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5話


色々ありすぎてエブリデイ絶望!って感じであったが、今日はちょっぴりご機嫌な日。好きなブランドのバッグ効果は凄まじい。

足取りがなんだか軽やか。

まぁ、だからといって今までの傷が癒えたかというと別物である。

こんな風にまだじゅくじゅくと痛む傷をえぐられたらバッグのことなどどうでもよくなってしまう。


「こんにちは、秋斗さんの奥さんですよね」


可愛らしい女の子が仕事帰りの帰り道で声をかけてきた。

あの動画にでてくる”綾”という子にそっくりな女の子。

朝いいことがあったのは神様がこの後嫌なことあるからと先にくれたご褒美だったのかもしれない。





「そうです、秋斗の妻の奈津です。あなたは手紙をくれた綾さんですか?」


私より幾分か小柄なこの子は小動物のようで庇護欲をかきたてる。

黒髪ロングという同じ髪型であるのにこも印象が変わるのかと思うほど可愛らしくて。ピンクのスカートがよく似合っている。

ただでさえ自信をなくしている今、甘やかな香りを漂わせて、微笑んているだけで絵になるこの子に負けていると感じてしまい、何だか打ちのめされた気持ちになる。


「そうです!やっと気がついてくれたんですね!秋斗の”未来の奥さん”の綾です」


やっぱりこいつ、いい性格しているな。思わず目が死ぬ。

見た目に可愛さを全振りしたタイプ、見た目に関して勝ち目はないと思うが、性格については流石にここまで悪くないと思えた。

ありがとう、かなり過激な治療方法だけど気持ちは少し楽になりました。

うん、何か調子乗ってぼろ出してくれそうだし、スマホで録音だけでもしておくかとメッセージ確認をするふりをして、堂々と目の前で録音をしだす。


「あの、何の用でしょうか」


「あはは、こうしてあなたのことしっかり見るのは初めてですけど、そんな見た目で秋斗さんの横に立って恥ずかくないんですかぁ?」


「いや、なんの用か聞いているんですけど」


突然の悪口。やっぱり私こいつよりはまともな性格してる!

横に立っても恥ずかしくないよ。だって美術品の横に何が立っていても皆美術品しか見ないもん。

以外とスマホで録音しても気がつかないものだな。私に露程興味がないからかもしれないが。


「え~、察し悪いですねぇ、さっさと離婚してくれません?」


「します、しますよ、でも秋斗が離婚届にサインしてくれないんですよ」


「……は?」


「いや、昨日から離婚!って言っているんですけど、駄々こねられていて……」


「妄想と現実も区別できない訳?」


「全部現実なんですよね、これが」


「あのさぁ、そんなに意気揚々としているけど、現実理解した方がいいよ?秋斗さんは綾と結婚するの。どれだけ私が愛してるって言われたと思うの?」


その瞬間、視界が黒く塗りつぶされる。

分かっていたはずなのに、この女の子と家で浮気をしていたことくらいもう知っているのに。

頭がぐらぐらとして吐き気まで催してきた。気持ち悪さから脂汗が額に滲む。

この子は私が傷ついていることを理解したのだろう。

可愛いらしい顔はいびつなほどに歪んだ。まさに愉悦という表情。

私の顔が歪むのを楽しみながら、じゅくじゅくと膿んだ傷口にナイフを何度も突き刺してえぐっていく。

こんなの人間じゃない、悪魔だろ。


「私が一番って、私が世界一って、可愛い、愛してるって何度も愛しながら伝えてくれるの」


「秋斗さん、本当に王子様みたいで、あんなに丁寧にえっちしてくれる男の人初めて」


「手付きも優しくて、壊れ物を扱うみたいに綾に触ってくれるの」


頬を染めて両手を頬にあてる姿は本当に恋する乙女。

まるで場違いにも友達と恋バナに花を咲かせていると錯覚しそうなほど。

でも、ふと表情を一変させて私を蔑むように見てくる。


「秋斗さんに飽きられいること知らないの?もう女として見られないって」


「可愛げもなくて、つまらなくて、家で一緒にいるのもストレスだって苦しんでいるの」


「私たち付き合ってもう2年なの。結婚するには丁度いいでしょ」


「だから秋斗さんを解放してあげて?おばさん?」


「じゃあ、早く離婚してね!綾と秋斗さんの結婚式には招待してあげるから!」


言いたいことを全部言えて気が済んだのか彼女は軽やかに身をひるがえした。

ピンクのスカートが可憐に靡かせて、力なく座り込む私に満面の笑みを浮かべて手を振った。


「2年も裏切られていたんだ……」


人目のある外に関わらず、私はぼろぼろと涙をこぼし、アスファルトの色が変わっていくのをぼんやりと眺めた。








人通りが増えたあの通りにいつまでも座っていることもできず、みっともなく涙を拭いながら家へと早足で帰った。

頭の中で考えることはただ一つ、おかしいと思った。

不公平だ、こんなの。ただそれだけが、ずっとグルグルと繰り返される。

被害者である私だけが一方的に傷ついて、悪いことをした2人だけが幸せに生きている。

離婚はする、絶対にする。

でも、それだけじゃなくて秋斗に傷ついてほしい。

私と同じように、私以上に傷ついて、苦しんで、地獄におちて。


ふと視界に入った店のガラス窓に映った私は酷く醜くみえた。

いつからこうなってしまったのだろう。





「今日、あなたの浮気相手の綾さんに声かけられちゃった。とっても可愛らしい子ね」


お手本のように飲んでいたお茶でむせる秋斗。

諸悪の根源は秋斗なので、気をつかう必要もあるまい。


「げほっ、けほっ、なん、え、なんで!」


「ごめんなさいね、可愛らしくなくて、ああいう子がタイプだって知らなかったの」


「まっ、え、待って、ちがくて」


居心地が悪い?尋問されているようでいや?

あなた、こんな風に問い詰められたこともないものね。

あらあら、冷や汗までかいて、顔色も悪い。

ねぇ、”私”にこんな風に責められるのは嫌?苦しい?辛い?

じっと座っている秋斗を見下ろした。


「奈津、本当にごめん」


秋斗は綺麗な顔を歪ませて、泣きそうになっていた。

”私の言葉”で苦しむ秋斗がこうも心を落ち着かせてくれる。

秋斗の不幸は甘い甘い蜜をなめているようだ。


「あなたはとっても素敵な人なんだって、惚気られちゃった」


「はぁ!?」


「はぁ?はこっちなんだけど。私、あなたと綾さんの結婚式に招待してもらえるみたい」


「何言ってるの!あの子!」


「誰のせいなの?」


「っ~~、ごめんなさい」


この人はどんなつもりなのだろうか。

私と離婚したいの?したいくないの?

離婚することは決まっているけど、あなたの本心が知りたい。

そうしないとあなたを傷つけられないでしょ。

あぁ、もしかしたらどっちだっていいのかもしれない。

私でもあの女でも何だっていい。

興味すらないのかも。

離婚が嫌なのだって、世間体とか慰謝料、面倒なだけなのかしら。

この人にとってこの騒動は何の傷にもならないくらいどうでもいいこと。

でも、それじゃダメなの、あなたの大切なものを教えてよ。


「私の悪口もとっても正直に吐いていたようね。まぁ離婚したい理由が増えただけだけど」


「言ってない!そんなこと言っている訳ないだろ!」


「噓が上手ね?2年前から浮気していたくせに」


「噓なんかついてないよ、本当にごめん」


「綾さんと結婚したいならさっさとすればいいじゃない」


「結婚するつもりなんてない!僕は奈津とずっと一緒にいたい!」


「へぇー、綾さんはこれからもキープしてて?」


「違うから!ちゃんと3人ともブロックした!もう連絡も取らない!」


「は……?3人?」


私の声は地獄と悪魔と死神を煮詰めたような声だっただろう。

秋斗は血の気が引いた顔でその場に即正座をした。



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