神
空は青く澄んでいた。耳を澄ませると木の葉のせせらぎや小鳥のさえずる声が聞こえる。
ネイチャーセラピーとでも言えばいいのか、自然の音は心と体をリラックスさせ、私を幾度となく眠りに誘ってくる。
良く寝たと目を開け、3秒も数えたなら再び瞼が重くなる始末だ。
「涎、でちゃう」
「あいも変わらず怠惰じゃの」
「怠惰でしゅ」
「しかし良いのか?無視しておいて」
「ほあ?」
何を?
主語なしで話すのやめてください。
日本人ですか?あなた。
「アイルの事じゃ」
「アイル?エルじゃなくて?」
聖女として祭り上げられていたエルは今、奇跡の巫女として、恐ろしく有名になっていた。
なんか知らんけど、私の功績が全部エルのものになっているのである。
聖女による奇跡の魔法が、魔神を討ち滅ぼした。
みたいな。
奇跡魔法っぽいのはアビスが放った魔法の方だから、手柄を取られたのは私じゃなくてアビスかもしれないけどね。
「エルは放っておいた方が面白そうじゃからな」
「確かに」
「しかしアイルの方は、恐らく面白い事にはなっておらぬぞ」
「まぁ、うん」
私が地下で穴を掘り、ニーズヘッグとエンカウントした日、地上では四天王ベリアルが勇者アイルによって倒されていた。
たまにチラ見していたから分かるけど、アイルとベリアルは、互いに死力を尽くして戦っていた。
どちらが勝利したとしても、満身創痍となる事に疑いはなく、ベリアルを倒したアイルが、力尽きるようその場に倒れたのは想像に難くない。
四天王を倒した勇者が、魔王城の近くで力を出し尽くして倒れている。
そんな美味しい状況を魔族が放って置くなんて事、あるはずがなかった。
結果、アイルは魔族によって誘拐され、今は消息不明となっていた。
アイルちゃん、神から任命されたゴリゴリの不幸属性ですし、まず間違いなく酷い状況に置かれていると思う。
死んでるなんて事すら、あるかもしれない。
「助けに行かぬのか?」
「私、魔王ですしおすし」
このまま勇者がいなくなってくれた方が、魔王様は安泰というものです。
「一応勇者(仮)でもあるではないか」
「(仮)だし」
エルとアイルの立場が逆だったら、苦楽を共にしてきたし、多分助けに行ったと思うけど、アイルにはそんな感情がわいてこなかった。
アイルは例えるなら、インターンシップで出会った他大学のライバルって感じだし、私の席を安泰させるには、船から降りて貰った方が良いのである。
「冷たい奴じゃな」
「これがアビスだったら、助けに行くけどね」
「そ、そうか」
「うん」
アビスが捕まるような相手とか、神ですか?ってくらいにはヤバい相手だと思うから、ちょっと考えた末にやめると思うけど、それは言わぬが花。
私は空気が読める女なのだ。
「しかし、お主は魔族に本当に嫌われておるの」
「え?いきなり何」
なになにちゃんが、木陰ちゃんの悪口言ってたよ、みたいな女子特有の報告いらないんですけど。
「魔族が勇者を、誰の目にも見える形で葬らなかったからの。魔王に忠誠心があれば?死体を串刺しで晒すなりするであろ?」
「私に献上しようとしてる可能性もあるじゃん」
勇者の脳と心臓を最も鮮度が保てる方法で用意しておきました。みたいな。
それはそれで、めっちゃ嫌だけど可能性はゼロではない。特に四天王ベルフェルは脳ミソマニアである事を考えれば、ゼロどころか50より可能性は高い気がした。
アイルの脳ミソ…。
嫌が過ぎる。
魔王城には二度と帰らないでおこう。
アイルちゃんがどれだけ酷い目にあっていたとしても、見なければノーカンだもん。
きっとアイルちゃんは、どこかで楽しく元気にしているに違いない!!
「可能性としてはあるかもしれぬが、妾が魔族であったなら、魔王を殺す兵器として活用するの。なんせ魔王は同胞達の敵であるし、世界に殺せと言われてもおる」
「えっ?」
いきなり怖い事言うの、やめて欲しいんですけど…。
「長命な魔族であれば、勇者が魔王の天敵である事は経験から理解しておるだろうし、高い鑑定眼を持っていれば、簡単に裏付けも取れる。最強の矛として磨き上げるのが正道であろ?」
「まるで、将棋じゃん」
敵の駒を利用して王手を掛けようとするなんて。将棋のルールはよく分かんないから、言ってみただけなんだけどさ。
「そうならん為にも、さっさと救いだした方が吉ではないかの?」
「ま?」
そう言われたら、助けた方が良さそうではあるけど…ま?
「魔王の剣と鎧を持った木陰には、例え勇者であっても、一矢すら報いる事はできぬであろうから、可能性を摘みたけれの話じゃがの。もっとも妾的には、あの鎧を装備せん方をお勧めしたいところではあるが」
「うん。わかった。ちょっと考える」
私的にもOLは正直二度と装備したくはない。というか、より装備したくない代物に変貌した。
アビスも気付けはアビスの杖を何処かしらに封印しているし、エフが創る装備は色々とヤバかった。
エルが聖女となって奇跡を起こし始めたのも、多分エフがハーミットを弄った結果だろうし、エフは紛れもなく世界のバグだった。
『木陰ちゃんも、世界にとっは十分過ぎるくらいにはバグですけどね』
「げっ、シーちゃん」
『お久し振りです。木陰ちゃん』




