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呪いと祝福の子らは女神の掌で踊る〜南からの使者〜  作者: 樹弦


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精霊との対話

 翌朝ジュディスは早朝に目が覚めた。喉が渇いて枕元にあった小瓶を手に取る。レイの魔術で保管されていてよく冷えたままだった。ゴクゴクと飲んでいると隣で眠っていたレイが身動ぎした。


「おはよ…ジュディス」


 言いながらも眠そうにジュディスの腰に手を回す。左腕の花は咲き終わって種を作り始めていた。右肩の種も膨らんでいたがまだ完全に熟してはいない。魔石が切れてから昨夜フロレンティーナに魔力を流してもらった。今日も流してもらう予定だ。左腕が重かったので再び横になってレイに右腕を回すと、目が開いた。


「ジュディス…体調は?」


「左腕がすごく重い…でも、それ以外は平気だ」


 レイはそっと左腕に巻き付く蔦に触れる。何を思ったのかレイは指先から蔦を伸ばしてジュディスの蔦に同化させた。種が少し膨らむ。


「レイ?何してるんだ?」


「フロレンティーナが最初の種にやってたやつ…何となく出来そうだなって」


 種は更に膨らみ次第に色付き始める。レイは更に集中して魔力を種のみに集中させる。緑から赤っぽく変化した。


「はぁぁ…疲れた。ダメだ最後まではいかなかった」


 レイは息を吐く。頭がクラクラした。ジュディスはレイの頭を撫でた。


「そろそろ起きようかと思ったけど…もう少し寝るか…」


「うん…まだ早いし、魔力を流したら疲れたよ…」


 二人は仲良く向かい合って手を握ると再び目を閉じた。



***



 二度寝してやや寝坊した二人が階下に降りると朝食の準備がすでに整っていた。学院長がいち早く気付いてジュディスのおでこに手を当てる。


「…微熱かな?無理はするなよ?」


「…平気だよ…種の方も順調。それより、昨日レイが連れてきた精霊は?」


「庭にいるよ、エルデ?」


 テラスからレイが庭に呼びかけるとファラーシャと同じくらいの大きさに変わったエルデが姿を現した。


「おはようございます。主さま。奥方さまも、おはようございます」


「奥方?」


 ジュディスがきょとんとして笑い出す。


「婚約者だ。まだ奥方ではない」


「昨日も同じこと言ったんだけどね」


 レイが苦笑する。


「お二人の気配が程よく混ざっております故…私にはそのように見えるのです。奥方さまも同然ではありませぬか」


 エルデが笑う。頭の葉が揺れた。レイとジュディスは思わず顔を見合わせる。


「エルデは…この庭に夜光カタツムリを放したら、他の精霊も呼べるかな?」


 ジュディスが問うとエルデは頷いた。


「私がおらずとも夜光カタツムリとお二人の気配があればすぐに皆目覚めますよ。私の力は…少し…広範囲に呼びかけられる程度です」


「少しってどのくらい?」


 エルデは首をひねる。


「この国の中ならば…隣国との境の魔力の壁を越えるのはちと難しいですな」


「それ…全然少しじゃないよ」


 レイが呆れたように言う。精霊の感覚は分からない。


「なるほど。ひとまずはこの学院内の精霊に呼びかけをお願いしようか、レイ?」


「そうだね、じゃあ夜光カタツムリを放したらお願いするね」


 レイの言葉にエルデは頷くと再び地中に潜る。頭の葉の部分だけ出ているので小さな植木が増えたように見えた。ただし気まぐれに移動する植木だったが。



***



 セオは眠りの中にいた。そろそろ起きなくてはと思いつつもふかふかな布団に包まって惰眠を貪っていた。


「もう…お寝坊さんなんだから」


 小さな声が聞こえて、セオは驚いて飛び起きる。


「えっ…?夢?」


 辺りを見回すが誰もいない。カーテンの閉まった部屋の中でほのかに夜光カタツムリが光っているだけだ。


「夢じゃないわよ。こっちよこっち!」


 間違いない。夜光カタツムリの飼育ケースから声がする。セオは慌てて駆け寄った。


「おはよ!セオ」


 殻の中から人の顔が覗いている。小さな手が光りながら揺れる。


「ジュディスの蔦を齧ったら形が変わっちゃったわ。でもこうしてお喋りもできて嬉しい。私のことは…そうね、アイリスとでも呼んで」


「よ、よろしく…アイリス」


 セオが恐る恐る指先を差し出すと、少し体温の低い小さなしっとりした手がちょこんと触れた。



***



「ジュディスさんっ…!たっ、大変ですっ!」


 まろぶように部屋から飛び出てきたセオは大広間にいた面々に注目されて真っ赤になる。


「おっ、おはようございます!」


 先に起きて食事をしていたアリシアがセオもいたことに驚いて目を見張る。


「あ…アリシア…元に…戻ったんだね…」


 セオはホッとしたような顔をしたが、アリシアは困ったように首を振った。


「ごめんなさい、セオ。あなたには酷いことをしたわ…嫌だったでしょ…でも…これが私だから。理解して欲しいとは言わないけれど、私、今後は血の提供を受けることになったの。私には魔族の血が入っているから…それを認めて受け入れることにしたのよ…」


 セオはアリシアに突然襲われて首を噛まれた日のことを思い出していた。最初はセシリアだと思った。生徒会執行部の会議室にいたからだ。けれども違った。振り返ったのは双子の妹の方だった。


「魔族の血…それで…。そうだったのか…。僕こそ…セシリアと間違えてしまって…ごめん」


「謝らないで。わざとそう思われるようにしたんだから…あれは私が悪いのよ」


 アリシアは吹っ切れたように微笑んだ。


「あなたも、早くセシリアに自分の気持ちを伝えないとダメよ?自信を持って」


 朝から少女姿に変身していたブリジットはなるほど、とセオをチラ見して上品に微笑む。そういうことか。


「そういえばセシリアから朝遣い鳥が来ていたな。妹に会いに来ると。さっきジュディスの名前を叫んでいたが何かあったのかな?」


 ブリジットの言葉にセオは、ああっ!と叫んで、テラスの方で話しているジュディスの姿を見つけると再び走り出した。途中何かに足を取られ転びそうになる。


「もう、セオったら朝から慌ただしいわねぇ」


 アリシアが苦笑する。ウォードと一緒に話していたブラッドウッドがちらりとアリシアを見て微笑んだのをブリジットは面白そうに見る。


(血の提供者ねぇ…)


 上位の魔族が下位の魔族に血を与えると自然と親愛の情を抱くようになる。親が半魔の場合その血はどの程度影響を及ぼすのかは分からない。分からないからこそ、純粋に興味はあった。


(ここにいると退屈しないな)


 優雅に紅茶を飲みながらブリジットは微笑んだ。

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