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4話


「ぁー、本当にかっこいいなぁ」


お気に入りの部屋着をきて、フリルやレースがあしらわれた可愛いを詰め込んだベッドで横になる。

手には私の王子様の写真をもって。

大好き場所で大好きな人の写真を眺める時間はどれだけあってもいいもの。

これが幸せというのだろう。


「なんでこんなにかっこいいのかなぁ、早く綾のものになってほしいなぁ」


神崎秋斗さん、29歳であの大手商社に努める綾の完璧な彼氏だった。

容姿端麗で理想の王子様を具現化したような人。

中身が残念ということもなく、いつも穏やかで品があってレディースファースト、完璧なエスコートをしてくれる。

一緒にいるだけで幸せで、こんな人間が現実にいていいのかと思うほどに素敵な人。


そんな美しい彼の横に立つ人間は私しかいない。

完璧で柔らか物腰の王子様に見合う人間は私だけ。

だって、この部屋に見劣りをしないくらい私は素敵で、他者からも認められるほどに可愛いのだから。

髪の一本から爪の先までしっかりとお手入れをして、自分磨きをしている私に弱点などない。秋斗さんと綾は王子様とお姫様なのだ。


そんな私に手に入らないものないのに、最近は悩みがある。


「秋斗さん、どうしたらあのおばさんと別れてくれるかなぁ」


憎たらしい女を思い浮かべては顔が歪んでしまう。

秋斗さんの”現在の”奥さん。未来は綾に決まっているので。

こんな可愛い私を悩ますなんて存在なんて本当に生きている価値がない。


あの女に秋斗さんは会わせても、見せてもくれなかったので、勝手に調べて把握している。

まぁ、あんな奥さんは恥ずかしすぎて綾に紹介できないか。

初めてあの女を見たときに思わずほくそ笑んでしまうほど。


「彩の方が若くて可愛いし?」


よく恥ずかしげもなくあの容姿で秋斗さんの横に並べるものだ。

神経が図太いのかもしれない。

秋斗さんに相応しいのは私なのに、いつまで秋斗さんに執着するつもりだろうか。


しかも、どうにも頭も弱いらしい。

イヤリングだけでは気がつかなかったのか未だ離婚をしてくれない。

いや、気が利かないタイプかもしれない。

今度はこっそり手紙も置いたし、流石に身の程を知るだろう。

秋斗さん証拠隠滅しっかりしすぎなんだからぁ。

綾と結婚するんだから別にばれたっていいでしょ。


「はぁ~、早く秋斗さんと結婚したい!テーマパークとかで結婚式したいな~」


これからの輝かしい未来をうっとりと想像する。

そろそろ会社にも結婚すること言わないとかなぁ。友達にも報告しないと。

名字も変わっちゃうもんねぇ。

そのとき、幸せな空気を壊すようにチャットツールの通知音がなった。

一体誰だよと顔をしかめてラインを開けば、心臓がドキドキと甘く鼓動を鳴らす。


「ぁ!秋斗さんから連絡だ!」


ベッドの上で思わず姿勢を正してウキウキとメッセージを確認すれば、その内容に思わず眩暈がする。まるで世界が終わることを告げられたみたいだった。


「はぁ!?綾ともう会えないってどういうこと!」


有り得ない、有り得ない、有り得ない!

どうして会ってくれないの!


「意味わからない、なんで綾と結婚するんでしょ!?」


絶対に何かの噓だ。間違いだ。こんなの現実じゃない。

メッセージの送信先を間違ったに違いない。


「秋斗さんに電話しないと」


震える手でチャットツールから電話をかけるもののつながりさえしない。


「ブロックされてる……?」


その事実が耐えられなくて、受け入れられなくて。

高ぶっていた感情のままに持っていたスマホを勢いよく床に叩きつける。

ガシャン!と大きな音が響くがそんなことどうだっていい。


「あぁぁぁ!ふざけんな!なんでなんでなんでなんで、綾のことあんなに大切にしてくれたのに」


「綾だけの王子様なのに、酷い酷い酷い酷い!」


枕を勢いのままに殴り、叩きまくる。

こうもしないと可笑しくなりそうだ。

秋斗さんの裏切り者、綾より奥さんの方がいいとでもいうの!

勿論、殴っても叩いてもスッキリすることはない。

全員くたばれ!地獄に落ちてしまえ!

激しい動きにより荒い息をしながら、ふと気が付いた。


「……あ~、わかったぁ、あのおばさんに無理やりさせられたんでしょ」


秋斗さんが離婚したいと言っても奥さんが秋斗さんを脅して拒否しているに違いない。

無理やり綾と会わせないようにしたのか。

可哀想な王子様。大切な綾と離れ離れになって心を酷く痛めているだろう。


「大丈夫だよ!綾が助けてあげるから」


悪い魔女なんてさっさと退治してハッピーエンドを迎えなければ。


「本当に害虫なんだから」







「おはよう……」


「おはよう」


「……え?朝ごはんだよね、ありがとう?」


「あぁ、一人分も二人分も変わらないし、出ていくまで居心地悪いもの面倒だから」


「っ、ねぇ、本当に離婚するの?」


「何寝ぼけたこと言っているの?」


「えっ……」


「私たちもう終わっているの」


何期待したような顔をしているのか。一晩たてば気がかわるとでも思っているの?そんなことあり得るわけがない。

まだ離婚届に記載をしてないのだろうけど、こちらとしてはもう離婚した心持ちなのだ。


「本当にごめん、反省しているんだ、もう一度だけチャンスをもらえないかな」


朝から秋斗は頭を下げて謝罪をしてきた。

昨日より気持ちは大分落ち着いたのか、声は震えていなかった。

反省している気持ちも伝わっている。

でも、許す、許さないではないのだ。

もう一緒にいたくなくて、あなたのことが信じられない、ただそれだけ。


「もう謝らなくていいわ、何度謝られても離婚は取り消さない」


「っ~~、あの、ベッドの件だけど取り替えるから」


「は?」


「その、あのベッドは捨てて、新しいのに買い替える」


「お好きにどうぞ、どうせ私は家決まったらでていくし、どっちもでいいわ」


流石に無駄なのでは?と思ったがそこまでのことは口にしなかった。

確かにあのベッドは気持ちが悪いからもう使う予定はないが、そもそもあなたと一緒に寝ることがもうないのだから。

秋斗が気にならないならそのまま使っていればいいのに。


「それと、此間買うのを迷っていたバッグ、貰ってくれない?」


「いらな……本当?」


普通に欲しい。え、あのバックのことだよね。いや、え、めちゃくちゃ欲しい。

あれ、自分で買うには渋る値段だったんだよね。

いや、でも、これ貰ったら許すってことになっちゃうの?

これバッグだけ貰って許さないはあり?流石に人が悪いよな。

でも、凄い傷ついたよね?治療代じゃない?

私の中の天使と悪魔が必死にディベート対決をしている。


「あのバッグ以外に欲しいものある?買わせて!」


頭を抱えてうんうんと悩みだした私に、秋斗は目を輝かせている。

奈津ちゃん、あなた貢げばいけると思われているわよ。

そうよそうよ、そんな安い女だと思われていいの?

天使と悪魔は仲良く肩を組み始めた。おい、片足上げて陽気に踊りだすな。

くっそ~、やっぱり断らなきゃだよなぁ。


「いる、いらないっ!」


「凄い欲しそうだけど」


「正直いうと欲しいけど、これで離婚は取り消さないから貰えない!」


「君はいい子だね、もう取消できないから貰ってよ」


「……浮気相手にあげればいいじゃない」


「奈津のために買ったんだよ、それに相手に贈り物はしたことない」


「……なら貰う、ありがとう」


ちょっとご機嫌かも。思わず小躍りをしたくなる。

ずっと前から欲しかったんだよね!あのバッグ!

朝から重たくてちょいストレスだったけど許そう。

秋斗はそれにおずおずと質問してくる。


「あの、僕たち本当に離婚するんだよね?」


「するよ?昨日からずっと言っているでしょ」


「離婚する夫婦の会話のキャッチボールじゃなかっただろ……!」


「早く顔を洗ってきてちょうだい」


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