蠱毒と不死
蠱毒のスキル効果によって、転移が使えないなら走って逃げればいいじゃない。
という事で、私のダッシュで戦場から逃げ出した。
勇者に背を向けて走る魔王。
字面だけ見ると最悪だけど、逃げるが恥じなんて過去の文化。
令和の時代、背中に傷があるのが格好いいまであるのだ。
「ゴドズ」
アイルの声が耳に届く。
私のHPは超膨大だから、多少斬られた程度なら殆んどダメージははい。
それでも、爪楊枝がで全身をチクチクされるのは痛いし、気も狂うかもしれないけど、私の気は常に精神スキルによって安定されていた。
しかもこの精神スキル、爪楊枝のチクチクな痛みさえ緩和してくれる。
アイルの攻撃は今や、足つぼマットを踏んだ時のような、心地よい痛みに変化していた。
痛みからも護ってくれるとか、精神さんマジ精神さん。
会心の一撃を出されると、流石にウギャーとはなるんだけどね。
「ウギャーッ!!」
突然目の前に現れたアイルによって、右肩から左腹に掛けて一刀両断される。
なんで、目の前にアイルが?
意味が分からない。
背中の傷は魔王の恥だなんて私は思わないし、振り返った覚えだってない。
素早さだって、私の方が上だ。
「彼方まで吹き飛ばしたこの女が即効戻ってきたのと同じ道理なのら。蠱毒からは逃げられねーのら」
「糞が」
確かに目の前にはアイルの他に、私が座っていた玉座がある。
見方を変えれば、アイルが突然現れたのではなく、私が突然現れた。
だからなのか、アイルからの追撃は中々飛んでこなかった。
「諦めて倒すか、倒されるしかねーのら」
「簡単に言ってくれる…」
「でも木陰には簡単な事なのら」
「…」
魂レベルで融合しているにーたんが言うならそうなのだろうし、そう出来る確信は私にもあった。
アイルを私は、簡単に殺す事が出来る。
「マゴグゴドズ」
「ごめんアイル。恨むならあんた自身の不幸を恨んで」
私は阻害をアイルに向かって発動させた。
阻害するスキルは不死。
不死のスキルが働かないよう阻害してやれば、アイルは勝手に自壊するはずだった。
アイルの肉体も精神も既に死んでいるからだ。
「マゴグッ…ゲハッ」
全身から赤黒い血を吹き出し、アイルは倒れた。
「ごめんね」
私は謝罪し、死体を葬る為に魔界の炎を呼び出した。