顕現
「おい!トア、目を覚ませ!」
誰かが俺を揺さぶっている。身体のあちこちが痛む、一体どうなった。痛みと共に身体の感覚が戻ってくるくる。ぼんやりしていた視界も次第にハッキリとしてくる。俺を揺さぶっているのは長い頭の持主である親友の心配顔だと分かり、彼に応える。
「ここはランギか、カンガ」
「不死のトアにはランギに居場所なんてねぇ、しっかりしろ馬鹿が!下らん事をいう暇があったらさっさと起きやがれ、図体のでかいお前は重いんだっ!」
カンガの悪態にトアの口角が上がる。痛む体をカンガの介抱で上半身を起こして周囲を見回す。視界に収まる範囲はアウワが来たかのように滅茶苦茶だった。
「皆はどうなった?無事か?」
カンガが眼を瞑り、俯きながら首を振る。
「ニカウ、マナイア、タイカ。皆んなあのタニーワにやられた」
「そうか・・・」
眉間に手をやり、仲間に想いを馳せて自分の判断を呪った。カンガが言うに俺の席はランギに無いのでテオラ・ムリに赴いた際、旅立った仲間へ詫びる事を誓ったトアは言葉を絞り出した。
「それで?どうして、俺たちは生きている?」
「それは・・・」
カンガが答えようとした瞬間、心臓を鷲掴みにするような地面と空気の振動を感じ遅れて咆哮が続く。続いて木々が薙ぎ倒され別の咆哮も聞こえる。一体どういう事だ。カンガは答える。
「俺も何がなんだが分かんねぇ!とにかく此処は危険だ!」
すると、カンガはキビキビと肩をトアの脇に入れ立ち上がり、咆哮から遠ざかる方へトアを庇いながら歩を進める。
「もう少しで洞窟に着くはずだ。まず、そこまで避難するぞ」
「しかし、あれはタニーワか?何かと争っているのか?」
トアを支えながら荒い呼吸でカンガは答える。
「言ったろ、分かんねぇ!ただ、タウハウだ。あのタウハウもタニーワだったんだ、あいつが光に包まれて。だから、俺は反対したんだ!それをお前がっ」
そう言いかけて、トアがカンガを引き留めカンガがつんのめりそうになって怒鳴る。
「何すんだっ!急に止まっ・・・」
「静かにしろカンガ!周りの音が消えた」
「んぐっ」
トアは怒鳴ろうとするカンガの口を手で覆い、カンガを制す。トアとカンガが目と耳で周囲を警戒したその瞬間、トアが空を見上げ叫んだ。
「上だ!」
叫ぶと同時にカンガを脇に抱えてトアは横っ飛びした。直後、二人の立っていた箇所に巨大な岩が落ちてきた。その衝撃は二人を巻き込みながら地面を陥没、隆起させて波うたせながら地形の様相を一変させた。
トアとカンガは覆い被さってきた樹木や土を払いながら落下物の方を見やった。それは岩ではなく俺たち、タンガタのようだった。何かと争って大木のような腕を地面に振り下ろす。しかし、その腕は中空で跳ね返って咆哮が上がる。土埃の舞う中、タニーワを叩き伏せる存在に眼を凝らすとその頭は森の屋根を突き抜けている、その体躯は巨大だ。さらに、森の屋根が崩れ月夜が照らし出す姿を見た瞬間、トアは後悔し全身が総毛立つのを感じた。
蠢いていた。それは森の毒王、ナカーヒだったが1匹ではない。数百、数千、数える事が出来ない呪われた存在がその全身に纏わりつき蠢き脈動していた。それは一つであり全てであった。双眸は赤黒く全てを燃やし飲み込むアヒ。時には我々を災厄から守護する物であるはずが、その双眸は灼熱で視界に入るもの全てを焼き尽くす欲望に焦がれてやまない。
トアの前に聳えるその冒涜的な存在。
その昔、ルアウから寝物語に聞かされたアトゥアに
仇なす者、レウェラ。その者であった。




