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呪いと祝福の子らは女神の掌で踊る〜南からの使者〜  作者: 樹弦


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契約解除

 午後からアリシアはウォードと学院長と共にリュカのいる沈黙の間へと向かった。契約解除の為だった。ジュディスとレイ、フロレンティーナとブリジットは監視室にいた。ブラッドウッドも念の為外に待機している。


「さすがに四人入るとちょっと狭いわね」


 フロレンティーナが言いながら、リュカのいる部屋の様子を見る。アリシアとリュカは向かい合っていた。アリシアの隣にはウォードが立っている。


「なんで…僕…悪いことしてないよ?願いを叶えただけ…」


 七歳のリュカが表に出ているのか話し方まで違う。ジュディスはまるでシリルとソロのようだと思って、嫌な予感がふと胸中を過ぎる。


「七歳じゃないリュカの人格の方が気になるな…」


 ジュディスが呟く。


「叶えてくれた願いが私の思っていたものとは違ったの。私は誰かの命を奪いたいなんて願っていないわ」


 アリシアは訴えたがリュカは首を傾げた。


「どうして?嫌いな人はいない方がいいでしょ?ぜーんぶ消しちゃえばいいんだよ」


「そんな風に世の中は単純じゃないのよ…」


 アリシアはため息をつく。不意にリュカが低い笑い声を立てた。学院長とウォードが身構えるのが分かった。


「あぁ…かわいそうなリュカよ。お前は何も間違ってはいないというのに」


 低い声で囁きながら右手が頭を撫でる。


「師匠!どこに行ってたの?寂しかったよ」


 リュカは急に甘えたような声を出した。


「少々野暮用でな…七歳児に寄って集って…西は実に怖い場所だな。こんな所に閉じ込めて…」


 リュカの中のもう一人が答える。リュカは別人格と会話していた。自分自身で身体を抱くようにして右手がリュカを慈しむように愛撫する。リュカは目を閉じて微笑みを浮かべた。


「ふん、何とも不気味な光景だな」


 ブリジットが唇を歪める。ジュディスは何かを思い出そうとするかのように額を押さえた。右手の動きが不快だ。なぜこんなにも不快なのか。


「だが…残念ながら…お前はもう用済みだ」


 唐突にゾッとする気配に襲われ身の毛がよだつ。


「みんな!!伏せろ!!」


 ジュディスが監視室の音声を解放して大声で叫ぶのと、視界が白く光るのはほぼ同時だった。振動と共に爆発音が響き何も見えなくなった。


 その場にいた全員が瞬間移動でリュカのいた沈黙の間の前に移動する。何も見えない。


「フレディ!!」


「ウォード先生!アリシア!?」


 崩れた壁と天井。煙の合間にあちこちに飛び散った血が見えた。ジュディスとレイは瓦礫を魔力で持ち上げる。フロレンティーナが突入した。


「…ここ…だ…」


 フレディの声が聞こえて避けた瓦礫の中で防御の魔力を張ったフレディが姿を現した。額が切れており顔面が血だらけだ。肩にも大きな破片が刺さって出血していた。フロレンティーナが破片を抜くと同時に止血し傷口に癒しの力を送る。額の傷も反対の手で止血した。


「私より…ウォードを」


 アリシアを庇ったウォードの背中には無数の破片が突き刺さっていた。アリシアも腕を怪我していたが二人よりは軽傷だった。呆然としている。


「ケイレブ!」


 ジュディスが背中の破片を魔力で抜き取る。レイがアリシアの怪我を癒す。


「リュカはどうなった?」


 辺りを警戒していたブリジットが戻ってきてフレディに問う。


「…頭から爆発した…ジュディスが叫ばなければ…全員上半身が吹き飛んでいたかもしれない…」


「ケイレブ…大丈夫か?」


 ジュディスは背中の傷を見るのに服を破っていた。が程なくして首を傾げた。


「もしかして…蔦の種を…飲んでいたのか?」


「はい…最初にできた種を…。お嬢…背中が…何だか変な感じです…モゾモゾする…」


 ウォードが力なく笑う。刺さった破片の量の割には出血が少ないと思ったら、ウォードの背中には白っぽい蔦が渦巻いていた。中の一本がジュディスの掌にじゃれつくように絡んでくる。


「随分と人懐こいな」


「…親だって…分かってるんじゃないですか?」


 起き上がったアリシアが不思議そうにウォードの背中を見た。


 ジュディスはウォードの蔦を指先に巻き付かせながらも不意にフレディを見上げた。その瞳に浮かぶ動揺の色にフレディは嫌な予感がした。


「…あいつは…まだ…完全に…死んでいなかったのか?器を乗り替える術は…完成していなかったはずなのに…」


「あいつ…?」


 レイはジュディスの不安を感じ取ってその手を握る。ジュディスは慌てて立ち上がる。


「屋敷に戻らないと…!」


 ジュディスの焦りに尋常ではないものを感じ取り、レイはそのまま瞬間移動する。残された面々も後に続いた。



***



 一方、外にいたブラッドウッドは沈黙の間から響いた爆発音に慌てて中へ突入しようとしたが、凄まじいスピードで身体の中を一瞬何かが通り抜けたのが分かった。あまりにも禍々しい気配に当てられブラッドウッドはその場に崩れ落ちる。やっとのことで起き上がって気配の去った方を見る。その気配はレイの屋敷の方に向かっていた。


「ブラッドウッド先生!大丈夫ですか?」


 上空でアリシアの声がした。隣でレイが手を伸ばしていたので反射的にその手を掴む。


「行くよ!」


 レイの声が聞こえてブラッドウッドは一緒に瞬間移動した。



***



 同じ頃、レイの屋敷の庭にいたクレメンスとベアトリスは爆発音を耳にした。クレメンスが慌てて立ち上がる。厨房から異変に気付いたアマロックが外に出てきた。


「なんだ!?爆発か?」


「沈黙の間の方です…」


 その時だった。クレメンスはその方向から何かとても嫌な気配が近付いてくるのを感じた。


「ボサッとするでない!」


 屋敷の二階から突然シリルが降ってきて三人はギョッとする。


「五十八番!おぬしもとっとと蔦を出せ!」


 言いながらもシリルは瞬時に蔦を出してその場にいる三人を覆う。嫌な気配が衝撃と共にぶつかりシリルは顔をしかめた。黒い瘴気まみれの蔦の中には青白い大きな蔦が一本、まだ細い淡い紫の蔦が三本紛れていた。アマロックの掌からも黒い蔦が飛び出してきた。


「おや、あれは種などなかったハズじゃが…得をしたな。ようやく出たか、五十八番。遅いぞ。その蔦でベアトリスの魔力中枢を覆い隠せ。ベアトリスは種も実も取り込んではいないであろう?憑かれるかもしれん」


 言われるがままに、アマロックは魔力中枢付近を蔦でぐるぐる巻きにする。そのときだった。別の場所で誰かの悲鳴が聞こえた。


「誰か来てっ!!ああっ!ブルーノ!!」


「なんじゃ?まさか…!」


 シリルが慌てる。

 アマロックが何か言いかけたがシリルが制した。


「説明は後だ!こちらは任せたぞ。我が行く!」


 シリルが視界から消える。


「あ…」


 遅れてクレメンスは魔力中枢付近に違和感を覚えた。何かが腕の中を這い上がってくる。未知の感覚だった。掌を開くとクレメンスの指先からも淡く光る薄紫の小さな蔦が顔を覗かせていた。

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