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聖女

魔族と人族が結束を強め、人族の最高戦力であるドラゴンが魔王討伐に向かい、魔族の秘密兵器であるアイルが最終調整されている中、魚人族、竜族、ドワーフもそれぞれ動いていた。


聖女との邂逅を果たしていた魚人族は、聖女の元に集まり、洞窟や地下でひっそりと暮らしていた竜族とドワーフは、かつて魔王と戦った族長同士で連絡を取り合った。


「聖女様。どうか我々に道をお示しください」

「どうか、どうか」

「…」


「聖女様。お言葉を。どうか我らにお言葉を」

「お静かに。聖女様の言葉を待てない者に、予言や神託は降りません」

「…」


黄金に彩られた大聖堂が信者達で溢れ還り、救済を求める声があちらこちらであがる。


神官長であるリリム・リンが言葉によって納めようとするものの、信者達は口々に叫び続けた。


それぞれの叫びが重なり、騒音となって大聖堂に響く。


バラバラに発せられる音は、バラバラであるにも関わらず、まるで一つの音だった。


音域で表現するならド。

ただ、ドが重なり続けているからうるさい事に変わりはない。


ドドドドドド

ドドドドドド

ドドドドドド


音が重なり走り続ける。


聖女エルはそんな音を聞きながら、くかくかと舟を漕ぎ眠りに落ちていた。


どんな環境であっても、眠いと感じたら眠れるのがエルであり、この図太い精神性だけは装備する鎧に寄与していなかった。


ドドドドドド

ドドドドドド

ドドドドドド


エルがすぴすびと立てる寝息は、信者達の立てる音によって掻き消され、いつまでも響き続けた。



「まるで内乱。クーデターでも見ているようじゃ」


万里眼を使って大聖堂の様子を見たアビスは、エルに念話が通じない事を納得し呟いた。


我先にと助けを求める者が増えると、殺伐とした雰囲気になる事は、過去の経験からアビスも知ってはいたが、大聖堂で起きている事はその比ではなかった。


絶望という現実から目を反らし、奇跡や希望に縋るその様は醜くさえある。


自分だけは特別で、特別だからこそ聖女に救って貰えると声をあげている所なんかは、気持ち悪くもある。


誰一人特別に思っていない聖女は、眠っているみたいじゃが…。


「覗きが趣味な事は、変わっていないのだね」

「こふっ。人の本質はそう簡単に変わるまいて」

「おい。糞ジジイ共。妾を覗き魔に仕立て上げようとするでない」


大聖堂が映る万里眼の景色から、すぐ隣にいる二人にアビスは視線を落とした。


そこには竜族の長であるデニスと、ドワーフの長であるパラディスの姿があった。


デニスに会った時も老いを感じたが、パラディスも中々のじじぃに仕上がっていた。


見た目も鑑定に映るステータスも、家で大人しくしていてねおじいちゃん。と言いたくなる衰えぶりである。


隠居するための別荘と家族を、魔王に殺されているから出陣もやもなしとはいえ、戦力にはならなそうだった。


「こふっ。仕立てあげずとも既に成っているではないか」

「日常が覗きであれば、それを覗きとして認識できないのは仕方のない事だよパラディス」

「こふっ。うちのばあさんがモラハラババアと言われていたのと同じ理屈かの」


パラディスの妻はパラディスを常に無能と罵っていたのだが、パラディスにとってはそれが当たり前の日常だった。


あまりに日常だったので、周りからの同情の声も届かなかったし、結局妻が亡くなってからも暫くは、それがモラハラだったと気付く事もできなかった。


今振り返ってようやく、結構酷い事言われてたなわし。ってな感じなのである。


「それは知らない」

「こふっ。知恵者の御主でも知らない事があるのじゃの」

「僕は知恵者ではないよ」

「こふこふっ。御主が知恵者でないなら、世界に知恵者は一人もいなくなる」


「おい。ここにおるではないか。世界一の知恵者がのぅ」

「こふっ。自信満々に言われると、逆にアホそうに見えて不思議じゃわい。見た目は相変わらずの糞ガキじゃしの」

「パラディスの口調を真似たところで、威厳までは出ないからね」


「妾、魔王側につこうかの」

なんかコイツ等、凄くムカつく。

アビスは地面に落ちている小石をぽんと蹴り飛ばした。


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