魔王は座して待つ
二度と座るまいと心に決めていた玉座に腰掛けた私は、玉座の両端を握りしめた。
パキッと骨の折れるような音が聞こえたので、少しだけ力を緩める。
世界にある物は、私にとってあまりに脆かった。
「これからどうしよう…」
勇者(笑)として仲間と共に世界を旅してきたけど、溢れだす魔王パワーのせいで、勇者(笑)になる事はもう叶わない。
エルフの友人とは袂を分かってしまったし、怠け者の鎧女は、飾られた鎧のように一点から動かなくなった。
私は一人だった。
「のらのら、にーたんを忘れて貰っては困るのら」
「…」
私は一人だった。
「にーたんを無視するな。火を吐くのらよ」
「吐いてんじゃん」
ボフッと音が聞こえ、炎が吐き出される。
吐き出された炎は、開いていた扉部分に更に大きな穴を空け、何処かに消えていった。
にーたんは弱体化しているとはいえ、城なんて余裕で壊せるし、四天王程度なら相手取る強さも普通に持っていた。
てか、滅ぼす者バフが乗っかてるから、こいつに勝てるのはアビスしかいないかもしれない。
もう、こいつが魔王でいいんじゃないかな?
真の姿、邪悪の化身みたいな感じだったし。実際、世界を滅ぼそうとしてたし。
なので、代わりにアビスに殺されてくれにーたん。
「にーたんが殺されたら、木陰も死ぬのらよ」
「はーつっかえ」
本当に使えない。後、一人称がにーたんなのがなんか腹立つ。萌えキャラを自認しようとしてないかこいつ。
「にーたん、痛みに強いから、木陰の盾になっちゃおうかな。かな」
焼け落ちた包帯から顔を出したにーたんは、ゆらゆらと顔を動かし、私を煽ってきた。
煽られたので、パンチしておいた。
「あうっ。痛い」
例えるなら、自分で自分を殴ったような痛み。
こんな金玉と一心同体とか、マジで萎えぽよです。
「木陰が哀れに見えるのら」
「人の手に寄生してるあんたの方が哀れだし」
「寄生は立派な生存戦略なのらよ。なにより生物は皆、世界に依存しているのら。だからこそ寄生先の世界を滅ぼそうとする木陰は、みんなに狙われるのら」
「うるさい」
私は饒舌に語るにーたんの頭をパシリと叩いた。
痛い。
何、この理不尽。
ムカつく事を口にするし、ムカついて殴ったらこっちが痛いし、にーたん無敵じゃん。
「木陰は阿呆なのら」
「…」
「木陰は阿呆なのら」
「聞こえてるから、2回言うなし」
「木陰は阿呆なのら」
「きょえー。ぶっ殺してやる」
私がカッとなってにーたんを絞め上げようとした瞬間、大きな音が響き、城がぐらぐらと動き始めた。
下からドンドン。
上からドンドン。
下階と上階の住人による騒音トラブル。
果てしなく五月蝿い。
てかこの城浮いてない?
「総攻撃が開始されたのら」
「これ、攻撃なんだ」
言われてみるとそんな気がしないでもない。
でも、ハリボテの城すら壊せないとか、しょぼくない?この城、手抜きの突貫工事だから、まともに攻撃したら簡単に壊れると思うんだけど…。
「木陰どうするのら?」
「何が?」
「何がって、攻撃されてるのらよ?」
「そっか。確かに。少し考える」
両腕を組み、考えるポーズを取ってみる。
取った所で、実際は考えていない。
万里眼の先にいるアビスと視線が交錯する。
この女王様は一体何を企んでいるのか。
鑑定をかけようとした時、ドンと一際大きな音が響き渡り、天井が貫かれた。
そして目の前には、一人の少女の姿があった。
アイル・リリ
勇者の到来である。




