魔王
大賢樹ユグドラシルから追い出された私は、地上に立っていた。
魔族と人族が奪い合っていた地上には今や何もなく、はりぼての魔王城だけがそこに存在している。
「ここに戻ってくる予定はなかったんだけどな…」
門番の一人すら立っていない門を通り、魔王城の中に入る。
魔王状態ではなく、絶世の美女状態での入場だったけど、外にも中にも誰もいないので問題はなかった。
コツコツと足音を響かせながら中に進む。
魔王城はラストダンジョンであり、罠の張り巡らされた迷宮仕様になっている事が普通なのだが、この城は魔王城まで直通快速だった。
門をくぐり、大広間を進んで階段を登ると、そこに魔王が座る玉座がある。
「あっ」
「えっ?」
左手にはでかいワイングラス。右手には三つの胡桃をゴリゴリとしながら足を組む、黒くモヤの掛かった何かがそこにはいた。
取り敢えず鑑定。
シャドー・ハンズ
レベル9
HP255
MP255
TP50
力10
魔力255
素早さ255
防御力10
器用さ255
スキル
闇魔法レベル3
魔王不在をいい事に、魔王に成りきり楽しんでいる不届き者。魔族が結束している中個人行動し、魔王討伐の大戦争に加わるつもりもない。魔王城は魔王の物であるからこそ、最も安全だと考えている。
こいつ、不届き者だ。
でも、私が気になったのはそこじゃない。
何?魔王討伐の大戦争って?
響きが不穏過ぎるんですけど…。
なんてね。
不穏だけど知ってましたとも。
滅ぼす者のスキル効果で敵視されまくって、ステータスが向上しているし、世界に結束の効果が付与されたのも分かっている。
明確な敵に対して、世界が一つになった。
となれば起こるのは戦争だ。
魔族に対してはスキル効果がなくても、バリバリ恨まれていただろうし、スキルで背中を押しちゃったら、そら殺しに来るよねってもんです。
「あびゃ。あびゃふへぇは」
シャドーが弄んでいたワイングラスと胡桃が砕け、破片が床に転がっていく。
レベル9しかなく、大したスキルも備えていないシャドーは、滅ぼす者のスキル効果によって、精神に異常をきたしたようだった。
「あへひゅっ」
シャドーが黒い爪を振り下ろしてくる。
「…」
振り下ろされた爪に対して何もせずにいると、攻撃を当てたシャドーはバラバラに砕け散り、世界から消滅した。
私は私の意識とは関係なく、何処までも魔王だった




