聖女の祈り
世界に住む者達の意識と視線がその瞬間、一点に集中した。
強制的に意識と視線が誘導されたにも関わらず、誰一人としてその事を疑問に思う者はいなかった。
意識と視線の先にあった存在が、あまりに大き過ぎたからだった。
魔王降臨。
姿形は見えずとも、世界は世界を滅ぼす者の存在を確かに認識した。
「祈りなさい。恐れや憎しみに囚われる事なく、ただ祈りなさい。さすれば神がきっと、お救いになります」
聖女の透き通る声が、念話を通して世界に響く。
恐れや憎しみに囚われていた者達は、聖女の声を通して我に返り、祈りを捧げ始めた。
「聖女様」
「あぁ、聖女様」
「どうかどうか世界を」
「私をお救い下さい」
信者と、聖女の声に即時信者となった者達が祈りを捧げる。
祈りによって、奇跡が起こる事はない。
それでも、祈りを捧げている間だけは、恐れも憎悪も生まれてくる事はなかった。
祈りを捧げている間だけは、魔王を憎まずにいられる。
信者達の祈りが神に届く事や、奇跡を起こす事はないのだか、祈りによって魔王が弱体化する事実は確かに存在した。
「さぁ、祈りなさい」
聖女の声が世界に響く。
「聖女様」
「聖女様」
「聖女様」
信者達や信者となった者達が祈りを捧げる。恐怖や憎みを忘れるように、食べる事も眠る事もやめて祈り続ける。
呪われた衣によって、飲まず食わずであっても、けして死ぬ事のない聖女が寝言を呟く中、信者達は祈り続けた。




