれば出世出来る様に、誰であっても機会を与えられる様な構造に変えたいのです」
「我らは人間を下等な種族だと見做してもいます。ですが、私はそうは思いません。その為に私の友である彼らと共に戦う事で、それを証明して皆の意識を変える事から初めて行こうと思っています」
「アラデスク、貴方の言う事はとても正しい事だと思う。でもね、正しいからと言ってもそれは苦難の道である事は分かるでしょう?足を掬われない様に気をつけるのよ。姉としてとても心配しているのですよ」
そう言いながらバヤンはアラデスクの頭を撫でる。
「姉上...おやめ下さい。私も姉上もそう言う年齢ではございません」
「あら、私にとってはあの時の可愛い弟のままよ」
「まったく姉上には敵いませんなぁ...」
ーー
俺達はそれぞれの兵種の訓練を順調に受けていた。
「まだだ!まだ遅いぞリュウキ、ロドメルよ!その程度では一人前の戦士とは言えんぞ!」
「「はい!」」
リュウキとロドメルは突撃兵としてカラシコフに教官として指導されていた。
「ふう、あと少し速度を高めたいがとりあえずは近接戦の技術は合格と言えよう」
「最後に一つだけ教えておく事がある。2人とも光剣を小刻みに出してあの的を狙って撃ってみろ。突撃兵の唯一の遠距離攻撃である射撃だ」
「「はい!」」
リュウキとロドメルは初めて言われた事で不慣れだったが、慣れるのに時間はかからず直ぐに的に当てる事ができた。
「威力も射程もあまり強くないが、これがあれば空中の敵を狙う事が出来る。......これを完璧に出来れば私から教える事はもうない」
「だが、戦場では訓練通りに行く事の方が少ないと言うことを覚えておけ」
「「分かりました!」」
ーー
そしてエマとユウゴは偵察兵としてルインに鍛えられていた。
「ユウゴさんは流石ですね。貴方のブリンクの飛距離は一流の戦士に匹敵しますよ。このまま更に伸ばして行きましょう。ユウゴさんは小刻みに相手を翻弄する戦い方が合っていると思います。お二人とも得意な場所を伸ばして行きましょう」
「「はい!」」
2人は一日中訓練場全体をブリンクで飛び回っておりその精度、速度は他の追随を許さないレベルまで到達していた。
「ふふ、ユウゴ君。凄いねこのブリンクってこれがあれば毎日学校行くのも楽になるね?」
「.....今は訓練の途中だぞ、私語は慎むんだ。.....だが、そうだなこの技術を持って帰れれば人類は更に発展できるだろう」
「ほんと、ユウゴ君って真面目だなぁ」
ーー
「.........じゃあ、とりあえず弓を出せ」
「は、はい」
しかし、シリカはいくら弓を現出させようとしても出来なかった。それを見たシタデレは溜息を吐きながら
「ハァ.....お前が前回弓を出せたのは成功体験ではない忘れろ。そもそもな話マインドエネルギーで現出した弓は作成者が死なない限り消滅しない。だがお前の弓は戦闘後にすぐに消えた。つまりそもそもが不完全なのだ。だから最初の経験は忘れろ。もう一度1から新しく作るのだ」
「.....仕方が無い....私の弓を見せてやる」
そう言うとシタデレは担いでいた弓をシリカに見せる。
シタデレの弓は複合弓の様な弓幹で紫と黒を混ぜた様な色をしており弦の部分は着いていなかった。
「お前はあの時無我夢中だったから覚えてないだろうがマインドエネルギーで作った弓を撃つ時は弦の部分と矢は自分のエネルギーでその都度作るんだ。
だから弓幹の部分を作る事だけを考えろ」
そう言われたシリカはもう一度現出を試みる。
シタデレの弓を参考に弓全体ではなく弓幹のみを強くイメージする。
そうして漸く光に包まれてシタデレの弓と色こそ白が基調という違いがあるものの姿形は同じ物を作ることができた。
「やった.....!ようやくできた!」
「お前前回作った時は全てのエネルギーを使い果たして作っていた。戦場でそれをして倒れられるのは自殺行為だ。戦いは一回で終わりじゃない全力を出して戦おうと思うな常に余力を残しておく事を忘れるなよ」
「まったく弓を作る事はもう出来る物と思っていたが、予想より時間が掛かったな....まあ良い...早く来い訓練を始めるぞ」
「は...はい!」
「...さっさと構えろ」
的の前に着いて、シリカはそう言われて慌てて的に弓を構えた。
「....なんだ?構えは悪く無いなァ。お前弓を撃ったことあるのか?」
「はい。一応習っていました」
「ふぅん。なら教える手間は省けそうだな。撃て」
シリカは正確に的の正面に当てた。
「狙う事は出来るみたいだな。.....一度だけ見せてやるからよぉく見ておけ」
シタデレはそう言うと突然、的の反対を向き明後日の方向に弓を構えて撃った。
その矢はまるで意志を持っているかの様に動き、やがて的の真ん中に命中した。
「す、すごい。今のはどうやったんですか?」
「これはロックオン射撃だ。マインドエネルギーの矢の目標を決めてロックオンした。打つ時に狙う対象を強く考えてやれ」
「は、はい!やってみます!」
こうしてそれぞれの兵種に分かれた5人は訓練を進めていった。
ーー
「さて、皆さん兵種訓練も各教官から合格という形を頂きましたのでこれで終わりたい....と言いたい所ですが、最後の試練を与えたいと思います」
ルインはそう告げると歩きながらシリカの使った模擬戦闘施設に近づく。
「なに、単純かつ明快な試練です。シリカさんがやった模擬戦。あれを私を相手に貴方達5人で戦うだけです。簡単でしょう?」
ルインは微笑んだ――だがその雰囲気は、戦場に立つ者の鋭さを宿していた。




