激闘③
「ギシャアアアアアッ!!」
悲痛な声を響かせ、ニーズヘッグが天高く逃げていく。
ニーズヘッグから解放された私は、魔雷撃によって、周囲に砕け飛び散っていた岩の欠片を足場に駆け上がり、ニーズヘッグの背後を取ると、そのまま背中目掛けてオーバーロード(剣)を振り下ろした。
腕がさっくりと斬れた事を考えると、これで胴体も真っ二つである。
「…っ」
しかし、剣がニーズヘッグの背中を捉えた刹那、ニーズヘッグは目の前から姿を消した。
同じ言葉を繰り返したり、ギシャギシャしか言わないバカ野郎だと思っていたけど、ニーズヘッグは中々の戦闘巧者だった。
「シャハアアッ!」
オーバーロードを振り下ろし、隙だらけになった私の背後に、転移を使って移動したニーズヘッグが、龍爪を振り下ろしてくる。
「…っう」
戦闘巧者なら展開を予測して、同じように転移で避けるなりできたかもしれないけど、私は生憎と素人だった。
俺tueee状態で、結構な数の敵やら味方やらは倒してきたけど、戦いの経験値には一切なっていない。
就職活動で例えるなら、第一希望の超大手企業を、一社目から受けに行っているようのものだった。
いかに模擬面接で無双しようとも、本番は違う。御社が第一希望ですと嘘八百を並べながら、同等かそれに近しい企業での、戦闘は必須なのである。
しかもニーズヘッグは、エヌビディアのように唐突に訳の分からん成長をしてもいる。
前回手に入れた情報は全部古くて使い物にすらならない。学生泣かせの企業ってヤツ。基本スキルは大体同じではあるんだけどね。
てか、背中痛い。
「もうヤダ。帰りたい」
いつだったか、隣の就活生が面接官の質問というよりは詰問によって、ぼこぼこされて呟いた言葉を、私も気が付けば呟いていた。
「ギシャアアッ」
龍爪によって背中を攻撃してきたニーズヘッグが、再び転移を使い、落ちていく地上に現れる。
現れたニーズヘッグはデカい口を開けていて、見るからに炎を吐き出しそうな雰囲気を醸し出していた。
「圧迫面接止める気はなしってね」
死体蹴りは見ていてもやられても気持ちの良いものではない。
私は炎が口から吐き出されるよりも前に、魔氷撃を放った。
巨大な氷塊がニーズヘッグに降り注ぎ、氷塊は吐き出された黒炎によって、一瞬で蒸発させられる。
極寒の氷塊と灼熱の炎とがぶつかる事で、水蒸気爆発が起こり、視界が真っ白に染め上げられる。
魔氷撃なんて、ニーズヘッグの黒炎に比べればシャボン玉とガスバーナー位の差があり貫通は必至。
だけど私は黒炎に焼かれるよりも前に転移をしていた。
即席の煙幕ってやつ。
これで背後を取り返して、今度こそ胴体を真っ二つにしてやんよ。
私はニーズヘッグの背中目掛けて、オーバーロード(剣)を振り下ろした。
これで、チェックメイトだ。
そう思った刹那、ニーズヘッグのケツがばかりと開き、黒炎が噴射された。
「…っあ」
スカンクもビックリな高出力の放屁に、体が炎に呑まれ吹き飛んでいく。
体をうねうねと自由に変えるのだから、正面なんてないようなものだけど、油断した。
後、絵面的にはどう見ても屁だから、気分も悪い。
戦闘功者だな。あんたは世界最強で、力こそパワーって感じでどうにでも出来るんだから、戦いに工夫なんてしてくんなよ。バーカ。
メラメラに燃え盛る中、振り下ろされた龍爪をオーバーロード(剣)で受け止めつつ、私は心の中で毒吐いた。
ただ、朗報もある。
龍爪は痛いし、黒炎は熱いけど、我慢できないレベルではない。
感覚的には本当にハスキー犬とじゃれ合ってる感じ。首筋をマジの力でガブッとされない限り致命傷には多分ならない。
前回は檻から逃げ出したライオンのような威圧感が凄かったけど、ハスキーって聞くとなんとかなりそうな気もしてくる。
でも、150センチの女子とハスキーが全力で戦ったら、ハスキーに軍配が上がりそうではあるんだけどね。
「ギャルル」
こいつは私を殺す気満々だし。
「このっ…!」
せめて剣の才能があればな。
龍爪による連続攻撃に対し、首だけは守りつつ、魔風撃を使って、落とされた両腕を無理矢理方向転換させ、ニーズヘッグに向かって斬り上げを行う。
意表をついた攻撃だったにも関わらず、オーバーロード(剣)はニーズヘッグの爪に辛くも防がれた。
カーンと甲高い音が響き渡り、強い衝撃波によって私は大地に、ニーズヘッグは空に向かって吹き飛ばされた。
あの爪は何で出来てるんだろ。こちとら世界最高のオリハルコンやぞ。
ただ、何度か衝突して分かった事がある。あの爪はあの場所にしかない。
もし、お尻から炎を吐き出したように口やらなんやら自由に動かせるのなら、私にもっと容易く致命傷を与えられていたはずだからだ。
お尻も口みたいなものだから、動ごかしてないって?
はい、ギルティ。




