鏖殺
原住民達と男は夜の森を歩き続けた、森の屋根から途切れ途切れに入る月の明かりを頼りに。
彼らは夜目が効くらしく、軽快に森を進んでいく。男の方はそんな異能に恵まれている分けではないので頻繁につまづいた。その都度、もろこし頭に睨まれ嫌な思いをした。例のリーダーは先陣を切っている。時折、集団に手で合図し、停止させては周囲を見回し問題がない事を確認しては歩を進めた。その際、匂いを嗅ぐような仕草、足元の確認なども合わせて行っている。どうやら、透明な化け物の警戒も含んでのようだった。
集団の夜行は順調のように思えたが、リーダーが全体に停止の合図を送った瞬間、今までの合図とは異なっていたからか全員が身構え、男もそれに倣った。数歩進むと男でもその理由が分かった。血の匂いだ。
リーダーと仲間の一人が先行して状況を確かめる事となった。もろこし頭も行きたそうな素ぶりを見せていたが、制止され不貞腐れていた。リーダーとその仲間が離れ、必然的に他の者は休憩のような形となった。
森の切れ間から見える月は美しかった。この異常事態に巻き込まれた男はこの月明かりを見ていると心が凪ぐのを感じた。そして、徐々に意識が周囲に溶け込み自分ではない何かの意識が入り込むようだった。
それは昨晩見た夢と似ていた。森の中を縦横無尽に駆け巡ると森の中に灯る炎が見える、そう篝火が。そして、視界が篝火に忍び寄って行くその時。激痛と共に男は夢から引き戻された。弾き飛ばされた男は近くの樹木に叩きつけられていた。彼らの目の前には月夜の光を歪めた周囲を薙ぎ倒す存在が咆哮を上げていた。
森の闇夜の中、前回とは違い圧倒的に劣勢であった。弓矢や槍での攻撃は闇夜と怪物の特性である不可視の中、攻撃は急所を攻めることが出来ず一人ずつ怪物に屠られていく。男の耳はリーダーの野太い声やもろこし頭が叫ぶ声を聞いたが、徐々にその声の響きが遠くなる。肺に血が溜まり、まともに呼吸ができない。急に夜目が効くようになったかのように周囲がよく見える。目線が落ち男が自身の下腹部を見るとシャツはどす黒く染まっており、血溜まりを作っている。
いや、これは夜目じゃない。男の血溜まりの一部が発光している。薄れる意識の中、男は発光体に手を伸ばす。血に塗れた男の手に硬い感触が触れる。男はそれを掴みあげると、手に纏わりつく感覚を覚えた。声が聞こえる。雑音混じりのその言葉は遮りたい心を一切聞き入れず、捩じ込むがごとく聴覚を犯す。
「・・・に呪い・・・を呼び起こす。たとえ、如何なる・・・も・・・暴虐の前に一縷の望み・・・凌辱にまみれ、その・・・陽光を剥ぎ取り・・・尽くす。我が仔らは陸の・・・攫い、・・・てを呑み込み。我が腹・・・至る。・・・え・・・らえ、犯せ、喰ら・、殺せ、攫え・・・剥ぎ取れ、捻じ・・・切り刻め、贄、贄、贄贄贄・・・贄贄贄贄贄贄贄贄贄贄贄贄・・・捧げ捧げ捧げ捧・・・捧げ捧げ捧げ・・・捧げ捧げ捧げ犯せ喰らえ殺せ攫え奪え剥ぎ取れ捻じ切れ切り刻め贄贄贄贄贄贄贄贄贄贄贄贄贄贄贄贄贄贄捧げ捧げ捧げ捧げ捧げ捧げ捧げ捧げ捧げ捧げ捧げ捧げ捧げ犯せ喰らえ殺せ攫え奪え剥ぎ取れ捻じ切れ切り刻め・・・涜せよ」
男は止まりかけた鼓動が動きを取り戻し、逆に胸を突き破る動悸を覚えた。頭が痺れ、最後の記憶は自身を包み込む発光体から広がる光だった。




