小魔王と100兆の目②
ベルゼバには視覚共有のスキルがある。
文字通り視覚を共有するこのスキルによって、世界中に放たれた眷属からベルゼバは視覚的情報を得る事ができた。
ベルゼバは世界で唯一、世界の全てを知っていると言って過言ではないのたが、生憎とベルゼバには、情報をどうこうする知恵がなかった。
効果的な使い方も、自分好みの苗床を探すくらいなもので他はない。ただ、子孫を残すという生物的な観点でいえば、十分に能力は有効活用されているといえた。
世界中に目を持つベルゼバは、血を分けた眷属によって、世界征服を完遂していた。
アビスよりも早く、ベルフェルよりもスマートに世界を手中に納めているのである。
ベルフェルが求める世界征服とは、かなり異なりはするのだが。
「ゼバババ。それで、我が優秀な眷属達の目を使えば、魔王をどうにかできそうか?」
目をつむり、黙りこくったベルフェルにベルゼバは質問をする。
ある意味で人生をあがっているベルゼバが、ベルフェルに目を貸したのには理由があった。
子孫繁栄。生物が持つの原初的欲求を、このままでは魔王に淘汰されると予期したからである。
ベルゼバの持つ本能と勘は、思考の末に辿り着く答えよりも遥かに正確で分かりやすかった。
ベルフェルを選らんだのも、本能に起因する勘であり、ベルゼバにとっては自身の為に正しい選択をしたに過ぎない。
「…」
ベルゼバの問いにベルフェルは答える事なく口に手を当て、額に指を当てる。
ベルゼバから視覚共有された事で、膨大な情報を目の当たりにし、情報酔を起こしたからだった。
ベルフェルだからこそ、目眩と吐気程度で耐えられているものの、並の者が突然こんな情報を共有されたら、再起不能の脳死状態に陥ってもおかしくはなかった。
視覚共有は情報という点では勿論、攻撃という点においてもかなり優れものだった。
この能力があれば、あぁなる前に魔王を殺せていたし、世界を容易く裏で牛耳る事もできていた。
種族間同士の抗争を作る、いわゆるマッチポンプが、この力があれば簡単に作る事が出来るし、人族の英雄など、逸脱者達のアキレス腱を抑える事もできる。
逸脱者のヘイト管理を簡単にできる。これだけで頭痛や目眩といった副作用など、無視する事ができた。
「ゼバババ。まさか小魔王ともあろう御方が、脳みそがイカれてしまったかな?」
「…問題ない。くくく。何も問題ない」
世界の動きを全て捉えたベルフェルは笑う。
どう仕掛けを打ったのか分からないが、魔王は倒されるべく、世界は動いている。
ベルフェルが心労し胃を痛めながら策を打たずとも、魔王は倒される。それがベルフェルの捉えた世界の意志だった。
世界が気色の悪い形で一つになっている。
不自然に歪に。
今ある目眩や吐気よりも気色が悪い。
「ゼバババ。どう見ても問題あり気だぞ?」
「魔王に、生まれて初めて同情しただけだ」
「そんな心があったのだな」
「くっくく。ない。実際はざまぁみろとしか思っていない」
魔王には数々の煮え湯を飲まされ続けた。
同情心など微塵も存在しないし、存在する余地すらない。
何よりも凄惨で残酷な最期を望んでいるくらいだった。
100兆の目の内の一つが、殺されたはずの勇者が立ち上がる姿を映し出した。




