魔族会議③
…。
……。
………。
誰も何も発しない。
通常の会議であれば、案は出尽くしたという事でお開きになるのだろうが、お開きにした所で何も変わらない以上、誰かが何かを言う事はなかった。
会議室で世界の最後を迎える。
これはもしかすると、世界一くだらない人生の終わり方ではなかろうか。
たが、突然奪われるのではなく、考えに考えた末奪われるのであれば、まだ良い方か…。
ベルフェルは今の状態を無理矢理良い方に考える。ただこんなのは、糞か糞にわいた虫の方がマシかといった程度の違いしかなかった。
結局は糞か、糞虫のような終わりでしかないのである。
「…っ」
ベルフェルか自身の最期について考えていると、世界が揺れた。
ビキビキと気色の悪い音が聞こえてくる。
それ等に加えて、不穏な空気が周囲を包み込んだ。
終わりを感じさせる不穏。
「ベルフェル様っ!!」
「慌てるな」
「しかし…」
「何も変わりはしない」
今更慌てた所で、無駄なのだ。
慌てるべき時期はとうの昔に過ぎてしまっている。
念話も途切れる。
防衛線は整えてある。最期に最大限の抵抗だけはするとしよう。
魔族のカリスマには遠く及ばないまでも、ベルフェルは魔族を掌握している。
策も何もないが、すべての魔族に対して花道は用意していた。
戦いになるかは甚だ疑問ではあるが、何もなく消されるよりは、最期まで戦ったという意識を持ったまま消される方が遥かにマシだろう。
『祈りなさい。聖女様の奇跡が、きっとあなたを救います』
『祈るんだべ』
とてもくだらない念話が届いてくる。
祈り?
祈り程度で一体何が変わるというのだろうか。
試してやろうという気すら起きない。
「…ベリルト、貴様何をしている?」
「祈っているのだよ。祈れと言われたからね。君も祈ってみてはどうかね?」
「あいも変わらずふざけた男であるな」
「僕は至って真剣だよ。君も祈り給えよベリアル。君達も、何もする事がないなら祈り給え。聖女様がおっしゃったのだからね」
ベリルトはニヤついた顔を隠す事なく飄々と言う。ベリアルの言う通り、ベリルトがふざけているのは疑いようがなかった。
参加不要と告げた会議に途中からとはいえ、参加した事に加え、参加したくせに一切の発言をしなかった事といい、何を考えているのか…。
「…」
「そこまで、疑いの眼差しを向けずとも、何も企んではいないよ。僕はただ見たいだけさ。聖女が起こす奇跡とやらをね」
「起こると思っているのか?」
「起きないとは限らないだろ?であれば試してみるのが合理的というものだよ。どうせ何の策もないのだからね」
「…」
ベリルトは口角を吊り上げたまま言う。
あまりに図星で、返す言葉もない。
「つまらないプライドで、最良の結果は得られないよ。ベルフェル。君はいつだって自分のプライドを優先し過ぎだ」
「なん、だと…?」
「ムキになった事こそが、その証拠だよ。利用できるものは全て利用したまえ。魔王とは元来そういうモノだ」
「…」
ベルフェルはギリリと歯を食い縛る。
なまじ正鵠を射ているだけに、言い返す事が出来なかった。
いや違う。
ベリルトの言葉は最もらしいが間違っている。
祈って死んだなどという事、魔族の恥も良い所ではないか。しかも、よりによって人族が祭り上げる、胡散臭い聖女の言葉だぞ?
ここは、こればかりは魔族として必要なプライドではないか。
「魔族のプライドなんてもの、死んでしまっては意味がないよ。万が一生き残ったなら、今度はそのプライドを取り戻す戦いをしたらいい。簡単な事だ」
「それが最も難しい」
「僕にとっては簡単でも、君にとっては難しい。実に面白い事だね」
『祈りなさい』
『祈るんだべ』
念話を通して聖女の声が聞こえる。
不快な声だとベルフェルは思う。
逆に不快だからこそ、本当に効果があるのではないかとも思う。
「君の祈りは魔族の総意。起きない奇跡の確率も、少しばかりは上がるのではないかな」
「ずっと心の片隅で感じていた事だが、確信した。私はお前が嫌いだよ。ベリルト」
「それは光栄な事だ。奇跡が起きた後は、ベリアルの二の舞いにならないよう、努力するよ。もっとも彼は君の策略で殺されたわけではないがね」
「起きると良いな奇跡」
ベルフェルは両手を合わせ、祈りを捧げた。
祈った事のないベルフェルは、果たして誰に祈れば良いのか分からなかったが、クソッタレな神にではない事は確実だった。




