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6話


私の旦那様は秘密が多いみたいね~。本当地獄におちればいい。


「え、知ってたんじゃ……」


「ねぇ、さっきのもう一回言ってくれる?」


「はい!いえ、何も言ってないかと……」


だらだら汗流しながら何を言っているのか。

誤魔化せると思っているの?馬鹿じゃないの?

思わず秋斗の胸倉を掴み、逸らされた瞳を覗き込む。

品がないとかどうでもいい。


「3人って言った?ねぇ?聞こえてる?頭大丈夫そう?」


「ご、誤解で」


「へぇー、何が誤解なのかしっかり教えてくれる?」


「ごめんなさい……3人と浮気してた」


秋斗はもう誤魔化せないと悟ったのか視線を下にしながらぽそりと答えた。

これ以上、この人を幻滅する余地があるとは思わないだろう。

好きとか思い出とか興味だけじゃない、嫌悪も恨みも秋斗に向けた感情全てがすっぱりと消え失せた。

こんなものに時間をかけていることすら無駄に感じられてきて。

掴んでいた胸倉を離し、冷めた声で突き放す。


「あなたって本当に気持ち悪いのね」


「もう浮気しないから!本当だからっ」


「笑わせないで、どうやってあなたを信じろっていうの?」


言葉が届かないことを理解したのか手を握り締めて、下を向いた秋斗にはっきりと言った。

なんでこの人を愛せていたのだろう。本当に不思議な気分だった。


「あなたと話もしたくない。もう二度と話しかけないで」


あの離婚を切り出した日よりも重たい空気が広がる。

関係にヒビが入ったどころではない、完全に終わった。誰が見たって理解できるだろう。

もう私たちに情も何もない。赤の他人に戻った。






あれから空気は最悪だったが、顔を合わせることがなくなったのは不幸中の幸いなのか。

私は通常よりも朝早く家をでて、秋斗は深夜まで帰ってこない。

今秋斗が何をしているかも知らない。浮気相手の所に言っているのかもしれないが、どうでもいい。

さっさと家を出ていきたい。通勤を考えると賃貸やウィークリーマンションの空きがでるまで待ちたいが、そんな状況ではないだろう。

少し遠くでもいいから探す範囲を広げて、そうすれば見つかるかもしれない。

でも、この体調で引っ越しなどできるだろうか。


いつからか私は上手く眠れなくなった。

暗い部屋でぼーっと天井を見つめるだけの無意味な時間を過ごしていた。

そのせいか、いつも頭は重くて、頭痛がして気持ち悪いくて、体は思うように動かせない。

そんな状態で食事なんて上手くできるわけもなくて、どんどん食事量も減っていった。

仕事をしているとき以外は常に思考はぼんやりとしている。


「ぁっ、す、すみませんっ」


だからか、通勤中に駅で女性にぶつかり、盛大に荷物をぶちまけてしまう。

いくら時間が早いとはいえ、人は多いので、焦りながら鞄に物を戻していく。

ぼんやりとしていた意識が恥ずかしさと申し訳なさで一気に覚醒する。


「すみません、こちらもよそ見をしていて」


優しい女性だったのか、一緒にしゃがんでは荷物を拾うのを手伝ってくれた。

その女性は綺麗な長い黒髪をしていた。

あの女の子と似ている髪型でとっても綺麗な女性。

上品な女性らしさがある人。

こんな女性があの人の本当の好みだったのかな。


「あの、どうかしましたか?」


「あっ、いえ、すみません、ぼーっとしていました。拾うのを手伝ってくれてありがとうございます」


「いえ、こちらこそすみませんでした」


不躾に顔を眺めているのは流石に不審者すぎると荷物を拾うことに意識を戻す。

いつの間にか荷物は拾い終わっていたので、お礼をいい、慌ててその場を離れる。

長い黒髪の女性を意識しすぎているのがバツが悪くて、不自然だっただろうが致し方ない。

あの人の好みなんてものを考えている思考からも逃げるようだった。





騒がしい朝の駅。

一仕事終えた私は壁際でスマホを触る。

あの女に会うためだけに早く家をでて、わざとぶつかってみたが警戒心がないのか思いの他上手くいった。

彼があの女を大切に思うからこそ隠していた私のこと。

それが裏目にでるとは思いもよらないだろう。

私のスマホの画面には地図と表示される赤い点。

先ほどの荷物を拾ったときに忍ばせた発信器と盗聴器が正常に作動してる証拠。

これであの女も私の手中にある。


「はぁー、あの女のどこがいいんだろ」







最近、俺の隣の席の同期が死にかけている。植物でいうとカラカラに枯れていて生命力を感じない。

あの全方向パーフェクトとみたいな神崎秋斗が。

見た目もさることながら中身も頭脳も完璧。

こいつが関わる仕事は大抵大成功を納めるし、人当たりもよく周りを見るおかげで、老若男女問わず人気度が凄い。

そのせいで部署内どころか、会社全体でざわつくレベルの大事になっている。

俺は仲がいいからかこっそりと上司たちに呼び出されて「神崎くん何かあったの?」と事情聴取を受けている。学校かよ。

流石に事情は聞いていないので、「何かあったんすかね~」っと流しているが、俺は知っている。

この男が十中八九といわず100%の確率でおかしくなるのは嫁の奈津さん絡みだ。

ここ最近愛妻弁当もないみたいなので外れてはいないだろう。


「……神崎、飲みに行くか?あー、俺でよければ相談にのる」


こっちを向いた神崎の目の下のクマがやばい。お前、なんでその状態でダウナーな雰囲気だせるんだよ、バグか?


「高坂、相談にのってほしい」


「おう、じゃあ今日は早めに切り上げるか」


「何時でもいい、奥さん、僕に会いたくないみたいだから……」


「お、おぅ」


大分やばいことになってそうなのは伝わった。




ガヤガヤと賑やかな店内。定番の大衆居酒屋でビールと焼き鳥は外れがない。

いやー、それにしても俺で相談にのれる内容だろうか。

話を切り出した瞬間からガチ泣きしている同期に流石に胃が痛い。

店員すらすげー気まずそうに皿を運んでくるので申し訳ない。


「お前、食わねーの」

「最近食欲ない」

「場所、居酒屋でよかったか?」

「うん、なんで高坂の食べたいところにしてもらった」

「そうか、で、何があったんだよ」

「……奈津に離婚切り出された」

「はぁ?お前が!?なんでだよ!」


リアクションがでかいが大袈裟ではない。

がちで予想外すぎた。

奥さんの奈津さんにも俺と家内で何度か会ったことがあるが、同期をとても愛していたことを知っている。

惚れているっていうか愛しているっていう言葉がしっくりくるほどに大切にしていた。

まぁ、それは目の前の同期もだが。

この夫婦に離婚という概念があったことに驚きだった。


「……浮気した」

「どけ座して慰謝料払って離婚してやれ」


前言撤回。さっさと離婚やればいいと思う。そりゃあ冷められるわ。


「本当に反省してるんだ、離婚したくない」

「俺に言ったてどうしようもないだろ」

「君の奥さんにどうしたら許す気になるか聞いてくれないか」

「聞いてみるは聞いてみるが、うちの嫁なら「許さん」って答えると思うぜ?」

「うぐ、そこをなんとか」

「わかった、帰って聞いてみるから、落ち着け」


死刑台にたったくらいに顔色が悪いのが心配で「無駄」と突っぱねることはできなかった。

正直、こいつ自殺するんじゃねーのかって疑念をはらせないほどには酷い状態なのは明らかで。

浮気する方が悪いのは悪いが、こいつがする理由が正直検討がつかない。

だって、奈津さんに負けじと同期が愛していたことを知っていたから。

愛していて、恐らくだが執着もしていて、生きる意味として奈津さんが必要だったようにみえていた。


「お前、奈津さんにぞっこんだったと思ったんだけどな」

「勿論だよ」

「即答かよ、ならなんで浮気すんだよ」

「……一点集中させて耐え切れなくなったらどうするんだよ」


同期はそう言って窓の暗い外に視線を映した。何か遠くをみるように。


「そういうもんかね」


上手いところに落ち着けばいいと願うくらいしか俺にはできなかった。


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