遺物
開け放たれたコンテナの中に陽光が差し込み、中を見渡すことが出来た。男の思った通り、このコンテナは海運用に使用されていたようである。中には機材を格納する為の木材で出来た箱が散らばっており、男は目当ての物を見つけた。
衝撃で壊れた木箱から缶詰がこぼれ落ちている様を目ざとく発見し、男は飛びついた。缶詰の外装には分かりやすいアルファベットのような記載はひとつもなく、見慣れない中東のアラビア文字のような記載と海産物を示すかのような絵が描かれており、男はそれを食べ物が入った缶詰と考え何とかこじ開けようとしたが上手くいかなかった。
何故なら、缶詰は青銅のような金属で出来ており、そこには通常の缶詰にあるようなプルタブが存在しなかった。また、爪をかけれる箇所もなく、一体成形されたかのように継ぎ目すら見当たらなかった。男はその海産物らしき絵からタコやイカを連想し、尚更空腹を覚えて腹が立った。男はその缶詰を元あった木箱に押し込み、近くにあった別の木箱に座り込んで溜め息をつく。
男「もう一度砂浜に戻って素潜りでもしてやろうか」
そう言いながら男はかぶりをふる。日は既に傾いており、今から戻っても森の中で迷うかも知れない。何より、男の感じた視線の主とかち合う可能性は捨てきれず、砂浜へ戻る案は諦めた。
男はコンテナの中をもう一度確認したが口に出来なそうなものが見当たらず、代わりに見つかったものは次のような物だった。それは何かの試験や検査をする際に用いるのだろうか、顕微鏡のような機材や攪拌機からそれらを設置する際の什器や機材用ケーブル、工具、あとは試験管やメスなどの医療器具もあり、これは使えそうだとナイフ代わりに数本を男は拝借した。また、幸いな事に機材の中には簡易のバッテリー付きライトもあった為、男はコンテナの中で一晩を過ごすと決めた。
日が暮れ始めると先ほどのライトをコンテナ内で点灯させ、コンテナを内側から閉じた。男は中の木箱を固定していた針金を外し、扉の裏側にある出っ張りなどを利用して針金を巻きつけ何とか扉が開かないように固定した。その後、近くにある木材を扉に立てかけ、簡易のバリケードを作り上げて作業を完了した。
正直心許ないが無いよりはマシだと満足し、男はコンテナの底に横になってライトを引き寄せた。このライトもまだ必要になるから節約しようと考え、早々にライトを消した。
外の微かな鳥の鳴き声を聞きながら目を瞑り、断続的に恨みがましく訴えてくる腹の音を男は無視した。明日は何かが見つかるはずと前向きに考え浮かんでは消える不安を掻き消そうとするうち、その日の疲れもあった事から男の意識は徐々に形を失い深い眠りへと落ちていった。