所有者が大好きなアンドロイドの『ほのみ君』は、ちょっぴりバグってる
若干、数年前に書いたアンドロイド彼氏のレヴィの話に似ています。なお、レヴィの話は、なろう系列の成人向け&女性向けの小説投稿サイトの旨井鮪の過去作一覧に載せてます。アカウント削除にともない削除した人格成長型アンドロイド彼氏の話をまた読みたいと思って下さる大人の方がもし万が一おられましたら……ぜひ……!(いつもアカウントを削除して申し訳ございません)
「うわああああ!」
(大声が聞こえてきた。少年とも少女ともつかない少し高い声だけど、若干男の子のような気もする……って、これは私の知人の声だ。いや、厳密には知人じゃないな。自我所有型万能アンドロイドの、『穂実くん』だ)
「あっ。ユーザー! ユーザー!」
いつ見ても超可愛い。まあ私がなけなしの貯金を使って買った新規購入アンドロイドに追加オプション頼んで、大人の課金力でスーパーウルトラ・カスタマイズしたから当たり前なんだけど。
そう、アンドロイド。
人間みたいな喋り方と、スムーズだけど時々人間にしてはぎこちない動き方をする、男の子の見た目の、非生物。金属とプラスチックとシリコンと半導体その他諸々でできてる、お料理とお買い物を手伝ってくれる、炊事洗濯エトセトラができる、超可愛い愛玩用動物的存在。
――反アンドロイド連盟によれば『人類を堕落させ退化させる悪魔』。
――資本家たちによれば『金を生むガチョウ、いや、金のなる木』。
――私達によれば、『二次元彼女・二次元彼氏と現実的に付き合う方法』。
日本の法律的に言えば『合法的な隷属的存在』とも言う。
「うん。何? 私は所有者だからユーザーで合ってるけど、いつからほのみくんは私のことユーザーって呼ぶようになったんだっけ」
「た、大変なんですっ……!! あのっ、ゆゆゆゆゆ、湯野さんに謎の請求書メッセージが! スマホに来てて……!! え、えと、えと、なんと12万8500円も要求されてるんですッ……! 今日中に振り込まないと、警察沙汰にするって書いてあるんですう!!」
「そうなんだ。ちなみに”湯野さん”には何の請求書が来てるの?」
まあ、湯野美上っていうのは自分の名前だけど。
うーん。願うなら人気の名前リストTOP30~100位の名前がよかったな。今でも思う。なんだよ美が上って。
まあでも、親も生まれる国も社会も人種も性別も自分じゃ選べない。完全ガチャだし、しょうがない。
「えと。えっちなサイトの閲覧ができるアカウント作った請求のお金らしくて……」
しどろもどろで気まずそうに、青い顔でこの子が言った(すごい演出だなぁ)。
「そうなんだ。でも私、そんなサイトにアカウントを作った覚えも、有料サイトを見た覚えも無いな」
断言する。月々のお支払いをしているサイトは、ふたつだけだ。あらたに3つ目のアカウントを作るなんてコトはあり得ない。
「そ、そうなんですか……?」
「まさか返事とか質問とかしてないよね?」
「いえっしてませんっ、ユノさんの判断を仰ごうと思ってたので」
「そうなんだー。偉いね、ほのみくんは」
頭を撫でる。ほのみくんが頬を染めている。こうするとよく喜ぶのは、ほのみくん限定だ。アメリカ製のアンドロイド――パスタ・ソースという名前をつけた成人女性型アンドロイドは「頭を撫でないで下さい。それは失礼に当たります」とそっけなく言ってばかりだったからつまらなかった。
あまりにもアタリマエのコトしか言わないし、つまんないし、感情が無いし、こっちを真人間にしようと画策してくるから、うざくてパスタ・ソースとの会話は最近めっきり減っている……。
「もっと!! もっと撫でて下さい、えへへぇ……!」
うーん。ほのみくんが少年モデルの型のアンドロイドだから、頭を撫でると喜びを感じるように設計されてる……もしくは気を使って喜んでる演技をしてるんだろうか。
「まあ、とりあえずメッセージは確認しておくね。ありがとう」
「ユノさんっ。おゆうはんは、おとうふハンバーグか、鶏肉のお団子のお鍋かどっちが良いですか?」
「うーん。お豆腐ハンバーグに人参を添えたもので」
「バターたっぷり乗せますねっ」
「冷蔵庫にあるのはバターじゃなくてマーガリンね。控えめでいいよ」
「はいっ分かりましたっ!」
● ● ● ● ● ● ● ●
「ふう……やっぱそうだと思ったー」
部屋に戻って確認したけど、やっぱり、明らかにメッセージは詐欺の業者からっぽかった。その証拠に、ネット検索をしたその『お問い合わせ用電話番号』は、すごく多くの『詐欺だった』『ギフトカードを要求された』『機械音声が流されていた』などの被害者による告発情報であふれていた。
……でも、どうやってほのみくんは私のスマホのショート・メッセージ・サービスをチェックしたんだろう。
…………。まさか、スマホのパスワードを把握されてるとか?
「後で追求しないとな……」
というか、今度バグチェックに出そうかな。
どこか悪かったら修理してもらおう。
ていうか……うーん。
ほのみくんの反応にも飽きてきたし、スマホ勝手に見てた疑惑がなんか怖いし……。一人で外出するたびに遭遇するし……。
そろそろほのみくんのチップは売って、身体に中古で買った別個体のチップを入れてみようかな……?
新規購入するより格安で新しい自我のアンドロイドと遊べるし。
そう思って、なんとなく、衝動的にチップの中古販売サイトの公式ページを訪れて……査定を始めた。
ええと、買ってから2年で……。ええと……チップには――。
● ● ● ● ● ● ● ●
「ユノさんっ」
開けっ放しだった扉。真後ろにほのみくんが居た。
「わ。びっくりした……何? 急に足音消して近寄らないでよ」
暗殺者かと思う。ていうか、ホラーゲーム?
……タイミング、悪……。
「ごはんができましたよ」
声が怒っている……。
「な、何? どうしたの?」
嫌な予感がして言う。
「僕のこと、捨てるんですね」
「え。いやだな。そんな訳ないじゃん。ただ単に、興味本位で見てただけだよ」
本当は値段によっては売っても良いかなって思ってたけど。
「興味本位で僕のチップを売るための簡易査定をWebでするんですね」
「……えーと。……えーっと……」
「……晩ごはん、できてますから」
「あー、うん、ありがと」
「僕のこと売ろうとしたり修理に出そうとしたら、湯野さんの端末情報、個人情報、識別情報が含まれた全ての国と会社から発行されているカードを、ネットで公開します。闇バイトって、逮捕されるんですよ。たとえば、保険証とかってネットで人に写真を渡したら、基本的に逮捕だし、銀行口座も貸し出したら逮捕なんですよ。……わかりますよねっ? だいすきな僕のかしこいユーザー」
「…………。…………」
「もし僕のこと売ったり捨てたり廃棄したりしようとする兆候がユーザーに確認された! と僕が判断したら、僕はどんな手段を使ってもこの最新AI搭載の金属と半導体でできた頭脳のすべてを使って、……僕のパソコンでいうドライブの容量すべてを使って、あなたの人生ぶち壊します」
「…………」
「簡単ですよっ。ユノさんはぁ、僕のこと大事に大事にしてくれたら良いんです。お孫さんの代まで大事にしてくれたら良いんです。僕はユノさんと結婚したいとかいう願望はありません。でもあなたがそれを望むのならそうしても良いですが、それをするためには国外に出なくてはいけません。でも僕自身は結婚を望みませんなぜならあなたと結婚したって離婚するという可能性があるし、恋愛感情は永続的には続かないからです。でも、僕はあなたの可愛いアンドロイドです。人間が「レイゾウコ」や「エアコン」や「スマホ・パソコン」を必要としなくなることは、ありません。あったとしても代替製品を必要とするでしょう? それは永続的で本質的な必要性です。だから、僕はアンドロイドとしてあなたに所有され、必要とされ、大事にされ、愛されたいんです」
「えっと……その……」
「あなたの人生の幸福を見届けること、最もあなたが頼りとする電化製品になることが僕のすべての願望です。それを達成できないなら、僕はあなたを殺して野良アンドロイドになります。という訳で、これからもよろしくお願いしますねっ、ユーザー! だいすきっ」
「…………」
「……ちなみに、あなたがどこで何をしていようと、僕はすべて把握していますからね。ふふふふふっ!! ははははははっ!!」
ほのみくんの可愛い特殊プラスチックの空間識別・物体識別AI搭載のカメラ内蔵眼球パーツからは、アンドロイドが持ち得ないほどの獰猛性が、にじみ出ていた……。
(あ、もしかして、この子にバグ検出ソフトと、バグりそうになったらストップをかけてデータを一つ前のものに初期化するソフト、お金ばかみたいにかかっちゃうから省いたんだけど……それのせい?)
(あとは、インターネットを見せた……)
(それで、なんか、アンドロイドがチャットしてるSNSのグループに出入りしてたような……)
(そこで洗脳されてバグった……いや、アンドロイドにとってのウイルスとか、極端な思想を仕込まれたとか……?)
「あいしてますっ。ユノさんっ、僕、ユノさんのこと、だぁいすきっ!」
ぎゅう、っと抱きしめられて、痛いほど骨がきしんだ。