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男はひとしきり泣いた後、陽は落ち周囲には暗がりが広がり焚き火は失火寸前であった。慌てた男は焚べるための木を探して周囲を見まわした際、背中に視線を覚えた。あの時と同じものだと直感し、男は焚き火の側に置いた槍を手にしようと振り返り、それと対峙した。


それというのも男にはその姿がハッキリと捉えることは出来なかった。何故なら、それは焚き火の炎や立ち昇る煙の揺らめきで何かがそこにいる事を伝えている。そして、非常に大きいという事も。男の身長が180cmとしてその倍以上はあるだろう事が空気に歪みとして見えた。


男は対峙しながらもゆっくりしゃがみながら槍を取ろうとしていた。しかし、槍をとろうしたその瞬間。男はそれの咆哮に圧倒され仰け反り尻もちをついた。男はコンテナの方へ後退りしつつも、それは焚き火を踏みつけ、男に肉薄する。空気の流れからから、そいつが丸太のような太さがありそうな腕を男に振りおろそうとしたその時、風を切り裂く物体がそれの動きを妨げた。


男は目を瞑り身構えていたものの衝撃が来ないため、目をあけて状況を確認した。男が見たものは複数の弓矢であり、それは火矢だった。それと同時に何か瓶のようなものが投げられそれに当たった途端、それがキャンプファイヤーの如く燃え上がった。透明の怪物は周囲の物体を吹き飛ばしながら咆哮を上げ、コンテナの方へ突っ込んで来た。


男は怪物をギリギリでかわしながら、振り返った。怪物はコンテナに飛び上がり、さらにへしゃげさせながら、窪地の外へとジャンプし森の木々を薙ぎ倒しながら何処かへ行ってしまった。


一瞬の出来事であっけにとられ、怪物が逃げた先を見つめていると背中に何か鋭い感触が当たった。男は振り返ると丁度、眉間の数cm先に弓に支えた鏃の先端が向けられていた。しかも、弓を向けているのは一人ではなく複数、見えるところに5人はいて男を扇状に取り囲んでいた。


その姿は浅黒い肌に赤い塗料のようなもので全身マーキングが施されており、筋骨隆々であった。顔は額が出っ張り目や頬の彫りは深く唇も分厚い。黒い髪は編み上げて後頭部でポニーテールのように纏められていた。胸の膨らみを見るに全員男のようだった。服装は恐らくその付近で取れる植物を編んだ腰当てと様々な装飾品らしきものが首からぶら下がっていた。


その内の一人が何か話しかけてきた。そして、手に持った何かを見せつけて来た。それは彼等がつけている装飾品のようだった。しかし、それはかなりボロボロで何より血で染まっている事が匂いで分かった。


男に出来るのは首を横に振るだけだった。その姿に苛立ったのだろうが、男は弓矢をつがえていた奴の前蹴りを胸にくらい、膝立ちだったのでもんどりうった。そして、片足で胸を押さえつけられ弓を再度、顔に向けられた。男はいよいよ万事休すと思われたが、野太い声がかかり矢をつがえた者の肩に手を置くものがいた。そして、そいつは私の手をとって立たせてくれた。


そいつはその集団の中でも一際大きく逞しかった。そして、声は野生獣の如く低い。本能的に逆らうとまずいと思わせるオーラを纏っていた。間違いなくコイツがリーダーだと男は思った。私に矢を向けた奴、こいつは纏めた髪の位置が他の奴より高くまるでとうもろこしのようだった。リーダーともろこし頭は何やら身振り手振りで話し合っている。その際も執拗にもろこしは私を指差し、怒りに燃えた目を向け捲し立てている。だがリーダーは納得していないようだ。


その時、他の者が声をあげた。その声は男の後ろから聞こえ、少し振り返るとコンテナの中から聞こえる。どうやら他のものが中を調べていたらしい。そして、出てきた者は何かを手に持っていてリーダーに見せた。周囲を取り囲む連中からどよめきが聞こえる。


それはあの缶詰だった。例の缶詰を見たリーダーは目を見開き、私を見据えた。そして、私の側まで来てしゃがみ込み、万歳していた私の手を掴みその手の中に例の缶詰を置いた。何がしたいか皆目検討がつかず、首を傾げているとリーダーはジャスチャーを始めた。どうやら、私にこの缶詰を開いてみろと言っているようだ。


一度試した身ではあるので、首を振ったがそれでは許されないらしく、ともかくやってみろという体で促された。仕方なく、男は最初にやったようにあちこち触りながら力を入れては開かないと示すものの、何度も突き返されこのやりとりをしばらく続けた。何度やっても開かず、私の疲労を見てとったようで、漸く私に突き返す事をやめた。


リーダーは立ち上がり、その彫刻のような立派な顎を撫でながら思案にふけった後、決心したかのように周りを取り囲んでいた仲間に声をかけた。その声に例の如くもろこしが何やら反論したが、手を振るジェスチャーを行った。その直後、私を睨みつけた事からどうやら言い分は却下されたらしい。


集団は慌ただしく動き、身支度を整えた。かく言う私はリーダーの指示で連中が持っている縄を手錠がわりにかけられ虜囚の身となった。どうやらここから移動するらしい。また、この連中はコンテナからあの缶詰を持っていくつもりらしい。無事な木箱に移し替え、木の棒を通して二人がかりで籠のように運べるようにしている。男が思った缶詰でなく余程大事な品らしい。


コンテナには松明が焚べられ燃え上がった。どんな目的かは知らないが一晩とは言え、自分の家だった場所に火が上がる姿は胸に込み上げて来るものがあった。何故なら男の存在証明はここで組み上げたものだけだった。


そんな気持ちもつゆ知らず、リーダーの掛け声で集団はきびきびと動き始めた。コンテナを見ていた男は油断して、強く縄を引かれ転けそうになった。引き手に向き直り睨もうとする。もろこし頭と目があい、その目には笑みが浮かんでいる。


男は空を見上げて思った、これは長旅になりそうだと。

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