夢
暗闇となって森を駆ける夢。
重力が存在しない夢の中、跳躍しては縦横無尽。
研ぎ澄まされ、五感は全てを手中に収める。
それらの力を持ってして、求めうるモノ。
それ「篝火」ただひとつ。
暗闇の唯一満たす、底無しの。
耳を欹て、
空気を肌で絡め取り、
眼でもって夜の帷を切り裂き、
闇夜に仄めく獲物を捉える。
立ち塞がる木々物ともせず、
森を蠢くは黒煙の如く、
擦り抜けては音もなく、
忍び寄る。
篝火達は気付かない、趨勢明白。
暗闇跳躍、降り立つは篝火達の中心。
突然の襲来に揺らめくは篝火、伝わる狼狽。
掻き立てられるるは暗闇の、嗜虐心。
行われるは一方的な虐殺。
腕を振るうだけで篝火は掻き消え、
篝火達はなす術なく逃げ回る。
先回りしては踏み潰し、火の粉が舞い踊る。
庇いあう者達の願いは聞き入れられ、
それらは共に叩きつけられる。
墓標とされた樹木に残滓が滴る。
最後に残されるは一際輝く篝火。
怯む事のない対峙は勇ましく、
けれど、揺らめく炎に滲むは青白く。
燃え立つそれに、宿るは恐怖。
抱き寄せる、恐怖に凍える篝火を。
顎で持って迎入れる、その暗闇に。
篝火呑まれ、暗闇満たされ微睡み、落つる。
静寂が訪れる。