魔族会議②
額に指を当てながら目を瞑り、ベルフェルは黙考していた。
三人寄れば文殊の知恵や塵も積もれば山となるといった諺があるが、ベルフェルは長きに渡る会議をもって、この諺が嘘である事を証明した。
三人寄った所で、まともな知恵は出なかったし、人族や魚人族のちりあくた共をどれだけ集めようとも、塵は所詮塵のままだった。
ただ、これは仕方がないとも言える。
アレはあまりに現実離れし過ぎている。
文字通り次元が違うというやつだ。
二次元の絵が我々を認識できないように、我々がアレを認識できないのは仕方がなかった。
魔王を滅ぼせという神の掲示があったにも関わらず、日常の穏やかな日々を過ごしているように、現実味があまりにないのである。
現実味がないというのは、物事を神格化させる。
多くの同胞を喪い、積極的に動いていた魔族達を見れば、その事が顕著に現れている。
魔王という忌むべき存在は時間の経過によって、憧れと尊敬に緩やかに変化した。
魔王を絶対的で手の届かない存在と認識する事で、自身の中にあった認知を都合が良いように塗り替えたのは明白だったが、そうさせるカリスマを、魔王は残念ながら持ってしまっていた。
悲しいかな、次元が違う存在に対して何もして来なかったという実績によって、我々は今まさに、何もできないでいた。
…。
……。
………。
会議室には、沈黙の帳が下りている。
念話で人族や漁人族と繋がっているにも関わらず、誰も何も発しない。
『…王様、我々を助けてくださった聖女様のお言葉を聞いて頂いてもよろしいでしょうか?』
『聖女の言葉?』
沈黙を破ったのは人族の女の声であり、ロスト王は疑問の声をあげた。
聖女?
さて、聖女とは一体何者なのだろう?
ロスト王は疑問に思い、ロスト王と同じように疑問を抱いたベルフェルは、明後日の方向に逃げていた思考を、頭の片隅てくるくると回した。
人族とは表ではバチバチに殺り合っている敵対関係ではあるものの、裏では汚い所すら舐め会う蜜月の関係を構築している。
それに加え、人族を一切信用していないベルフェルは、あらゆる所にスパイも忍ばせていた。
そんなベルフェルにしてみれば、聖女の一人や二人既に把握済みだったが、大々的にこんな場所に現れる聖女となると覚えはなかった。
聖女なんてものは、愚民共から金を巻き上げる穴だらけのシステムだ。
民衆の目に触れれば触れるほどその穴をつかれ、外圧によって縮小された結果、異教徒と呼ばれ忌むべき存在に成り果てる。
元々異教なのだから、スタート地点と変わらないと言われればそれまでなのだが、今後二度と日の目を浴びれなくなるのは、かなりの足枷だった。
正義を御旗に革命を起こすには、異教では駄目だからだ。
聖女…このタイミングで革命を?
狙うタイミングとしては悪くないが、世界が滅びるかもしれない時に…。
ベルフェルはじっと、誰もいない前の席を睨み付けた。
いざ目の前からいなくなるとなると、空席というのは寂しいものだった。
『はい。どうぞ聖女様の言葉をお聞き下さい』
『…構わぬ。今はどのような助言も大歓迎だ』
ロスト王はしばし思考した後答える。どうやら聖女とやらの助言を聞く事にしたらしい。
人族同士のいざこざをされるのは勘弁願いたいが、絶望的な状況である以上、どのような助言でも欲しいのは間違いなかった。
絶望的、か…。
なるほど。こういったタイミングで聖女が現れ、正しく導いてくれたなら、信者となって聖女を信仰するのも、分からなくはない。
聖女が奇跡を起こしたなら、それこそ盲目にもなるだろう。
『ありがとうございます。では聖女様、皆を導く言葉を』
『…祈りなさい。さすれば世界は救われるべ』
…。
……。
………。
沈黙の帳が下りる。
えっ、これだけ?
聖女の声を聞いた者達は皆、ポカンとした。
『そ、そうか…』
国王は戸惑いながら言葉を返す。
どんな助言も大歓迎とはいったが、とんだ助言には、何も返せないといって様相だった。




