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呪いと祝福の子らは女神の掌で踊る〜南からの使者〜  作者: 樹弦


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姉弟の血

 沈黙の間から瞬間移動してきた面々が屋敷に入るなり目撃したのは血塗れで倒れているブルーノとそれを必死で治療しようとしているアドリアーナだった。


「ブルーノ!!」


 慌ててブリジットが駆け寄り魔力中枢付近の大きな傷を止血する。


「サフィレットは…影に奪われて…姿を消してしまったわ…」


 アドリアーナは絶望的なてブリジットを見上げた。


「な…んだと。サフィレットが?」


 さすがにブリジットも動揺したようだった。聞いたジュディスは呆然と立ち尽くす。


「すまぬ、間に合わなんだ…」


 狐の耳を出したシリルが目を伏せる。シリルは少し姿形が変わっていた。新たな蔦が活性化した影響なのか調子は良さそうだった。


「何があった?」


 フロレンティーナは支えていたフレディを椅子に座らせると、ブルーノの止血に回った。肩から胸にかけても深い鉤爪の傷がある。シリルはブルーノの方を見て唇を噛んだが、重い口をようやく開いた。


「…沈黙の間の方から飛んできた影が、最初はベアトリスを狙ったようじゃった…が、最後にはサフィレットに憑いたんじゃ…あれはどうも蔦持ちを避ける傾向にあってな…わしらがベアトリスを守っている間に…サフィレットを奪われてしまった…それでブルーノがこんなことに…」


 話している間にも今度はブラッドウッドが倒れそうになり、慌てて近くにいたアマロックが支えた。ブラッドウッドは荒い呼吸を繰り返す。冷や汗が出ていた。


「…私の中も…その影が…通過したんだ…」


 言いながらブラッドウッドは咳き込んで血を吐いた。魔力中枢付近が痛むのか腹を押さえて苦しげに目を閉じる。


「レイ…モリス教授を呼んでくれ!」


 学院長が頭が痛むのか額の傷を押さえながら言った。だがジュディスがそれを制した。


「もう呼んでる…」


 ジュディスは険しい顔のままブラッドウッドの魔力中枢付近にそっと触れる。感じた禍々しい気配に思わず顔をしかめた。


「やっぱり…あいつの気配だ…影と言ったが…あれは…霊体…なのか?」


「見た感じ…霊体のようだったな。まだ人の形にもなってはおらんが…」


 シリルが呟いたとき、瞬間移動でモリス教授が現れた。髪が乱れている。どういう訳か腕には妹のアストリアまで抱いていた。


「あぁぁ…やっちゃったわ。私、王立治癒院がアストリアの外泊を許可してくれないから国王陛下に嘆願書を飛ばして勝手に連れ出してきちゃったわよ。元羽化の守って簡単に許可が出ないのね。それよりも何がどうなってるの?あっ!ブルーノ!?」


「お兄さま…早く…弟を…」


「待って、だから…私も初耳なんだけど…驚く暇もなさそうね…」


 言いながらモリス教授は倒れたブルーノの側にそっとアストリアを降ろした。アストリアは指先から淡く輝く細い蔦を出した。ブルーノの顎を上向かせて唇の隙間から蔦を入れる。


「ブルーノ…大丈夫よ…姉さんはここにいるわ…」


 アストリアが優しく耳元に囁いてブルーノに魔力を注ぎ始めた。



***



「えっ?つまり、ブルーノとアストリアのお父さんが同じなの?で、アストリアとモリス先生のお母さんが一緒…」


 怪我人の治療を終えてベッドに運び終わると、モリス教授はため息をついた。聞いたレイも驚いている。ブラッドウッドは熱を出していたが、蔦の実を食べていたからなのか、なんとか悪化は免れていた。ようやく屋敷は落ち着きを取り戻したところだった。


「長年側にいたのに、私全然そんなことにも気付いていなかったのよ…。治癒院でジュディスに呼び掛けられる少し前に突然アストリアが弟が大変、早く行かなきゃって叫ぶからびっくりしたわよ」


 そのアストリアは今はブルーノの隣のベッドで眠っている。アストリアが蔦を繋いでからブルーノの出血は止まった。容体は安定している。


「ジュディス、大丈夫?ジュディスに会ってから、ほとんど眠ってばかりだったアストリアが急に起きて色々と喋るようになったのよ…」


 話を聞きながらも左腕を辛そうに押さえているジュディスにモリス教授が声を掛ける。


「少しテラスで横になろう。休んだ方がいいよ」


 レイはジュディスを連れてテラスのソファーに移動した。部屋の奥の遮断の中では学院長とシリル、フロレンティーナとブリジット、アドリアーナが話し込んでいる。ジュディスがファラーシャに偵察させようとしたらレイに阻止された。レイは何となくジュディスに聞かせたくない話題に違いないと思った。ジュディスがあいつと言ったのは恐らく神官リシャールだろう。リシャール絡みとなると流石にジュディスの前では迂闊に名前を出したくはないとレイも思う。遮断の中にモリス教授が加わるのが見えた。


「早く…サフィレットを探さなきゃ…」


 ジュディスの身体が小刻みに震えているのに気付いて、レイは周囲を遮断するとそっと抱き寄せた。


「一人で飛び出さないでよ。どうしても行きたいときは僕も行くからね。でもまずは左腕がちゃんと使えるようにならないと、戦えもしないからね」


「うん…それも分かってる…でも…もどかしい…」


 ジュディスの閉じた瞼から涙がこぼれ落ちてレイの肩を濡らす。悔し涙だった。細い腕がレイにしがみつく。唇を噛むジュディスの頭を撫でながらレイは抱きしめる腕に力を込めた。

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