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呪いと祝福の子らは女神の掌で踊る〜南からの使者〜  作者: 樹弦


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生徒会執行部

 生徒会長のセシリアに連れられたブリジットは、生徒会執行部の会議室と思われる部屋に案内されたところだった。


「私は、あなたのように身内の口添えで転入してくる子が一番嫌いなの。でも学院長の推薦で入ってくる子は今のところ皆優秀だから目をつぶってる。あなたもそうだといいのだけど」


「…まるでそうじゃない転入生がいたかのような口振りですね」


 ブリジットの言葉にセシリアは銀縁の眼鏡をくいっと指先で上げた。


「…以前、占学の助教授が推薦してきた子は最悪だったわ。物覚えも悪い上に研究棟を誤爆したの。学業に支障をきたす事故を起こす子は迷惑よ」


 なかなかの辛口だ。だが分からなくもない。入学資格を得るために貴族や裕福な商家などは家庭教師を付けるほどだ。


「ねぇあなた、ロウ公爵家なら、中等部の次の会長にジュディス嬢が立候補しないかどうか、声を掛けてくれないかしら?今の子も悪くはないのだけど、覇気がないのよ」


 確かにジュディスは覇気の塊のような存在だが、こういったものには向いていない気がする、とブリジットは思った。


「声は掛けますが、果たしてあの子に向いているかどうか…。ところで、どうして今まで副会長は空席のままなんですか?」


 ブリジットの言葉にセシリアは眉を僅かに動かした。小さなため息をつく。


「学院長って肝心なことは話していないのね。先の選挙で選ばれたのはダリル・マクミランだったのだけど、派手に遊んでばかりで生徒会の仕事を放置していたのよ。彼が欲しかったのは副会長の肩書だけだった。その彼が病死して、その後選挙で選ばれた子もまた似たような子が入ってきた。そして三度目の選挙で入ってきた子も…分かる?要するに女の尻しか追いかけないような能無しが三人続き。いい加減飽き飽きしてるのよ」


 真面目な才女のような仏頂面の口から女の尻という言葉が飛び出したことにブリジットは思わず低く笑ってしまった。


「ひょっとして…能無しを寄せ付ける何かが生徒会には存在している、そういうことですか?」


 セシリアはブリジットを振り返り僅かに目を見開いた。


「…その眼鏡を取ったら、会長も相当な美人だと思いますけど?」


 ブリジットが言うとセシリアは急に頬を赤らめて動揺を隠すかのように顔の前で手を振った。


「止めてちょうだい。あなたって見かけよりずっと危ない子なのね。とりあえず…先程招集をかけたから、そのうち皆集まるわ。見れば分かるわよ。ちなみに今日のところは高等部のみ招集したわ」



***



「書記のロージーです」


「同じく書記のポピーです」


 一番最初に現れた少女二人を見てブリジットは、そのうちの一人が先ほど記憶を読んだばかりの少女だと気付いて驚いた。ロージーの方も驚いている。


「あの…さっきは、ありがとう。私貧血で倒れたみたいで、彼女に助けて貰ったんです」


 ロージーはブリジットの顔を見てホッとしたような顔になった。


「ブリジットよ。今日から副会長のお試し期間に入るわ」


「なるほど…この子がケイトリンの抑止力って訳ですか?」


 ポピーが意味ありげな笑みを浮かべる。ポピーは灰褐色の髪に空色の瞳をした少女だった。見た目は地味で大人しそうだが、発言からするとそうでもないのかもしれない。程なくして扉が開いた。


「間に合ったかしら?何なのよ急に呼び出されると迷惑なのよ」


 入ってきた少女は金髪碧眼で強気な顔立ちの美人だった。しかも二人の青年と共に現れる。


「部外者は外で待たせて」


 セシリアの言葉を無視して青年らと共に会議室に入ってきた少女はソファーの中央に座る。両脇に青年を侍らせて女王の如く足を組んだ。よく発達した身体だ。豊満な胸に細くくびれた腰。悪くない。男性目線で観察していたブリジットは我に返る。ケイトリン。なるほど、これがそうか。


「あなた誰?」


 ブリジットを上から下までじろじろと見て少女は口を開いた。


「ブリジット・ロウです。本日より副会長のお試し期間に入ります」


 ケイトリンの両脇の青年が僅かに驚いた表情を自分に向けるのが分かった。ブリジットはわざとにっこりと微笑む。ケイトリンがどれほどの場数を踏んでいるのかは知らないが、ブリジットはこの身体を利用しながら彼女の倍以上の年月を生きている。フロレンティーナの魔力で久々に若返って気分も良かった。


「…へぇ。ブリジット・ロウ…何日持つかしらね?顔合わせだけなら私はもう行くわよ。魔力交換会があるから。私は会計のケイトリン。セシリア、他に用があるなら次は遣い鳥にして」


 嵐のようにケイトリンは去ってゆく。二人の青年のうちの一人がチラリとブリジットを振り返ったので今度はわざと蔑むような視線を送った。


(他人の所有物に用はないのよ)


 心の中で呟いて相手にぶつける。彼らと入れ違いでバタバタと走ってきた青年は息を切らしながら言った。


「遅れて申し訳ありません!会計のセオです」


 ずり落ちた眼鏡を上げる。そばかすのある頬には何かに引っ掻かれたような傷が出来ていた。癖のある赤毛には何故か蜘蛛の巣まで絡まっている。


「セオ…あなたどうしたの?どこを通ってきたらこんなになるのよ?」


 セシリアは呆れたような口調で言いながら魔力でセオの身体を綺麗にして、頬の傷を消した。驚くほど早い。無駄のない動きにブリジットは思わず見惚れた。


「いつもすみません…」


 言いながらもセオはブリジットの姿に気付き僅かに怯えたような表情を浮かべた。


「ブリジットです。これから副会長のお試し期間に入るので、よろしくお願いします」


 ブリジットが頭を下げると、セオは急に表情を取り繕うようにニコリと笑った。わざとらしいと思ったがブリジットは気づかないふりをした。



***

 


 セシリアに副会長の仕事内容の説明を受け、少し実際に各委員会への連絡作業を行うと、ブリジットの物覚えの早さにセシリアは驚いた顔をした。が、ブリジットは出来て当然でもあった。何故なら退学に追い込まれる前のブリジットは会長を経験している。概ね内容は変わってはおらず、昔よりも煩雑な手続きが簡略化されて楽になった印象だった。

 セシリアと別れる頃にはすっかり夕方になっていた。ブリジットが歩いているとおかしな場所が遮断されているのに気付いた。学生の張る遮断などたかが知れている。俄然興味が出てブリジットは自らを遮断し気配を絶って近付いた。


「…たったこれしか持ち出せないの?何のためにあんたを会計にしたのよ」


 尖った少女の声が聞こえた。


「もう…無理ですよ。こんなこと…会長にだって疑われる…」


 震える青年の声が答える。


「へぇ。じゃあまた底辺に戻りたいの?服従させられるより酷い扱いを受けて犬としての無様な姿を晒す?」


 会話を記録してブリジットは気配を消したまま遠ざかる。周囲に誰もいないのを確認して遮断を解いた。


(なかなかに…面白いな。会計処理の不正も調べる必要が出てきたな)


 ブリジットが考えながら歩いていると人気のない中庭に微かな気配を感じた。よほど感覚が鋭敏でない限りは気付かないような。誰かが入念に遮断している。再び気配を消して近付こうとしたが、ブリジットは途中で誰の遮断なのか分かってしまった。


「…レイ、バレてるぞ」


 ブリジットは隣のベンチに座ると声を掛けた。さすがに覗くのは止めた。


「ちょっと…ジュディス…!」


 僅かに焦るレイの声が微かに聞こえた。しばらくの沈黙の後に遮断は解けてしまったが、レイはジュディスに上から抱きつかれたまま、ベンチに横たわりぐったりしていた。ブリジットは上から顔を覗き込む。


「大丈夫か?」


「これが大丈夫に見えます?師匠…皮肉ですか?」


「皮肉ではあるが…今回はたまたま通り掛かっただけだ」


 レイに抱きついていたジュディスはようやくレイの首から顔を離す。僅かに上気した顔がやけに蠱惑的で、ブリジットまでドキリとした。ジュディスは唇の横についた血をぺろりと舐める。レイの首筋に流れた血を丹念に舐め取り牙を立てた傷口に唇で蓋をした。唇を離すとごく小さな魔法陣が出現する。ジュディスはそこでようやく隣に座ったブリジットを認識したようだった。


「あぁ…ブリジット…竜の火種が…取れなくなってしまって…」


 ジュディスはレイを起き上がらせてため息をついた。乱れた髪をかき上げる。その仕草すら妙に艶っぽい。


「フロレンティーナに借りたら、たった一晩でジュディスの魔力中枢に同化しちゃったんだよ…すごい吸収力。で、見ての通り…」


 いつもは素っ気ないくらいのジュディスがレイにぴたりとくっついている。今日は随分と少女らしい格好で更に可愛らしい。


「ふぅん?続けても構わないぞ?実に目の保養になる」


 ブリジットはニヤニヤしながらベンチ二つ分を遮断した。


「魔力を分ければ治まるのか?見たところレイはもう限界だろう?まだ食いたいならやるぞ?」


 ブリジットが言うとジュディスはためらいながらもブリジットが伸ばした掌に自分の手を重ねた。そのままブリジットはその手を引いてジュディスを自分の隣に座らせた。


「ちょっと…師匠…」


 レイは僅かに抗議の声を上げたがもう動けず、ブリジットはジュディスの腰に手を回してすでに魔力中枢に触れていた。


「食わせてやるんだから、少しくらいは楽しませろ」


 ブリジットはわざとジュディスに密着して低く笑う。細い腰だ。ジュディスは魔力中枢に触れたその手をゆっくり引き剥がして、ブリジットの手を握り直した。


「…そこは、触れちゃダメ…」


 両手の細い指がブリジットの指に絡まる。魔力を流すと小さな吐息が漏れた。


「少しは慣れろ。お前は綺麗な部分だけレイに見せたいのか?そんなに人は綺麗な生き物じゃない。欲望に塗れた汚い部分もさらけ出したってレイは逃げないぞ?何を怖がってるんだ?」


 ジュディスは僅かに目を開ける。猫のようだ。紫と濃い緑の瞳が苦しげにブリジットを見つめる。そんな表情すら美しい。


「ブリジットは…全てを…晒しても怖くないのか?」


 細い指先をなぞるように自らの指を絡め直し、ブリジットは僅かに笑った。


「相手の汚い部分も全て丸ごと私は暴くからな…お前もレイの中身をひっくり返して全部覗いてしまえばいい。それで相手が尻込みして逃げるようなら…そのときは諦めて、私の元に来るといい」


「師匠…本人が真横にいるのに口説かないでよ…」


 ベンチの背もたれに寄りかかったまま、レイは横目で軽く睨む。


「じゃあ二人一緒にロウの家に来るか?アドリアーナも喜ぶぞ。なるほど…これがフロレンティーナの火種の効果か…アドリアーナとはまた違うな」


 ブリジットは主導権を渡さないよう慎重に繋いだ手から魔力を流した。これは確かにレイにはまだ制御が難しいかもしれない。油断すると理性が飛んで吸い尽くされそうだ。ジュディスの掌から淡く輝く蔦が溢れ出す。ジュディスは慌てて引っ込めた。


「もう一度見せてみろ。綺麗じゃないか」


 しばらくしておずおずと遠慮がちに糸のように細い蔦が一本だけ出てするするとブリジットの腕に絡まった。


「くすぐったいな」


 ブリジットは楽しそうに含み笑いを漏らす。何事も初めての経験は新鮮だ。


「レイも持ってるのか?」


「持ってるよ…でも今は出せるほど魔力が残ってない…」


 レイは傍らのジュディスと実に楽しそうなブリジットの横顔を見ながら羨ましげに呟いた。

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