1/15
邂逅
男の記憶は定かではない。
荒れ狂う波、何度も押し寄せる波に飲み込まれまいと
必死に抵抗し海面での息継ぎを行った。
男が海面に顔を出す度、目に映し出される雲は
暗澹とし、その中には神話で描かれる龍が
蠢いているかのように胎動し鼓動する音、
嘶きが雷鳴となって閃光が海面と男の顔を照らす。
海もまた、意思があるかのように息継ぎの都度、
男をその腕で海中に引きづりこむ。
力つき海中へと深く深く男は沈んでいく。
意識が薄れゆく最中、
自身を取り巻く緩やかだが力強い海流を感じ、
その流れは沈みゆき消えゆく意識と対照的に
男の脳裏に刻み込まれた、浮かび上がる強大な存在を。